企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第25回

教育とテレワーク──地域で育てる次世代キャリア 〜「地元で働きたい」を仕組みにする、教育×テレワーク〜

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

1. はじめに──「地元で働きたい」若者たちのリアルな声

近年、若者たちの価値観に変化が見られます。
進学や就職で一度は都会に出たとしても「やっぱり地元で暮らしたい」「家族のそばで働きたい」という声をよく耳にするようになりました。
また、そもそも仕事さえあるのなら、都会へ出て行かなくてもいい、学校を卒業したらそのまま地元で働きたい、と考える若者も少なくないと聞きます。

しかし現実には、地域には希望する仕事が少なく、
「自分がやりたい仕事がない」
 「希望する働き方ができる会社が、ここにはない」
──そんな“ギャップ”の声が多く聞かれます。
この問題は、過疎化の悩みを抱える 地域にとって、「未来の担い手を失い続けている」深刻な危機なのです。

一方で、都市部では、学校に馴染めずに通信制やオンライン学習を選ぶ子どもたちが増えています。
 彼らもまた、「自分は社会とどう繋がればいいのか?」という不安を抱えています。

この二つの課題──「地域の人材流出」と「若者の社会接続」──に対する一つの解決案となるのが、「テレワーク × 教育」です。
“教室にいながら社会と出会う”
“学びながら働く、仕事を知る”
そんな新しいキャリア教育が必要な時代が来ていると考えています。

2. 学校の中に「未来の働き方」を持ち込むという発想

テレワークというと、「家で働くこと」と思われがちですが、本質はそこではありません。
場所を選ばずに、もしくは好きな場所で働くことができる──それはつまり、一人ひとりの「生き方の選択肢を広げる仕組み」です。
もし、この仕組みを、社会に出る前の教育現場に取り入れたらどうなるでしょう。
教室の中で学びながら、オンラインで企業や地域の課題に触れ、自分の力で貢献していく──。
それは、単なる職業体験ではなく、「社会に出る前に社会と出会う教育」です。

想像してみてください。
地元の高校生が、教室にいながら東京のIT企業のオンライン会議に参加し、堂々と意見を述べている姿を。地域の自治体や企業と共に地域の課題解決にチームで挑み、完成した提案書を企業にプレゼンしている姿を。
“自分の強みはこれか!” “ここはまだ足りない!” ── オンラインミーティングでの議論を通じて、自分の強みや課題を発見する。
“この町にはこんな課題があったんだ” ── 地域の企業が抱えるリアルな課題解決にチームで挑み、地域社会に関わる。
“自分の仕事が、誰かの役に立った” ── 対価を得る経験を通じて、働くことの本当の意味や責任を知る。

教室の中で、教科書に書かれた「社会」について学ぶのではなく、「社会に出る前に、社会と出会う教育」なのです。
一方で企業にとっても、若い世代の発想力やデジタル感覚を取り入れるチャンス。そして早い段階で自社を志望してくれる可能性のある若手人材と出会うチャンスでもあります。

 「学び」と「実践」を結ぶこの構造は、地域と企業の双方に新しい風を吹き込むと同時に、「働きたいのに仕事がない」一方で「人材不足」という矛盾を解消する未来への一歩となります。

3. “オンライン職場体験”という新しい学びの形

これまでの「職場体験」といえば、生徒が数日間、地元の事業所に“お邪魔する”スタイルが主流でした。
もちろん、現場の空気に触れる貴重な機会です。 でも、受け入れられる業種は限られ、一度に体験できる生徒数にも限界があり、安全管理の負担も小さくありません。
しかし、テレワークを活用すれば、その可能性は無限に広がります。
地域産品の魅力を発信する「SNS運用」
地元商店街のための「ECサイト運営支援」
マーケティングに必要な「データ整理・リサーチ」
こうした仕事は、パソコンひとつでオンラインで完結できる立派な“社会参画”です。

生徒は自宅や学校の端末から参加し、企業や地域プロジェクトの一員としてチームに加わります。
場所の制約を超え、参加できる時間や興味、関心に応じて多様な仕事に挑戦できるのです。

“働く=現場に行くこと”から、 “働く=価値を生み、社会とつながること”へ。

オンライン職場体験は、そんな仕事の定義そのものをアップデートする教育です。

4. “デジタルネイティブ世代”の力を企業が活かす

10代・20代の若者たちは、SNS発信、動画編集、画像制作などを“呼吸するように”使いこなしています。
その感性やスピード感は、地域企業のDXやブランディングにとってまさに宝の山です。

「学生だからまだ早い」ではなく、「学生だからこそ見える感覚」がある。

テレワークを通じた協働は、大人が教える場ではなく、互いに学び合う場へと進化します。
企業にとっては、若者の柔軟な視点が新しい企画や発想の源泉となり、
若者にとっては、社会のリアルな課題に触れる貴重な成長の機会になります。

