「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第302回

決算説明だけでは足りない場合の対応策

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


金融機関に決算説明を行った企業から「今年は例年と反応が異なる」との声が聞こえています。これまでは決算説明した後に「今年は既貸案件の折返しを考える年ですね、どうしましょう?」と聞かれたのに今年はない。こちらから水を向けてもあいまいな返事しかもらえない(断られた)などの声です。

前回、企業の状況と書面での説明がなかったことが理由である可能性があるとご説明しました。今回も引き続き、この点を考えてみます。



企業の状況と書面提出の意味合い

金融機関への決算説明は、信頼関係構築に向けた足掛かりになります。決算書を提出するだけでなく実際に面談し、業績だけでなく事業環境、課題、対応策まで伝えることで、金融機関から「社長は誠実な経営姿勢だ、信頼できる」と感じてもらうのです。それが融資の継続性や条件に好ましい影響を与える可能性もあります。


但し、決算説明すれば必ず願っていた融資が得られるかというと、そうはいかない可能性があります。理由の第1が企業の状況で、赤字が続き債務超過になってしまうと、金融機関としては前向きな姿勢を続けるのは難しくなります。「事業改善に取り組んでおり回復基調にある。それなのに認めてもらえなかった」というなら、書面で説明しなかったことが理由なのかも知れません。

金融機関は融資するか否かを決める意思決定で、多くの人が関与します。支店で判断できる融資金額範囲内でも担当者→役席→支店長と最低でも3人が関与し、その金額を超えて本店部署のりん議が必要な場合にはもっと多くの人が関与します。もし、この中で経営者から直接に話を聞いているのが担当者だけだった場合に、他の者は担当者の話を鵜吞みにするでしょうか?

皆さんの事業で考えてみましょう。担当者が見積書を取らずに「あの会社は格安の値段で提供してくれるそうだ」と言っても「まずは見積書をもらおう。話はそれからだ」と答えるでしょう。

金融機関も同様です。担当者の「あの会社経営者の言葉によると回復基調にあるそうです」という言葉を疑う訳ではありませんが、経営判断するには書類を受け取ることが前提となります。



事業計画書と直近残高試算表の提出を考える

「事業改善に取り組んで回復基調にあるのに、認めてもらえなかった」という場合、その取組みを事業計画書としてまとめると共に、直近の残高試算表(月次推移表)を添えて提出するようお勧めしています。最初はシンプルな形で構いません。まずは「事業改善に取り組んでいること」と「回復基調にあること」を書面でもって納得してもらうことがポイントなのです。

その納得を引き出した上で金融機関が「融資できるとの判断を出すためには、もう少し情報が必要だ」と考えるなら、要望してくるでしょう。現在では金融機関が設けている専門家派遣制度などを利用して、専門家の手も借りて作成するよう段取りを行ってくれるかもしれません。


金融機関が事業計画を見る時に最も関心を持つのは2点、「今取り組んでいる事業改善行動が合理的で効果が見込めるか?」と、「計画通りに改善が進んだとして、企業体質が改善され強化されるのか?」です。後者からご説明すると、それは数値計画パートで読み取ります。赤字から黒字に転換、累積赤字(債務超過)が解消される計画か、その進展は力強いかなどを確認するのです。

一方で計画・取組みの合理性は、まず、自社と事業環境の両面で率直な分析がなされているかで確認します。次に取組みの合理性をチェックします。自社の強みを生かせ、事業環境の追い風に乗れる策が選ばれているか、弱みが致命傷にならない措置が取られているか、危機への配慮があるかなどをチェックするのです。

策の合理性確認は時として困難です。この場合には「策を実施したので直近に改善の兆候がある」と説明、納得を引き出すアプローチがあります。直近の残高試算表(月次推移表)で「ここで売上・利益が改善しているが、これが事業改善取組の成果だ」と説明するのです。


「過去は変えられないけれど未来は変えられる」との言葉があります。現在の行動がトレンドを変え、今まで見えてきたのとは違った未来をもたらすのです。事業計画書の策定と月次残高試算表の提出が未来を変える可能性があります。金融機関とのコミュニケーションを密にして、自らの可能性を切り拓いていきましょう。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真はCopilot デザイナーにより作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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