「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第309回

政変から学ぶ期待コントロールの大切さ

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


石破総理大臣の辞任は、何が理由だったのか?政治に関わらないことを旨とする本コラムですが、会社活性化のヒントを得るため、本小シリーズ(3回)では特別に検討しています。今回は企業活用の2回目です。



石破総理の辞任に繋がった「期待」

昨年の石破内閣成立時、筆者の周囲には期待の声が高かったことを思い出します。従前の自民党総理大臣とは異なり、大企業ではなく中小企業や庶民に目を向けてくれるとの期待です。当時は(今でも)日本全体が物価高や労働者不足等に翻弄されて生活を維持することに、あるいは生活そのものに困難を感じる人が多くいました。

コロナ禍を乗り越え大企業を中心として活況といえるレベルにまで景気が回復したとはいえ、中小企業や一部業種に属する企業は不調から脱することができず、憤まんが高まってもいました。景気回復の恩恵は大企業が独り占めしている感がありましたから、多くの国民が「石破総理なら、大企業から利益を吐き出させる奇策を考えてくれるかもしれない」と期待したのかもしれません。


しかし結果として人々は「その期待は裏切られたと」と感じたようです。自民党は衆議院、東京都議会そして参議院と選挙に立て続けに敗北、責任を問う声が高まり抗えなくなって石破総理は退任したのです。


良く考えると資本主義で法治国家である日本で「大企業から利益を吐き出させて国民や中小企業に配分」させることは不可能です。このように考えると「大企業中心の体制への反対勢力だからこそと、あり得ない成果を期待され、それを実現できなかったので失望を生んだ」という側面があるのではないかと感じています。



今、企業にも「期待」が問題になりつつある?

同様の現象は、中小企業の経営者にも発生する可能性があります。「今、賃上げが進み、最低賃金が大幅に引き上げられた。政府も物価高騰の中、国民生活を守るために賃金を引き上げるよう、企業に強く勧めている。今度は我が社の番、私の給料が増える番だ」と社員は考えているかもしれません(その可能性が高いと考えられます)。


一方で経営者は「会社は儲かっていない中、労働分配率は既に80%半ばを超えている。どう頑張っても賃金を引き上げる余裕はない」と考えているかもしれません。社員の期待は経営者にとって、現状からすると実現するのはとても難しい期待に思えてしまうのです。


この状況で「期待を抱くのは勝手だから」と、何の対処もしなくて良いのでしょうか?石破政権の事例は、それは危険だと教えてくれます。実現しなければ社員のモチベーションが低下し、仕事に身が入らなくなったり、離職者が出るなどの悪影響が生じる可能性があるのです。



期待をどのようにコントロールできるか

「社員は賃上げを期待する一方で、会社には原資がない。八方ふさがりだ」実は、八方はふさがっていません。売上・利益が増えれば賃上げは可能です。「こんな事業環境では、それは簡単ではない。社内一丸の取組みが必要だ。」その通りです。まさにそのことを社員に伝える必要があります。期待を、コントロールするのです。


現在、社員は「会社は政府の勧めを聞いて賃上げすべきだ。私はそれを待っている」と考えているでしょう。『棚からぼた餅』的な期待です。しかし企業は、売上・利益が拡大すれば賃上げできる、それがなければ難しいと考えています。『努力すれば報われる』という期待です。


経営者は「社員が『棚からぼた餅』期待を抱いている」と感じたら、それを放置しない方が良いでしょう。「そうではなく『努力すれば報われる』期待を抱こう。社内一丸となって売上・利益を増やすのだ。社員と会社が共存共栄する道を進もう」と提案するのが良いのです。


実は石破政権も、中小企業が儲かる体質に変わるよう、様々な政策を打っていました。自助努力を推進しつつ、それが実を結べるよう助ける政策です。にもかかわらず、それをあまり告知しなかったと感じます。

もし大々的に告知して、国民が「座して待つのではなく、自分たちも汗をかいた方がより大きな成果が、より早く手にできるだろう。政府が強力に後押ししてくれているので、頑張ってみようか」と考えるよう期待をコントロールしていれば、今は違った状況になっていたかもしれません。企業も同様に、期待のコントロールが大切なのです。




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なお、冒頭の写真はChatGPTにより作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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