この“相互学習”の関係は、例えば閉じこもりがちな若者には自信を、人材不足に悩む企業には希望を与える、次世代の共創モデルになり得る可能性を秘めています。

5. 学びを支えるのは「地域ぐるみの応援」

ただし、この仕組みを動かすには、学校や企業だけの努力では足りません。
重要なのは、「学校・企業・家庭・地域」四者の本気の連携です。
学校は学びの場を、企業は実践の場を、家庭は挑戦を「いいね!」と後押しし、地域全体がそれを温かく見守る。
「あの子、うちの町のPRを手伝ってるんだって」
 「地元のイベント運営に高校生が関わってくれたんだ」
──そんなポジティブな循環が生まれたとき、子どもたちは今以上に、 「この町で働きたい」「ここで生きていきたい」と感じるようになるのではないでしょうか。
地域の未来を担う人材は、地域の中で、地域のみんなで育てるもの。
これこそが、本当の意味での“地方創生”ではないでしょうか。

6. 小さく始めて、仕組みに育てる

「教育×テレワーク」は大掛かりな予算や設備がなくても始められます。
 最初は、たった10人・10時間・10タスクの小さな実践で十分です。
たとえば──
企業は「SNS投稿3本」「簡単なデータ整理」などの業務を用意し、
学校は「週2時間のプロジェクト授業」として時間を確保、
地域のコーディネーター(推進ハブ)が契約・安全管理を支援する。

重要なのは、“一度きりのイベント”で終わらせないこと。
実績を積み重ね、翌年には地域の仕組みとして継続できる形にする。
この「小さく始めて、仕組みに育てる」視点が、持続可能なキャリア教育の鍵です。

7. テレワークリテラシー──自由と責任の両立を教える

テレワークには可能性だけでなく、リスクもあります。
孤立、情報漏洩、評価の不公平──。
だからこそ、正しく学ぶ教育が欠かせません。
学校で「テレワークリテラシー教育」を取り入れれば、生徒は「自由に働く」権利と同時に、「責任を持って働く」姿勢を身につけます。
オンラインでのコミュニケーションマナー
情報の扱い方、著作権、守秘義務
成果を時間でなく「アウトプット」で評価する考え方
大人にとっても重要なこれらを早い段階から学ぶことで、テレワークを単なる働き方としてではなく、生きる力の教育として活かせます。

8. 各地で動き出した「教育×テレワーク」の現場(事例紹介)

実際、この動きはすでに各地で始まっています。
事例①:オンライン実習プロジェクト
通信制高校で地域のIT企業と連携したオンライン実習を導入。生徒が企業のSNS発信や市場リサーチを担当し、企業側がプロとしてレビュー。
生徒からは「自分も社会の一員という実感が持てた」という声が聞かれ、復学や就業など次のステップへの意欲が高まりました。

事例②:地域大学×商店街
地域連携科目の一環として、学生が地元商店街のECサイト運営を支援する実習を開始。
学生たちはオンラインで在庫管理や受発注業務を代行しました。
 これにより、地元企業は人手不足の中でDX(デジタルトランスフォーメーション)の第一歩を踏み出すことができ、参加した学生からは「卒業後も、この町でこの仕事をしたい」という声が上がりました。

事例③:aubeBiz(オーブビズ)の取組み
私たちaubeBizでも、この流れを加速させるため、2025年8月に「社内子ども参観」と「子どもインターンシップ」を開催しました。
親がテレワークで働く姿を見学し、子どもたち自身も簡単なオンライン業務を体験する試みです。
まずは自社から始め、来年度以降は、このノウハウを地域の学校や企業にも広げ、一般向けの開催を目指しています。

9. 教育が“働き方の未来”を変える

いまの10代が社会の中核を担う10年後、働く場所や職種の境界は、今よりずっと拡がっていることでしょう。
地元で働きながら副業で海外企業の仕事にも携わる、複数拠点に住みプライベートを大切にしながら複数の企業で活躍する。そんな働き方はすでに始まっており、AIやツールの進化でさらに拡がっていくと思われます。
先進国の中で日本のデジタル競争力は低迷していると言われています。
その原因は、デジタルスキルやリテラシー教育の不足です。
だからこそ、学生のうちから「オンラインで働くこと」「離れたチームで成果を出すこと」を経験し、そのためのDXリテラシーを当たり前のこととして学んでおくことが、これからの日本を支える若い世代が未来で活躍するための大切な要素となります。

10. おわりに──若者が希望を描ける社会へ

「大好きな地元で働きたい」
「自分のスキルで、誰かの役に立ちたい」
そう願っている若い世代がたくさんいます。
テレワークは、その願いを「諦め」に変えず、地域社会のニーズと繋ぐための現代の“架け橋”です。
企業がチャンスを与え、学校が学びの場をつくり、家庭が背中を押し、地域が支える。
その連携が生まれたとき、「働くこと」が「生きること」と地続きになる社会が形づくられます。
若者は地域を選びたいのではなく、自分の人生を選びたいのです。
テレワークは、その選択肢に“地元”を取り戻すための技術。
小さな教室から始まる新しい学びが、きっと日本の働き方を大きく変えていくはずです。

次回は「地域を動かす『仕組み』の作り方──自治体の挑戦と政策の活用」
全国の自治体が進める補助金制度、移住支援、企業マッチング事業などを取り上げ、それらの「政策」を現場で本当に活きる“仕組み”へと繋げていく方法について探ります。


 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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