第15回
熟したイノベーションを高度利用する
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫

先進国も含めて世界の国々が経済成長を遂げている中、日本だけがデフレ状況で給料も上がらない停滞に甘んじていると指摘されています。このような状況下で原油や食料品等の世界的な商品価格高騰が襲いかかり、人々の生活を苦しめています。この状況を払拭するためにはイノベーションがポイントとなりますが、これもあまり進展していません。日本がどうすればイノベーションを推し進めていけるのか、今回も引き続き考えていきます。
イノベーションの柔軟な姿
前回、イノベーションは柔軟で、様々なあり方があるとお伝えしました。イノベーションと言えば最初にイメージするのは「技術革新」ですが、既存のモノを結びつける「新結合」によるイノベーションもあります。代表例としてApple社のiPhoneが挙げられるでしょう。携帯電話にカメラや音楽再生、メール、インターネットブラウザのなど、既に存在していた商品やサービスを結び付け、一つの箱体にまとめたのです。(箱体内部で半導体チップ等の目覚ましい進歩があったとはいえ)「こんな機能は初めてだ。iPhoneがなければできなかった」などという要素がほとんどなかったにもかかわらず、iPhoneは人々の生活を変え、今世紀を代表するペンションになりました。
なぜiPhoneがイノベーションになったのか?それまで携帯電話やカメラや音楽再生プレーヤ―、メールができインターネットブラウザを備えたPCなどのモノたちを別々に持たなければならなかったのにiPhoneだと一つで済むという利便性や、それらを収納した箱体の美しさや、アイコンが並ぶディスプレイが全面を覆う(携帯電話にあった10キーボード等がない)斬新なデザイン、そして様々な機能を実現する通信手段の搭載など、iPhone自身が備える機能・形状・性質等も、もちろんその要素です。
一方で「iPhoneにより人々の生活が変わった」側面も見逃せません。iPhoneには、これら全てがあったのでイノベーションになったのだと考えられます。
逆に言えば、「携帯電話に様々な便利機能を極限まで盛り込もう」との考えではイノベーションにはなり得なかったでしょう。ここから「イノベーションとは皆が目を見張る新製品を生むことだけではない」、「だからといって既存のモノを結合すれば良いとは限らない。人々の生活を変えるほどインパクトのあるモノにする必要がある」あるいは「人々の生活を変えるモノは、例えローテクでもイノベーションになり得る」などの教訓が得られます。
多様なイノベーションを実現する
このように考えると「イノベーションを堅苦しく考えると活性化できなくなる可能性がある」と分かります。日本がイノベーションにより活性化できない一因として、日本ではイノベーションとして技術革新に重きが置かれ過ぎているように感じてしまうのです。
この指摘は「技術革新は必要ない」という意味ではありません。逆に失われた10年が20年になり30年になろうとする日本が過去にあった勢いを取り戻して国を豊かにすることは、それはとりもなおさず日本に住む人々が幸せな生活を送れるようになるには、という意味ですが、技術革新がなければ、それも世界をリードするような技術革新がなければ難しいでしょう。
一方で、技術革新を行うためには莫大な資金が必要になります。何年も、時には何十年も莫大なリスクマネー(万一競争に負けると消失可能性がある資金)をつぎ込んで開発競争に参加しなければなりません。ならば日本を活性化するには、まずどこかで儲けて、そのお金でイノベーションを推進する構図を作る必要があると考えられます。
日本のイノベーションを活性化する道?!
以上から、日本の活性化には「一昔前の技術革新(イノベーション)を高度利用して大きく儲け、最先端技術革新の原資とするビジネスモデル」の構築がポイントだと思われます。「一昔前のイノベーションで大きく儲けられるのか?」との質問がありそうですね、書籍通販のアマゾンを例に考えてみましょう。
アマゾンはアメリカでも日本でも、既存書店をなぎ倒す勢いで浸透しました。「図書の通信販売など、業者は面倒くさいし、買い手もまどろっこしいので普及しないだろう」との予想は大きく覆されました。一等地の店舗という莫大な固定費が不要になる一方で、地価の安い地域に大規模な倉庫・配送所を持つことで一般書店ではありえない品揃えを実現、ロングテールを実現して収益を重層化しました。また、リアルな本を売る業者としてはカニバリズムとされそうな電子書籍の開発・普及にも尽力、電子書籍といえばKindleと言われるステータスを確立して将来にも布石を打っています。最近ではAWS(Amazon Web Services)を提供、世界中の人や企業がクラウド上でビジネス等を推進できるプラットフォームを提供しました。
これら全ては技術的には革新的というより、一昔前の技術の利用でした。「熟した」技術の高度利用により日本もイノベーションを回せる国になれる可能性があると考えられます。
<本コラムの印刷版を用意しています>
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
なお、冒頭の写真は写真ACから ほりりょー さんご提供によるものです。ほりりょー さん、どうもありがとうございました。
プロフィール
中小企業診断士事務所 StrateCutions 代表
合同会社StrateCutions HRD 代表社員
落藤 伸夫
早稲田大学政治経済学部卒(1985 年)
Bond-BBT MBA 課程修了(2008 年)
中小企業診断士登録(1999 年)
1985 年 中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
2014 年 日本政策金融公庫退職
2015 年 中小企業診断士事務所StrateCutions 開設
2018 年 合同会社StrateCutions HRD 設立
Webサイト:StrateCutions
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
- 第10回 Futureを掴む人になる!
- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
- 第3回 5次元社会が未掴であること
- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!