
前回の「カンフル剤に頼らない経営を考える」記事について「政府の景気対策を当てにしないとすれば、どんなビジネスが良いのか」とのご質問を頂きました。働く人々が持つ能力や「こんな分野で貢献したい」という想いなどが千差万別なので一概に「このビジネスが良い」とは言えません。一方で共通なトレンドはあります。考える一助にして頂きたく、簡単にまとめてみます。
「在宅勤務」というトレンド
新型コロナウイルス感染症の拡大で急速に進んだ現象の一つに「在宅勤務」があります。7月下旬に政府は、7割在宅勤務を経済団体に要請する予定と発表しました。在宅勤務は「頼まれました。だから対応します」で可能になるものではありません。仕事をこなし、上司や同僚等とコミュニケーションするにはパソコンやインターネット、それらを安全に運用するセキュリティなどが必要になります。「在宅勤務や客先での作業など遠隔勤務が進むと生産性が大幅にアップするはずだ」と言われていたにも関わらず、日本ではこれまで進んでいませんでした。これがコロナの影響で一気に進んだのです。
在宅勤務で働き手の行動が大きく変化しました。ランチを自宅で取るようになったので、住宅街でデリバリーの需要が増えるだけでなく、新たな調理器を買い求め、レシピサイトを活用する人が増えました。一方でビジネス街の飲食店は苦戦し、通勤の衣服を着る回数が減ったのでビジネススーツを扱う店の中には半額セールを始めるところがあります。自宅に働くスペースを設けるため断捨離して模様替えしたり、リフォームや引っ越しをした人までいます。買う場所・買う物品が変化したのです。
「こんな現象は一時的。在宅勤務だと生産性が低下すると言われているので、コロナ禍が終われば企業は働き手を通勤させるようになるだろう。」そうでしょうか?企業経営者やマネジャーからは、特に規模が比較的大きく好調な企業で「在宅勤務に切り替える。旧には戻らない」という声を多く聞きます。通勤手当や残業手当などまで考えると、企業としてのコストパフォーマンスはあまり低下していないのです。「コロナ禍が終われば元に戻る」と考えるのは、楽観的に過ぎると感じられます。
IT化という軸を加えると
在宅勤務の一般化で、ビジネスはどのように変化するでしょうか?「我が社のビジネスには追い風になりそうだ」、「当店にとっては逆風だ。途方に暮れてしまう」どちらの感想も、正解とは言えないと思います。検討に加えるべきトレンドは在宅勤務だけではありません。在宅勤務を可能にしたIT化というトレンドもあります。これを利用すれば情勢が変えられるかもしれません。
これまで何度かご紹介したように、あるレストランは、コロナ禍による自粛で来客数が極端に減少してしまったので通信販売に舵を切りました。店舗で出していた料理をパッケージ化して、全国に売り出したのです。通信販売が可能になったのはITを上手く活用したからです。料理の盛付け例など写真が豊富なサイトを見て、多くの人が「評判のレストランで提供される料理を取り寄せて、自粛生活の彩りとしよう」と注文しました。経営者が参加する異業種交流会メンバーも多く利用するSNSと連携して「友達、その友達、さらにその友達」にアプローチすることもできました。一昔前なら「レストランから通信販売への業態変化は可能だが、売る方法が分からない」と思っていた壁を、今や打ち破ることができるのです。
ITが結ぶ「人との連携」
今年発表された「2020年版 中小企業白書・小規模企業白書」には早くも「新型コロナ関連部分」が掲載され、ユニークな取組みを行った企業の紹介もありました。
その中で面白いなと思ったのは、ユーチューバーと連携して工場見学動画を投稿した企業です。もともと毎月行っていたオープンファクトリー(工業見学)が開催できなくなったところ、ユーチューバーと組んで動画を投稿して好評を博し、コロナ禍にも対応できたとのこと。IT化を機材・ノウハウの導入に終わらせず、人との連携まで広げて捉えた成果と言えそうです。
トレンドに逆らうのは困難ですが、トレンドを捉え、自由な発想で活用できると、これまでの壁を乗り越えたり、思わぬ効果が得られる場合があります。みなさんも是非、トレンドを活用した起死回生策を考えてみてください。会社を救うカギが見つけられるかも知れません。
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本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。
なお、冒頭の写真は写真ACからacworksさんご提供によるものです。acworksさん、どうもありがとうございました。