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Catch the Future<未掴>!

第3回

5次元社会が未掴であること

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

 今、政府発表の““Society5.0”を題材に考えています。 前回は、社会は「軸」が追加される「次元のランクアップ」現象によって高度化すること、直近の“Society4.0”では「情報軸」が、“Society5.0”ではITを使った「自働化軸」が追加されたと、ご説明しました。


 「Society5.0では『サイバー空間』が追加されたのではないか?」との疑問があるでしょう。それも正しい把握でしょうけれど「技術」、「供給者」からのアプローチです。「社会」、「受け手」からは「自働化」と捉えた方が、それが「未掴」であるとの本質を捉え易く、対応を適切に考えられます。検証していきましょう。



4次元社会の「未掴」

 “Society4.0”は「情報社会」ですが、だからと言って、それまでに情報が貴重でなかった訳ではありません。読者の中には、中世の図書館で蔵書が鎖で固定されていた写真を見た人もいるでしょう。図書(情報)の流出が自分の存在意義を脅かすという意識が所有者にあったからこそ、そのような措置が執られたのです。


 このような状況下、コンピューターは様々な側面で情報を高度化しました。高速計算により人類は月に行けました(処理高速化)。画像も数値化されてコンピューター処理の対象となり、世界中の都市や美術館の収蔵品をPCで閲覧できます(普遍化)。また、これまでは暗黙知と考えられていたノウハウ等も数値データ化して再利用・伝達が可能になっています(顕在化)。


 普遍化について考えてみましょう。情報は権力とも結びつくため、持てる者は他者には遮断するよう腐心していました。今、「知る権利」が一般化して国家・行政の情報はアクセスしやすくなり、企業や個人もそれに倣う態勢です。それを可能にし拍車をかけるのがIT技術です。ITを駆使すれば、そうでない人では得られない、存在も知らない情報を入手可能になりました。


 顕在化も同様です。職人技は「暗黙知」と言われ、その本質を伝承して他人に理解させ、再現することは困難だと言われていました。しかし今では例えば機械加工ならば、熟練職人が自ら蓄積した作業手順や緻密な加工ノウハウを活用して3D-CADにデータ入力することで顕在化し、再利用や伝承が可能になります。顕在化も普遍化も、誰もが恩恵に与れる訳ではありません。意識して掴む者だけがメリットを享受できます。



5次元社会の「未掴」

 ”Society5.0”について政府は「デジタル革新、イノベーションを最大限活用して実現する社会」と説明し、自動化や遠隔・リアルタイム化により生活や産業が大きく変わって企業にも変革が迫られること、行政や地域、人材などにも影響が及ぶこと等を説明しています。ここで社会に加えられた5次元軸はITによる「自働化」だと、前回にご説明したところです。


 「自働化」の典型例は、ご想像の通り、AIによるものです。読者の皆さんも、自動車が自動運転に向けて急速な発展を遂げていることをご存知でしょう。この他にも、人間では収集も取扱いも不可能だった大量データ(ビックデータ)から法則性を見出し、製品・サービス開発やマーケティング等に活用することが可能になりました。人間の様々な所作を分析して改善策を提案できるようになるかもしれません。AIによる自動運転車はお金を出せば買える「未来」ですが、ビジネスの拡大や改善はお金では買えないでしょう。意識して努力する者だけが享受できる「未掴」です。


 そして「自働化」のもう一つの例は、ITを使って他人の能力や仕事、成果を取り込むことによる自働化です。「それはつまりアウトソーシングのことだ。ITが絡んで特別な意味が生まれたのか?」その通りです。IT活用によりリアルタイム性や確実性が大幅に向上し、選択肢も大幅に増えたのがポイントです。


 例でご説明しましょう。これまで会計・税務業務は近隣税理士に依頼するしかなく、十分なサービスをしてくれる税理士がいなければ甘んじるしかありませんでした。しかし今では、ITを使って伝票を送れば会計データ化をはじめとして我が社業務に最適の処理をしてくれる税理士に依頼することが可能です。会計・税務業務が、ITを使って自働化されたと言えるでしょう。


 実はこのアウトソーシングが世界的に進んでいます。iPhone等を生産するアップル社は台湾企業のホンハイ(鴻海精密工業)社に生産を委託しています。一方でアマゾン社はなど、アウトソーシングで仕事を受ける立場です。世界に大きな影響力を持つ4大会社GAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple)は、IT自働化の委託者・受託者となって「未掴」を我が物にしました。私たちは、どちらの道を選びますか? AIの利用やIT自働化の委託・受託を考えに入れなければ、「未掴」はやって来ないかもしれません。 




<本コラムの印刷版を用意しています>

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。



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プロフィール

中小企業診断士事務所 StrateCutions 代表
合同会社StrateCutions HRD 代表社員
落藤 伸夫

早稲田大学政治経済学部卒(1985 年)
Bond-BBT MBA 課程修了(2008 年)
中小企業診断士登録(1999 年)
1985 年 中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
2014 年 日本政策金融公庫退職
2015 年 中小企業診断士事務所StrateCutions 開設
2018 年 合同会社StrateCutions HRD 設立


Webサイト:StrateCutions

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