「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第305回

最低賃金引上げに対応する方向性

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



最低賃金がこれまでになく引き上げられ全ての都道府県で1,000円の大台に乗りました。政府主導の声掛けに大企業を中心に呼応した結果として平均賃金が上昇していることと、それでも物価上昇には追い付けていないことが要因と考えられます。今回は、このトレンドをどう解釈し、中小企業がどのように対応すべきかを考えます。



複合要因により不可逆に物価が高騰するトレンド

どうして賃上げが必要なのか?物価が高騰しているからです。ではなぜ物価が高騰するのか?理由はいくつかあります。第1として原材料やエネルギーなどの世界的価格上昇に加えて、第2に「どんな商品でも上手く売れば(転売すれば)儲けられる」意識の浸透があると考えられます。使わなくなった家財等をインターネットで売るのは問題ありませんが、コメなどが投資商品化すると国民生活全体を揺るがす物価高騰を引き起こします。

加えて第3として「他国が『日本は安価』なことに気が付いて購買意欲を高めている」ことも挙げられます。北海道の有名スキー場で昼食弁当が数千円に高騰したとのニュースを耳にした方も多いでしょう。観光客は世界の他有名スキー場と同程度価格まで許容するので、どんどんと高騰するのです。東京23区のマンション価格が平均で1億円を超え上昇を続けているとの報道がありますが、これも同じ原理だと考えられます。


このような理由で物価が高騰しているので、物価上昇が沈静化して更には下降すると期待するのは無理があると感じられます。第1の理由による物価は、原材料やエネルギーなどの世界的価格が下降すれば同調すると考えられますが、第2・第3の理由での価格は、更に上げる圧力はあっても下げる圧力があるとは考えられません。世界の景気が全体として低迷すれば軽減される可能性はありますが、逆に世界の景気は特段に悪化していない中で日本だけが悪化すると「買い叩き」が進行すると考えられます。

このように複数の、沈静化が望めない強力な圧力がかかっているので諸物価の高騰は続くと考えられ、このため賃金も高めていかざるを得ない状況になっている、これが現状の真相と考えられます。



「もっと儲ける」を真剣に考える必要性

物価上昇が一時的現象でもなく、以前の水準に戻る可能性も少ないなら、働き手は給料が増えなければ生活できません。彼らを雇う企業には賃金引上げが求められます。「利益を溜め込んでいる大企業は可能かもしれないが、中小企業には難しい。」その感想には筆者も「もっともだ」と考えます。しかしこの状況で賃金を引き上げない企業から働き手たちは逃げてしまうでしょう。企業の存続そのものが難しくなってしまうのです。

このため持続化を目指す企業は賃金引上げに前向きに取り組むことが必要です。「中小企業の労働分配率(企業の付加価値のうち人件費が占める割合)が80%代後半となっている状況でこれ以上、高めるのは無理だ」との声もあるでしょう。筆者もその通りと思います。このためまず付加価値を増やす、労働生産性を高める必要があります。「もっと儲ける」ことがポイントなのです。


中小企業はどうしたらもっと儲けられるか?「売上を増やす」、「売上に占める原価割合を下げる(原価削減)」、「経費を削減する」の3アプローチしかありません。このうちBtoBビジネスであれば売上増大策として価格転嫁が可能です。今、政府が大企業に「中小企業が賃金引上げや自社持続化の原資にできるよう、取り分(利益)を譲る」よう声掛けしており、機運は高まっていると感じられるからです。しかし中小企業が依頼しなければ値上げは実現しません。積極的(かつ上手)な声を中小企業から発することがポイントです。

価格転嫁以外の価格引上げ策として「値上げ」がありますが、特にBtoCビジネスでは購買者の多くが物価高に苦しんでいることから逆効果になる場合があるため、安易に行うのは難しいでしょう。このため「顧客を増やす」あるいは「顧客当たり購買個数を増やす」などの取引回数を増やすアプローチを模索する企業が多いと考えられます。従来は地元を市場としていたがインターネットを使って全国あるいは世界に向けて販路を広げている企業などです。


「我が社には難しい」と安易に却下するのではなく「我が社にもできる販路開拓はないか」と前向きに検討する会社に道が拓かれると感じています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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なお、冒頭の写真はChatGPTにより作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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