中小企業の「シン人材確保戦略」を考える

第32回

退職代行サービスの増加と入社後すぐ辞める若手社員への対応

一般社団法人パーソナル雇用普及協会  萩原 京二

 

新年度が始まり、わずか数週間で退職代行サービスの利用が顕著に増加しています。特に注目すべきは、新入社員からの依頼が急増しているという事実です。ある退職代行サービス会社では、4月の初旬に678件の依頼があり、その16%以上が新入社員によるものでした。これは前年同月の50件と比較しても大幅な増加であり、新しい労働環境に即座に対応できない若年層の厳しい現実を映し出しています。

依頼者が退職を決意する主な理由は、入社前の情報と実際の職場環境のギャップです。多くの若者が仕事の内容や労働条件が期待と異なることに直面し、精神的または身体的な不調を訴えるようになります。例えば、新卒で入社したある20代男性は、仕事の内容が希望と異なり、出勤前からの吐き気や勤務中の呼吸困難に悩まされています。

退職代行サービスの増加は、コミュニケーションスキルの低下や対人関係の希薄化が一因であるとも指摘されています。前述の退職代行サービス会社の代表者は、特にZ世代は自己表現が苦手であり、コロナ禍での非対面の生活がこれを加速させていると述べています。自力での退職が望ましいとしつつも、精神的な負担が大きすぎる場合は退職代行が有効な手段となるとしています。

一方で、雇用問題に詳しい専門家は、現代の若者はすぐに職場を変える傾向にあることを指摘しています。大手企業も含め、中途採用が増加しており、適切なマッチングを実現するためには、採用前のインターンシップや個別に合わせた育成プランの提供が重要だと説明しています。

ところで、従業員が退職代行サービスを利用するにあたっては、以下のような法的な注意点があります。

1. 退職通知の正当性

退職の意思表示は、法的には本人から直接行われる必要があります(弁護士が代理人になる場合は除く)。代行サービスを通じての通知が雇用主に受け入れられるかはケースバイケースです。退職の意思を明確にし、書面での通知を提供することが望ましいです。

2. 個人情報の保護

退職代行サービスに個人情報を提供する際は、その情報の安全な取り扱いが保証されているかを確認する必要があります。情報漏洩がないよう、個人情報保護法に基づく適切な処理が行われているかを検討しましょう。

3. 労働問題の解決

退職を希望する背景には未払い賃金や労働条件の不備など、解決すべき労働問題が存在することがあります。これらの問題は退職代行サービスを利用するだけでは解決されないことが多いので、労働基準監督署や弁護士などに相談することが有効です。

では、退職代行サービスを通じて従業員から退職の意思表示があった場合、企業としてはどのような対応をすべきでしょうか?

1. 正式な確認

退職の通知が退職代行サービスを通じて行われた場合でも、従業員本人からの退職意思が明確であることを確認するため、適切な手段を用いて本人確認を行うことが重要です。これには、退職意志が書面で確認できることが含まれます。

2. 退職手続きの正確性

退職には法的な手続きが伴いますので、企業は労働基準法をはじめとする関連法規を遵守し、正式な退職手続きを行う必要があります。これには、退職日の設定、残業代や未払い給与の清算、最終給与の支払いなどが含まれます。

3. コミュニケーションの維持

退職代行サービスが利用される背景には、従業員が直接対話を行うことに対する不安やストレスがある場合が多いです。企業としては、適切なコミュニケーションを保持し、退職する従業員に対しても敬意を持って対応することが重要です。

4. 未解決の問題への対応

退職意思の背後には、職場環境や人間関係、仕事の負荷など、解決されていない問題が存在することがあります。これらの問題に対して、適切に対応し、改善策を講じることが、将来的な人材流出を防ぐためにも重要です。

5. 社内ポリシーの見直し

退職代行サービスの利用が増えることは、場合によっては社内ポリシーの見直しを要するサインかもしれません。特に新入社員の早期退職が多い場合は、採用プロセスやオンボーディングの方法、職場のサポート体制などを再評価し、改善が必要か検討することが求められます。

企業としてこれらのポイントを慎重に考慮し、しっかりと対応することで、退職手続きを円滑に進めるとともに、残る従業員との関係も健全に保つことができます。また、これを機に企業文化や労働環境の改善につなげることが可能です。

退職代行サービスの利用増加は、企業にとって重要なシグナルです。これを機に、企業は採用プロセスの見直し、職場環境の改善、従業員支援の強化など、組織全体の人材管理戦略を再評価する必要があります。特に、新入社員の早期退職を防ぐためには、職場の現実と入社前の情報提供とのギャップを減らす努力が求められます。


 

プロフィール

一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二

1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。


Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会

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