企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第12回

「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

企業経営者の方や人事担当の皆さまとお話ししていると、
「人が本当にいないんです」
「募集をかけても、フルタイムで働いてもらえる方が見つからなくて…」
という切実な声をよくお聞きします。

昨今の慢性的な人手不足は、事業の成長を妨げる深刻な課題であることは言うまでもありません。
しかし、本当に働き手は“いない”のでしょうか?
少し視点を変え、働き方の「当たり前」を見直すことで、これまで見過ごされてきた身近な才能に出会えるかもしれません。

今回は、育児や介護、副業、健康上の理由などでフルタイムでは働けない人たちの「スキマ時間」を活かす、“ワークシェアリング”という働き方についてご紹介します。
aubeBizでの実践や、導入のコツも交えながら、“小さな時間の積み重ね”が組織を支える力になる、そんな事例をお伝えできればと思います。

1.働き手が“いない”のではなく、“活かしきれていない”だけ

「もっと働きたい。でも、今はフルタイムは難しい」──
そんなふうに感じている方が、実はたくさんいらっしゃいます。
たとえば、
子育て中で子どもから目が離せないお母さん。
介護をしていて、まとまった時間を家から離れられない方。
体調と相談しながら、無理なく社会と関わりたいと願う方。
副業や自分の事業と両立しながら、スキルを活かしたいという方も増えています。

彼らは、働く意欲や能力が低いわけでは決してありません。
ただ、「1日8時間・週5日」という従来の“正社員型”の働き方に、今は少しだけフィットしないだけなのです。
「フルタイムは難しいけれど、1日2〜3時間なら」
「週に2〜3日、午前中だけなら力になれるのに」
そんな声なき声に耳を傾けると、「採用対象外」とみなされてきた人々の中に、組織の未来を支える“宝物”のような存在がいることに気づかされます。
そしてその人材が眠ったままであることは、企業にとっても、社会にとっても、大きな損失かもしれません。

2. パズルのピースを組み合わせるような「ワークシェアリング」

こうした背景から、私たちaubeBizが実践しているのが、「ワークシェアリング」です。
一つの業務や役割を、複数人で分担して担うことで、雇用を維持・創出するとともに、従業員の負担軽減やワークライフバランスの改善を目指すこともできる働き方です。
まるでパズルのピースを一つひとつ組み合わせるように、それぞれが持つ「スキル」や「働ける時間」を重ねて、チームとして成果を生み出していくイメージです。
ただ、このようにお伝えすると「シフト管理や勤怠管理が大変」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

私たちが行っている「ワークシェアリング」では、「勤務している時間」よりも「プロジェクトのゴール」や「アウトプット」に基準をおいた業務分担を行っています。
業務内容によって、午前中と午後、曜日ごとなど「働く時間」を調整するケースもありますが、どちらかというとプロジェクトごとに任せ、対応する時間も進め方も、ある程度の裁量権を持って各自で行ってもらっています。
また、出来るだけ2名以上で一つの業務に携わる「ペアリング」の形を取ることで、サポートしあえると同時に、相互学習で業務の質を高められる体制を作っています。
「正社員か、パートか」といった二者択一ではなく、もっと柔軟に。
 働く人の暮らしや制約に寄り添い、企業の側から「働き方」を設計する──
 この発想の転換が、働く側にも企業側にもメリットをもたらしてくれます。


働く人にとっては、社会とつながりながら、自分や家族の時間も大切にできること。
企業にとっては、人手不足の解消に加え、必要な分だけ人材をアサインできることで、人件費の最適化にもつながること。
そして、さまざまな背景や視点を持った人たちが関わることで、組織の中に“豊かさ”や“しなやかさ”が育まれること。
私自身、aubeBizでその変化を実感してきました。

3. テレワーク初心者でも始めやすい「ワークシェアリング」導入のコツ

「新しい働き方を導入するのは難しそうだ」と感じるかもしれません。
しかし、ポイントを押さえれば、テレワーク初心者の中小企業でもワークシェアリングは十分に実現可能です。

コツ①:業務をタスク化・可視化する

まずは、社内業務を細かく分解してみましょう。
「この作業は3時間くらいで終わりそう」「これは入力中心だから、在宅でもできるかも」と、業務を“切り出す”視点を持つことが鍵です。
たとえば…
SNSの投稿文作成・予約投稿
議事録作成や文字起こし
顧客リストのデータ整理
簡単な資料の校正や入力業務
など
「この仕事は、スキマ時間の力を借りられないか?」と問い直してみると、切り出せる業務は意外と多く見つかります。

コツ②:マニュアルとツールで“安心”をつくる

仕事をお願いする相手が安心して作業できるように、簡単なマニュアルやチャットでのやり取りができる環境を整えましょう。
完璧なものではなくても、「まずやってみる」ことが何より大切です。
また、「いつでも聞いて大丈夫ですよ」という雰囲気づくりが、はじめての人にとっては何よりの安心になります。

コツ③:時間ではなく“成果”で評価する

「短時間勤務」の方を、従来の“労働時間ベース”で管理するのは難しいものです。
大切なのは、「何時間働いたか」ではなく、「どんな成果を出したか」。
そして、「ありがとう」「助かりました」という感謝のひとことが、信頼を育て、モチベーションへとつながります。

4. aubeBizの事例:1時間しか働けなかった人が、今や企業に欠かせない戦力に

私たちaubeBizでも、ワークシェアリングによって力を発揮しているメンバーがたくさんいます。
ある育児中の女性メンバーは、当初「子どもが昼寝する間の1時間しか働けない」という状況からスタートしました。
そこで私たちは、まず1時間で完結するデータ入力のような、本当に短い時間でできるお仕事からお願いしました。
お子さんの寝息が聞こえるすぐ側でテレワークをしながら、少しずつ仕事の感覚を取り戻し、自信をつけていった結果、今ではSNSの運用代行やお客様のサポート、書類作成まで、様々な業務を担い、社内外から信頼される大切な存在に成長してくれています。
彼女のように、「午前中だけ」「週に3日だけ」といった働き方で、イキイキと力を発揮してくれるメンバーが、私たちの組織やチームを支えてくれています。
子どもが成長したらフルタイムで。
介護が始まったらまた時間を減らして。
そんなふうに、ライフステージに合わせて働くのが私たちのスタイルです。

「限られた時間=制約」ではなく、「短時間でも力を発揮できる環境を整える」ことで、誰かの才能が活かされ、組織が成長できる。そんなことを日々教えてもらっています。

5. 「小さな仕事の積み重ね」が組織を支える

これからの時代は、「一人のエースが全部を背負う」よりも、 多様な人が、それぞれの持ち味と時間を出し合って、支え合いながら成果を生み出す「チーム」の時代です。
フルタイムでなくても、会社や仲間を想いながら、責任感と熱意を持って関わってくれる人は、あなたのすぐそばにいるかもしれません。
「短時間しか働けない人には任せられない」と諦めてしまう前に、仕組みや評価のあり方を少しだけ変えてみる──
それだけで、これまで届かなかった人材に出会える可能性が広がります。
また現代では、優秀な方ほど、副業・複業をされています。
そういった力を借りられるのもワークシェアリングの魅力の一つですが、そのお話は、また次回コラムで触れたいと思います。

ワークシェアリングは、単なる“人手不足対策”ではありません。
多様な人材が安心して力を発揮できる土壌を整え、組織の底力を育てる、新しい時代の“人材戦略”だと考えています。
そしてそれは、地域社会のウェルビーイングを高め、日本全体の“働き方改革”や“地方創生”を進める大切な一歩にもなるのではないでしょうか。

次回は、「“副業・復業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」
多様なスキルやキャリアを持つ“兼業人材”が、今、地域で活躍を始めています。企業側の受け入れの工夫や、パートナーシップの築き方についてご紹介します。


 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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