「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第300回

中小企業白書が勧める中小企業の経営力

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


今年の中小企業白書(以下「本書」といいます)では、成長・発展と課題解決の両方を実現するため、中小企業経営者の「経営力」がポイントだと指摘されています。今回はこの点を考えてみます。



「知られた打つ手」を実行していく経営力

構造的な人手不足や物価高などが継続する中で「金利のある世界」や「国を挙げての賃金引上げ」に突入したことで、企業は生産や投資の場面でこれまで以上のコスト増に立ち向かわなければならなくなりました。

だからといって雇用の7割を占める中小企業や小規模企業が賃上げを実現・維持できないと国全体が失速、国民生活に影響を与えかねません。板挟みの状況である中小企業の気持ちは百も承知ながら「是非ともここで頑張ってくれないか」とのエールが送られている状況と感じます。


では、精神論で立ち向かわなければならないのか?「状況を冷静に分析すると、打つ手がない訳ではない」というか「打つ手があると知られてはいるのに、あまり取り組まれていない。是非ともここに踏み込んで欲しい」というのが、本書のメッセージだと感じます。

生産性向上に資する設備投資やデジタル化、価格転嫁による適切な価格設定など、労働生産性を向上させる選択肢がいくつも考えられる中で、それらが実行されていないケースが多いとの認識です。そこに敢えて踏み込んでいくよう、本書は期待しているのです。


ではなぜ「知られた打つ手」が実行に移されないのか?様々な要因が関係していますが「失敗するのではないか、それは避けたい」との想いが強いからかも知れません。

では、失敗可能性もある手を敢えて打って成功した企業・経営者は、失敗が怖くなかったのか?たぶん、そうではないでしょう?逆に、平均的な企業・経営者よりも失敗への懸念感度が高いことが多いとの感触です。

ただ成功した企業・経営者は、その懸念に抑え込まれることなく「成功するには何をすれば良いのか?それは自社にも実行可能で、成功にたどり着けるものか」までも真剣に考えた上で、着実に実行したものと考えられます。本書では、その能力を「経営力」と称しているようです。



白書が定義する経営力と「個人的側面」

本書では「経営力」を、中小企業の成長や持続可能性の向上に寄与し得る、経営戦略の策定力及び経営資源のマネジメント力、経営者の成長的志向、従業員にとって健全な環境や待遇を整備する能力等と定義しています(本書P.68)。

あるいは、経営計画策定・実行、差別化や市場環境を意識した適切な価格設定を行う戦略的経営という「戦略策定面」、経営理念、業績・経営情報の共有を重視するオープンな経営、賃上げ、社内コミュニケーションという「組織人材面」、そして異業種・広域ネットワークで他の経営者と交流し、学び直しに取り組む経営者の成長意欲の高さという「個人特性面」という切り分けもなされています(概要P.3)。


ここで注目されるのは、後者の切り分けにおいて特に「経営者の経営力の向上」が重要だと指摘されていることです。具体的には経営者によるリスキリングや学びの他、経営者ネットワークの活用、特に自身と境遇の異なる様々な経営者と関わる機会が成長意欲を高めると指摘されています(本書P.171)。

中小企業の事業改善支援を本業とする筆者からすると、経営力を以上のように捉えるのは限定的に過ぎないかとの懸念があります。一方で、事業改善をスタートさせ、成功させようとする時に「経営者の姿勢・意気込み」がポイントになるとの指摘には、大きく頷きます。


事業改善が成功するか否かは、経営者の姿勢・意気込みに左右されることが多いからです。これには、多大な困難が予想される取組に敢えて飛び込んでいく局面では経営者の積極性がポイントになるという意味合いもあれば、トライしさえすれば成功可能性は高い、あるいは万一失敗してもダメージは少ないと予想される局面で消極的になってしまうことが、抱え込む必要のないリスクを招来してしまう結果になるという意味合いもあります。

このような状況下、経営者の姿勢・意気込みを高揚させるには他の経営者との交流が鍵になるという指摘にも賛成します。筆者も改善に向けて腰を上げない経営者に「積極的に取り組んでいる経営者と交流しましょう」と紹介することがあるからです。


以上の意味で今年の白書は、積極的な取組みを行うよう中小企業経営者に向けて、実務的な提案がなされており参考になると感じています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>





【筆者へのご相談等はこちらから】

https://stratecutions.jp/index.php/contacts/




なお、冒頭の写真はCopilot デザイナーにより作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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