企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第8回

ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

~高価なツールは不要!今日からできる「スモールDX」~

「DX(デジタルトランスフォーメーション)が重要」。
ビジネスの世界で、そんな言葉を耳にする機会が、ずいぶん増えました。

これは、単なる「IT化」や「デジタル化」とは違い、デジタルを前提として新しい価値やサービスを生み出し、競争力を高めていく大きな変革を指します。

しかし、とくに中小企業などでは、

「重要性は分かっているけれど、何から手をつければいいのか…」
「ITに詳しい人材もいないし、予算もない」

と、足踏みされているのが現状です。

実際、2025年に弊社が行った上場企業を含む30社への社内DX化についてのヒアリングでは、

「DX化に取り組んではいるけれど実態はまだまだマンパワーに頼っている」
「いつかは、と思っているけれど、実際は日々忙しくてDX化に着手できない」
「今はまだ、昔ながらのアナログなやり方で何とか業務は回っているし…」

そんな声が8割以上を占めていました。

実はその「何とか回っている」状態こそが、DX化を阻む壁となっている訳ですが、ただでさえ人材不足で忙しい現場において、DX化に取り組むハードルは高く、結果として『属人化』が進んでしまうという、悩ましいジレンマを多くの企業が抱えています。

そこで、実務をストップせずにDX化を進めるためにお勧めしたいのは、もっとも身近で小さなところから始める「スモールスタート」の業務改善です。

高価なシステム導入や大掛かりなフローの変更ではなく、すべての企業が今日から取り組めるスモールDXの第一歩、「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」について、具体的なステップと共にお伝えします。

1. 「属人化」は、見えないリスク

 

「この業務は〇〇さんしか分からない」
「あの対応は、△△さんの頭の中にしかない」

こんな状態に、心当たりはありませんか?
これがいわゆる「属人化」です。

一見、業務が回っているように見えても、静かな、そして実は大きなリスクをはらんでいます。

担当者が急に退職・休職してしまったら、その業務は完全にストップしてしまう可能性があり、引き継ぎにも膨大な時間がかかり、最悪の場合、大切なノウハウが失われてしまうことさえあるのです。

最近の人材不足に伴い、テレワークやBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)など、業務の外部委託や分業が広がっています。

例えばBPOを活用すれば、企業はもっと重要なコア業務に集中できますが、業務が属人化していると、「この作業は◯◯さんがいないと分からない」「外部に任せたくても説明ができない」という状態に陥り、せっかくのテレワークやBPOのメリットが活かせません。

つまり、業務を「仕組み化」しておくこと=属人化の解消こそが、DXの入り口であり、あらゆる業務改善の一番最初の『土台づくり』とも言えるのです。

2. DXの第一歩は「見える化」と「仕組み化」

「とはいえ、何から手をつければいいの?」

というお声もよく聞きます。

いきなりRPA(Robotic Process Automation=ソフトウェアロボットによって人間の代わりにPC上で行う定型業務を自動化する技術)やAIといった高度なツールの導入を目指すのではなく、まずはご自身の会社の足元にある、アナログな業務を“棚卸し”して、**誰が、何を、どうやって行っているかを「見える化」**することから始めましょう。

以下のように紐解いていくと、属人化を防ぐステップは、実はとてもシンプルです。

ステップ①:業務の洗い出し(業務分析)
 「誰が、何を、どんな手順で、どれくらいの時間をかけて行っているのか」を書き出してみましょう。Googleスプレッドシートなど、クラウド上で共有できるファイルに記入していければベストですが、最初は付箋やメモ帳への書き出しでも構いません。

この時、一気にやろうとすると、その膨大な量に二の足を踏んで、なかなか着手に至らないこともよくあります。

そんな時には、「1つの業務をする際に、5分だけ余分に時間を費やして、今やっている業務や作業の内容を書き出す」ことをお勧めします。

これを1ヶ月続ければ、1ヶ月分の業務分析が出来上がります。

ステップ②:手順・判断基準の見える化(マニュアル化)
次に、それぞれの業務の手順や、判断ポイントを、誰が見ても分かるように文章化します。
完璧なマニュアルである必要はありません。「この通りにやれば、誰でも8割はできる”手順書”」を目指しましょう。

