第177回
事業承継できる会社になる
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫

中小企業の事業承継を円滑化するポイントの一つに、代表者が債務保証しなくても済む会社にしておくことがあります。以前は中小企業の法人代表者は債務の保証人になるのが当然でしたが、最近では免除される例もあります。金融機関は「経営者保証ガイドライン」に基づいて保証免除の可否を考えるので、これを知って対応することがポイントになるのです。
経営者保証ガイドライン
経営者保証ガイドラインはインターネット上で公開されています。この機会にぜひ、ご覧下さい。
https://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/guideline/
金融機関は代表者保証免除の希望があった場合には、次の条件を軸に検討するとされています。
①法人と経営者との関係の明確な区分・分離
法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等)を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど
②財務基盤の強化
財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化するなど
③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
資産負債の状況(経営者のものを含む)、事業計画や業績見通し及び進捗状況等について、債権者から情報開示要請があれば正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明し、経営の透明性を確保する(外部専門家による情報の検証、事業計画・業績見通し等に変動が生じた場合の自発的に報告などにも努める)など
まず、金融機関にとって「貸出金が全額返済される」ことが大命題であることを念頭に置いて下さい。もちろんお金を貸すことを「リスクを取る」と表現するように、全案件が完済されなければダメだと考える訳ではありません。しかし特に低金利時代においては、貸倒れを最小限に抑えなければ金融機関のビジネスが成り立ちません。利率が1%だと1,000万円の貸出で得られる1年間の利息は10万円(定額返済がない場合)、もし1,000万円の貸倒れが発生するとは、他の100件分の利息が消失してコスト倒れになることを意味しているのです。
法人と経営者との関係の明確な区分・分離
例で考えてみてください。皆さんが取引先企業から「貴社からの注文をこなすためには前金が条件」と言われて支払ったのに注文品が届かない。理由を聞くと「あのお金は社長が個人的に必要だったので流用した。このため資金が不足し、受注に対応できていない」という企業と取引を続けられるでしょうか?金融機関も、企業は立派だったとしても、社長が私用でお金を流用している企業に無担保で貸し出すのは困難です。経営者が「会社の財布は私の財布」とは考えず、自分と会社を明確に区分・分離していることが必要なのです。
財務基盤の強化
また例で考えてみてください。皆さんが前金の支払いが必要となる取引を始める時、相手方企業が明らかに儲かっておらず、借金の返済のために借金を重ねている企業を選びたいと思うでしょうか? 金融機関も同様に考えます。「しかし事業を継続するには資金が必要だ。お金がなければ舞い込んだ注文にも応じられない。資金調達が必要だ。」確かにそうです。この場合には、万が一の時も回収できるように担保や保証人を提供してもらって対応することになります。無担保での対応は困難なのです。
財務状況の正確な把握等による経営の透明性確保
もう一度、例で考えて頂きましょう。皆さんが前金の支払いが必要となる取引を始める時、ホームページには「1日100個の生産能力がある」と記載されていたので80個の注文なら最短のスケジュールで対応してくれると思っていたのに、実は過大な能力が記載されていて「加工だけでも1週間はかかる」と言われた場合、取引を継続したいと思うでしょうか。金融機関も同じ気持ちです。在庫として資産計上されたものが実はクレームの返品で商品価値がないなど、決算書を信じると企業を過大評価してしまう状況等は避けたいと考えています。
経営者保証ガイドラインに挙げられる3項目を読むと「高飛車な要求だな」と感じてしまうかもしれませんが、実は、企業同士の取引でもトラブルを避けるため普段から留意していることと同じであることが、ここで理解できたと思います。経営者保証を免除してもらいたいなら、企業間取引で新規先を拡大したい時と同じように、自社の磨き上げが不可欠なのです。(時にはピカピカの企業でも事業承継できない場合がありますが)多くの企業において、会社の磨き上げが事業承継を円滑化するカギとなると考えられます。ぜひ取り組んでみてください。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。
<印刷版のダウンロードはこちらから>
https://www.innovations-i.com/shien/id/panf_id/?id=455
なお、冒頭の写真は 写真AC から月舟さんご提供によるものです。月舟さん、どうもありがとうございました。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。
平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。
現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions