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「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第253回

「ほどほどで良い」意識の罠を避ける

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



7月に入りました。3月決算企業が前年度決算報告を行い、資金調達の申入れをするタイミングです。ここに来て「期待していた融資が得られなかった」という声を聞くようになりました。業績が回復しているのに銀行が首を縦に振らず、窮地に陥りそうだという声もあります。今回は、この現象について考えてみます。



金融機関が企業を見る視点

資金調達できない企業の形態例として、今回は「2023年3月決算(以下、「前期」と言います)は、前々期より売上・利益が改善したにもかかわらず融資が得られなかった」という企業について考えてみます。この企業は、前々期は売上の10%にも及ぶ赤字だった(売上が損益分岐点を大きく下回っていたことによる)ところ、前期は売上が20%増加、赤字も解消して収支トントンまで回復させたにもかかわらず融資を断られました。売上が目覚ましく増え、収支も改善している企業からの融資申し込みを、なぜ金融機関は断ったのでしょうか?


今、企業について損益計算書の視点で表現しました。一方で貸借対照表の視点では別の風景が見えてきます。新型コロナウイルス感染症が蔓延した影響で、2021年3月決算で売上は40%も減少、大きな赤字を出して資本金の数倍にも及ぶ債務超過に陥ってしまいました。前々期は売上が10%以上増加しても赤字であることには変わらず、債務超過額も2倍近くに増大しています。前期は わずかながらも黒字に転換できたので債務超過額は増やしていませんが、資本金を大きく上回る債務超過が存在していることに間違いありません。債務超過解消年数は30年以上にもなる計算でした。


ちなみに「微々たる利益と減価償却費」を毎月に換算すると、既存借入に係る毎月返済額の1/4以下にしかなりません。当該社は設備産業なので、減価償却費を全て返済に回すのは危険で維持・修繕や更新に備えてキープしておくことが望まれ、それを全て返済に回したのでは事故などのリスク対応力がかなり弱まります。それを覚悟で返済しても定期的な折返し融資が必要で、債務も減っていかないのです。債務超過で、かつリスク対応力も脆弱な状況がかなりの長期間続くと考えられる当該社は、金融機関にとって融資は非常に困難な会社なのです。



ほどほどにしておこう病

一方で社長は「これほど目覚ましく業況改善したので、そこに注目して融資してくれて良いではないか」と憤慨しています。理由を探るべく財務諸表・月次試算表を見せてもらうと気が付いたことがありました。昨年の春はまだ売上は十分でなく単月赤字であるところ、夏にかけてかなりの勢いで売上を伸長、秋口には単月黒字を達成しました。そのままの調子で進むと年末そして年度末の需要期に更に売上を増大、利益を積み増すことができそうな勢いだったのですが、パッタリ止まっています。


このため「3前期・前々期・前期と続く改善の勢いが今期も続くと期待できる」か、「改善は前期秋口でピークを迎え、今期以降は現状維持か良くても微増に留まると推測される」のかと問われると、後者の可能性が高いと言わざるを得ない状況でした。キャパシティー面では、コロナ禍前はずっと大きな売上・利益をあげており成長余地があると認められ、社長も「今期も前期までと同じ調子で改善していき、大きな利益を出せる自信がある」と言っていましたが、信じてもらえなかったようです。


なぜ昨年秋口で改善が頭打ちになってしまったのか?「売上が十分拡大したので、今後はほどほどにしておこう」との意識が社内に蔓延してしまったのではないかと疑われました。質問すると社長からは当然に「手抜きはしていない」との返事でしたが、深堀すると「営業で訪問件数目標未達が続いている」などの答えが返ってきました。


さらにその理由を聞くと「コロナ禍で面談できなかった顧客担当者と久しぶりに会え、懐かしく雑談が弾んでしまった」とか、「現場担当者から『最近、忙しすぎる』と不平が出ているので、少し手控えている」等の現象があるとのこと。実際、社内に「ほどほどにしておこう」病が蔓延していたのです。この状況を経営者が認識・問題意識を持っておらず、対策を打とうとしていないことが一番の問題と感じられました。


企業は自社を「改善の程度」などで評価しがちですが、金融機関は「返済を継続できる企業か」で評価しています。債務超過など金融機関にとって融資困難な企業が「目覚ましく改善したので、これからはほどほどにしておこう」と考えてしまうと、命取りになりかねません。「そんなこと、気付かれるはずがない」と油断することなく、経営改善に邁進するようお勧めしています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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なお、冒頭の写真は 写真AC からアディさんご提供によるものです。アディさん、どうもありがとうございました。






 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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