第117回
ビジネスモデルの転換も視野に入れる
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
コロナ禍が冬に始まったことから「高温多湿な梅雨~夏になれば新型コロナウイルス感染症も下火になるのではないか」との期待があったと見受けられますが、そろそろ梅雨も近付こうとする今も、東京では予定していたレベルにまでは新規感染者が抑え込めていないようです。以前から一部に声があがっていたように、半年から一年以上のスパンを前提にした対応が必要かもしれません。
それはつまり「3密(密集・密閉・親密)」を避ける「新しい生活様式」を継続しなければならない可能性があるという意味でもあります。「なんだ、面倒臭い生活様式が続くのか」実は、それ以上を意味するかもしれません。少なからぬ中小企業にとって、この変化は、ビジネスモデルの転換までも求める可能性があります。
従前のビジネスモデル
これまであまり意識されていなかったのではないかと思いますが、今まで多くの業種・業態・場面で採用されていたのは「3密状態の実現により儲かる構図を作り上げる」というアプローチでした。例えば飲食店では「収益を増加させるアプローチとして客単価を上げる方法もあるが難しいので、客数を増やす」との方向性が採用されました。もっと砕いた表現をすると「顧客を狭い空間に押し込めて定員を増やす。居心地が悪さから早めに店を出るよう促して回転数を上げる。ただし顧客には『これだけ安かったのだから、仕方ない。トータルで考えるとコストパフォーマンスは高い』と考えてもらい、リピートしてもらう」というアプローチです。
しかし新型コロナウイルス感染症が蔓延して、情勢が大きく変わりました。飲食店のカウンターやテーブルでは、3密防止のため座席に「×」印が貼られています。一つ置きだと定員は半分です。今まで1時間に40人のお客に定食を提供してきた飲食店が、今は20人しか提供できないとなると、固定費を顕著に減少できなければ赤字化してしまうでしょう。実際、このような現象が今、飲食店をはじめとして多くの業種・業態で生じています。
この状況が短期的なら「しばらくは歯を喰い縛って頑張ろう」で済むと思います。一方で当面の間は継続すると見込まれるなら、固定費削減のため体制を変えなければなりません。もっと長期化するなら「我が社が儲けを出す原理」すなわちビジネスモデルを変更することも視野に入れる必要が出てきます。
「新たな生活様式」が意味すること
3密防止のため定員を半減したとしても利益を出すため、次に何をすべきか?アプローチは2つあります。「1時間当たり顧客数を以前と同じにするため、客の滞在時間を半減させる」もしくは「顧客数は増やせないので、単価を上げる」です。いずれの案を採用するにしても、それは、今までとはビジネスモデルが違うということです。
「ビジネスモデルだなんて大袈裟な。例えば飲食店なら『食事の提供』の微調整に過ぎないので、行き当たりばったりで対応すれば良いのだよ。」確かに、この試みに初めてトライする企業では、対応は行き当たりばったりだったと思います。しかし、リーマンショックや東日本大震災などで従来のお客様を失ってしまった企業は、新しい顧客を獲得するため行き当たりばったりで対応しているうちに、「当店の今のビジネスモデルは昔とは大きく異なる」ことに気が付きました。そして今、コロナ禍対策が必要になると「またビジネスモデルを変えなければならないな」と考えて、手早く対策を始めています。
例えば定食屋が、単価を上げるアプローチを採用したとしましょう。同じメニューのまま単価を上げる訳にはいかないので、良い材料を仕入れ、手の込んだ料理法を採用します。お客様をお待たせする時間が長くなるので、その時間も演出します。食前酒の用意だけでなく、店舗改装も必要でしょうか。店員のマナーにも気遣います。こうやって定食屋が洋風レストランに変身したのです。
この変化を行き当たりばったりで行うと、時間がかかり、その間は調和が損なわれます。料理やサイド・メニュー、提供する飲料、お店の内装・雰囲気、店員の応対がバラバラなので共感が得にくく、既存客を逃して新規顧客を獲得できないのです。この期間を短縮するためにはどうしたら良いのか?「今、進行中なのはビジネスモデルの転換だと認識して、戦略的に計画を練って対応する」ことがポイントになります。リーマンショックや東日本大震災で経験を積んだ企業の多くは、今回のコロナ禍ではビジネスモデル転換する戦略計画を早めに立てて実行しています。それが素早く、成功確率を上げる方法であることを経験から知っているのです。
「しかし当社は、そんな対応は初めてだ。どうすれば良い?」支援を受ける方法があります。地元自治体や商工会議所などの多くは経営相談窓口を設けています。StrateCutionsでもご相談に応じています。必要な対策に乗り出せるよう、是非、一歩を踏み出してみてください。
<本コラムの印刷版を用意しています>
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。
なお、冒頭の写真は写真ACからphotoBさんご提供によるものです。photoBさん、どうもありがとうございました。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。
平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。
現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions