第37回
クリエイティブな働き方の落とし穴:裁量労働制を徹底解説
一般社団法人パーソナル雇用普及協会 萩原 京二
先日、ある経営者と今後の働き方に関する意見交換をしていたところ、「うちの会社は裁量労働制で働かせている」との話がありました。そこで私が「裁量労働制を正しく運用するのは大変じゃありませんか?」と聞いたところ、案の定、裁量労働制について誤解をされていました。この制度は特に専門職や企画職などのクリエイティブな業務に適しており、従業員が自己の裁量で仕事を進めることができるという利点がありますが、その一方で適切な管理が求められる制度でもあります。そこで今回のコラムでは、裁量労働制の概要、メリット・デメリット、その効果的な運用方法について解説します。
1.裁量労働制とは
裁量労働制とは、従業員の労働時間を実際の労働時間ではなく、事前に労使間で合意した一定の時間を労働時間としてみなす制度です。この制度の下では、企業は従業員の出退勤時刻を厳密に定めず、従業員が自己の判断で業務を進めることができます。従って、企業側は残業や休日出勤の指示を行わないことになります。
裁量労働制は大きく分けて企画業務型と専門業務型の二種類があります。企画業務型は、事業運営に関する企画・調査・分析の業務を対象とし、専門業務型は法律で定められた特定の19職種が対象となります。
2.メリットとデメリット
裁量労働制には多くの利点がある一方で、いくつかの課題も存在します。
<メリット>
・人件費の予測が容易: みなし労働時間に基づいて給与計算を行うため、残業が発生せず、毎月の人件費が大きく変動することが少なくなります。
・残業管理の負担軽減: 残業時間の計算が不要になるため、管理者の負担が軽減されます。
<デメリット>
・導入手続きの複雑さ: 裁量労働制を導入するには、労使協定の締結や労働基準監督署への届け出が必要です。また、就業規則や評価制度の見直しも求められます。
・長時間労働のリスク: 勤怠管理が不十分だと、労働実態の把握が難しくなり、長時間労働が常態化する可能性があります。
・チームワークの希薄化: 出退勤時間が自由であるため、会議の時間設定が難しくなり、チームメンバーとの交流時間が減少しがちです。
3.労働時間管理の重要性
裁量労働制であっても、労働時間の適切な管理は不可欠です。その理由は以下の通りです。
・割増賃金の支払い: 休日出勤や深夜労働に対しては、割増賃金の支払い義務が発生します。これらの時間を正確に把握しないと、法的なリスクが生じます。
・従業員の健康管理: 長時間労働は従業員の健康を害する可能性があります。そのため、労働時間の上限管理や健康・福祉確保措置が必要です。
4.労働時間を正確に管理する方法
効果的な労働時間管理のために、以下の三つのポイントを押さえておくことが重要です。
(1)出勤簿やタイムカードの活用: 裁量労働制でも、通常の労働時間制度と同様に出勤簿やタイムカードで勤務時間を記録しましょう。これは、割増賃金の計算や労働実態の把握に必要です。
(2)事前承認制の導入: 休日出勤や深夜労働は事前に申請・承認を得る制度を設けることで、実際の労働時間を管理しやすくなります。
(3)勤怠管理システムの導入: 勤怠管理システムを活用することで、労働時間の自動記録・管理が可能となります。特に不規則な出退勤時間にも対応できるため、正確な勤怠管理が実現します。
裁量労働制は、従業員の自由度を高め、生産性向上に寄与する可能性がある一方で、適切な管理が求められる制度です。企業は、労働時間管理の重要性を理解し、出勤簿やタイムカードの活用、事前承認制の導入、勤怠管理システムの活用などを通じて、従業員の健康と福祉を確保しながら、効率的な労働環境を整備することが求められます。
プロフィール
一般社団法人パーソナル雇用普及協会
代表理事 萩原 京二
1963年、東京生まれ。早稲田大学法学部卒。株式会社東芝(1986年4月~1995年9月)、ソニー生命保険株式会社(1995年10月~1999年5月)への勤務を経て、1998年社労士として開業。顧問先を1件も持たず、職員を雇わずに、たった1人で年商1億円を稼ぐカリスマ社労士になる。そのノウハウを体系化して「社労士事務所の経営コンサルタント」へと転身。現在では、200事務所を擁する会員制度(コミュニティー)を運営し、会員事務所を介して約4000社の中小企業の経営支援を行っている。2023年7月、一般社団法人パーソナル雇用普及協会を設立し、代表理事に就任。「ニッポンの働き方を変える」を合言葉に、個人のライフスタイルに合わせて自由な働き方ができる「パーソナル雇用制度」の普及活動に取り組んでいる。
Webサイト:一般社団法人パーソナル雇用普及協会
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