マニュアル作成時に、よく完璧で綺麗なマニュアルを目指してしまうことがありますが、これは間違いだと考えています。

なぜなら、マニュアルは変化し続けるものであり、常に最新の状態が反映されていることこそが最も重要だからです。

作り込んだマニュアルは、更新時にもかえって手間が掛かることが多いものです。
綺麗なマニュアルより更新しやすいマニュアル、いつでも追記修正可能なシンプルな手順書を目指します。

ステップ③:チームで共有し、改善を続ける(“育てる”仕組み)

最も大切なのが、このステップです。作ったマニュアルを放置せず、皆が見られる場所に保管し、更新できる仕組みをつくりましょう。

「あ、こっちの方がやりやすいかも」

と気づいた人が改善提案できる、そんな“育てるマニュアル”が理想です。

一度作って終わりではなく、自動的に最新&最善のものへ改善されていくフローが、「ルール」と「社内文化」に支えられて確立されていること。それが真に「仕組み化」された状態と言えます。

3. 「ペーパーレス」と「クラウド」がもたらす絶大な効果

この「見える化・仕組み化」を支える強力な味方が、「ペーパーレス化」と「クラウドツール」の活用です。

自社で大きなサーバーや高価なソフトウェアを導入しなくても、Google Workspaceや、Microsoft 365など、月額料金で利用できる企業向けのグループウェアサービスを活用することで、、クラウド上にデータを保管したり、や便利なアプリケーションを利用することができるようになります。

「担当者に電話しないと確認できない」
「あの書類、どこにしまったかな?」

といったように、紙やFAX、電話に依存した運用では、情報の共有に時間と手間が掛かります。

これをペーパーレス化、つまりデジタルデータに置き換えることで、

・情報共有が瞬時にできる
・時間や場所に縛られず
・テレワークでも仕事が進められる
・データの場所さえ伝えれば、引き継ぎがスムーズになる

といったメリットが生まれます。

さらに、Google WorkspaceやNotionといったクラウドツールを活用することで、

・業務マニュアルの更新がスムーズに
・一元化される チャットでのやり取りが、“検索できる議事録”になる
・引き継ぎはマニュアル記載箇所を伝えるだけに

といった効果が期待できます。

情報が「人の頭」ではなく「クラウド」に蓄積される──
これは、属人化からの脱却とチーム力の向上にとって、非常に大きな一歩になります。

4. aubeBizが実践する「仕組み化」と導入企業様の事例

私たちaubeBizも、まさにこの仕組み化を実践してきました。
最初は、もちろん試行錯誤の連続でした。

「あの人がいないと分からない」

と焦った経験もあります。

だからこそ、全ての業務を「誰が見ても分かる」状態にすることの大切さを、身をもって実感してきました。

・社内マニュアルをNotionに集約し、全員が随時確認・更新可能に
・やりとりはチャットで行い、検索一つで履歴確認できるように
・Googleカレンダーで予定、Googleドライブで資料をリアルタイム共有

その結果、完全テレワークでも、スムーズな連携とサービス提供が実現できています。

実際に私たちがBPOでご支援する企業様においても、紙ベースだった業務を整理してクラウド活用に切り替えたことで業務効率化に成功した事例や、事務局業務を仕組み化し、属人的ではない体制を構築できたことで、人が変わっても業務が滞らない安定した運営体制を実現できたケースもあります。

「誰でもできる」が、DXへの確実な一歩

 属人化をなくすことは『あの人しか分からない』からの卒業です。
そして同時に、「誰もが安心して働き続けられる環境」への第一歩です。

その段階で必要なのは、高価なシステムでも、特別なスキルでもなく、価値観の変容です。

最初は抵抗のある人も多かったオンラインショッピングやキャッシュレス決済が今日ではあたり前になり、日常になくてはならない便利なものとなったように、ビジネスをより良く、スムーズに変革していくためにデジタルを活用する。その第一歩が「誰でもできる」環境の整備です。

まずは自分たちの働き方を、ほんの少し便利で、安心なものに変えてみること。
背伸びをせず、現場で働く皆さんが「これなら私にもできそう」と感じられる、小さな仕組みづくりから始めてはいかがでしょうか?


次回は、「BPOとBCP ― 有事の際の事業継続のために備える新常識」についてご紹介します。
変化の多い時代にこそ、事業を止めないための“柔軟な選択肢”を一緒に考えていきましょう。

 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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