Catch the Future<未掴>!

第71回

イノベーションの量産でジレンマ回避

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



私たちの生活ひいては世界の今後を変えていく力を持つイノベーションですが、そのオリジネーターは意外と続かないという皮肉な現象が起きています。「イノベーションのジレンマ」をどうしたら回避できるのか?今回は、一つのアプローチを提案します。



イノベーションのジレンマが質の悪い罠である理由

イノベーションのジレンマとは「イノベーションのオリジネーターが成功に執着してしまい、次の革新的(破壊的)イノベーションへの対応が遅れて結果的に市場から脱落する現象」を指しています。クレイトン・クリステンセンが提唱したこの言葉に初めて出会った時、「イノベーターにはこんな罠があるのか?辛い立場だな」と感じる一方で、「この現象が明らかになったので、今後はイノベーターの不幸も回避できるだろう」とも考えました。

しかし、実はそうはいかなかったようです。イノベーションには莫大な労力と費用が必要になる一方で成功確率が低いので、世の中に受け入れられて回収が可能と分かると、それに全力を尽くしてしまうのです。


イノベーティブな新製品は、世の中に出た時点では収益化など全く見えません。だんだんと受け入れられて市場を創造しながら自社がほとんどを取っていける「花形」段階でもあまり儲からない、自分の手に負えないほど莫大な市場が形成され競合も参入してきたがブランド力など先行者利得に与れる「金のなる木」段階でやっと回収できるようになります。

いつ終わるか分からないこの段階で十分にもとを取り、できれば次のイノベーションの元手を手にするためには、顧客ニーズを反映するなど手のかかる作業を行うしかありません。

こうやってイノベーターは「自分の手でイノベーションをコモディティ化する」ことに躍起になってしまい、次のイノベーションのチャンスを掴めなくなってしまうと考えられます。


このように「イノベーションのジレンマ」はイノベーターにとって「存在は知られているが、回避がとても難しい罠」となっていると感じられます。これへの適切な対処法を見つけなければイノベーターは消耗品になってしまい、次のイノベーターが生まれるかどうかは確率論的現象になってしまいます。それは産業あるいは世界にとって損失だと言わざるを得ません。



ジレンマの解決策となり得る「量産」

イノベーターは必ずジレンマに陥り、退出しなければならないのか?そのメカニズムを避ける努力をし、一定の成果をあげている業界として創薬業界を挙げられます(もっとも創薬業界は独自の困難さに直面しており「楽をできている」とは到底言えませんが)。

創薬会社は「並のヒット薬を作るのが良い。大ヒット新薬を開発してしまうとイノベーションのジレンマに陥って自社の命を縮めてしまう」ということはありません。並のヒット薬を作り、時には大ヒット薬を生み出しながら淡々と開発を続けています。「イノベーションを量産する体制」を築きあげているのです。これがソリューションになるのではないかと考えられます。


創薬会社以外に量産をイノベーションの原理として実装している企業はないのか?典型例としてGoogleを挙げることができます。Googleが常に新サービスを開発し、ユーザーの用に供して実験していることは、よく知られています。

Googleの検索サイトの上方には様々なサービスに誘うアイコンが置かれている他、早期利用(アーリーアクセス)制度を設けて、正式リリース前に新機能やアプリ、サービスを試すことができます。開発段階からユーザーのフィードバックを受け、ブラッシュアップしながら改善を進めていくことで多数のイノベーションを結実させているのです。


もう一つAmazonもイノベーション量産企業と言えるでしょう。書籍等EC販売業者としての成長と共に整備してきた配送ネットワークを他業者のEC販売業者にも利用させることで、固定資産の有効利用の他、独自あるいは委託だけでは実現しない取扱量とすることで物流の常識を変えるインパクトを次々と起こしてきました。

また最初は書籍や物品などを取り扱っていたECサイトの位置付けをどんどんと拡大し、今では映画や音楽などの配信サービスあるいはAWS(Amazon Web Services:サーバーやストレージ、データベースなどのITサービスをクラウドコンピューティングで提供)に活用しています。


イノベーションのジレンマにより一時はトップに立てる企業が市場から追い出されてしまうのは、その企業にとって不幸なだけではなく社会的にも大きな損失と考えられます。それを克服する一つのアプローチとして「イノベーションの量産」が普及するよう期待しています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


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https://stratecutions.jp/index.php/contacts/




なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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