第51回
日本ならではの外貨獲得力案
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
明治期以降の歴史を概観すると、日本が未掴を掴むために外貨獲得力を身に着けるべく尽力し、その力を発揮してきたことが分かります。
本連載では検討しませんが、その観点で世界を見るとアメリカやヨーロッパ諸国、中国やその他の国々も外貨を獲得して産業等を発展させる原動力とし、また外貨を獲得するサイクルを回して先に進んだことを理解できます。
今回は、これから日本がどんな形で外貨を稼げるようになるかを考えてみます。
代替可能を売るか、ユニークなソリューションを売るか
外貨を稼ぐために、どうすれば良いか?工業製品だと最終製品を売るか、部品等を売るかの2つのアプローチがありそうです。
但しこの2分法は方向性が見えにくくなるとも感じます。「最終製品を売ると高付加価値だが、部品等を売ると利幅が小さい」とイメージしてしまいがちですが、最終製品を売っても利幅が小さい場合があり、部品等を売っても高い付加価値を実現できる場合もあり、一概には言えません。
最終製品にしろ部品等にしろ、代替可能であれば最も安価な提供者に落ち着き、利幅は最小限になります。逆に「これでなければ困る。最も望ましいソリューションだ」と認められるものであれば、最終製品であろうが部品等であろうが高い付加価値を実現できます。
これから日本が外貨獲得力を養っていこうとする時、ユニークなソリューションを目指すのが良いと考えられます。
日本の課題解決を売る
ではどんなソリューションを提供すれば良いのか?「上手いビジネスになりそうなネタを思い付かない」との声が聞こえてきそうですが、今や日本は課題大国です。
経済側面での長引く経済の停滞やデフレ、エネルギー供給の不安やグローバル化・IT化Ai化などへの対応遅れなど。産業側面での技術革新の遅れや国際競争力の低下、旧態依然とした産業構造や中小企業の低生産性問題など。社会側面での人口減少や少子高齢化、地域間格差や教育格差、貧困問題など。個別企業側面での長時間労働や人材不足・育成の困難さ、後継者不足など。そして個別家庭側面での子育て・介護負担や社会等の孤立など「課題のデパート」状態です。
海外も大きな関心を持っており、これらのソリューションを目指すべきと考えられます。
日本の課題解決をソリューションとして売る
以上のように考えると、日本ならではの外貨獲得力を養うには、日本の課題解決をソリューションとして売ることが基本方針になると考えられます。
「ソリューションとして売るとはどういうことか?」最近の代表例としてIoTが挙げられます。工場内にある様々な部材から遠隔地で働く建設機械等まで、その管理等はとても大変です。「ではこれらにセンサーを搭載してインターネットに繋げ、必要な情報を発信させれば管理等が格段に楽になる。更に、これまで不可能だったレベルの高い管理等がリアルタイムで実現できる」というのがIoTです。
必要な機器や発信機などだけでなく運用システムや果ては規格等まで準備してソリューションとして提供されました。
同様にソリューションまで昇華された課題解決として、日本は何を提供できそうか?一つに、トラックやバスあるいは自家用車までを鉄道のように自動運行・管理するシステムが考えられます。
時間外労働の上限(休日を除く年960時間)規制等が2024年から適用されることで運転手が大幅に不足することになり、物流に大きな障害が発生する可能性となるのが「運送業界の2024年問題」です。運送業者の中には、本拠地から遠く離れた先へは自社だけで運送するのではなく連携先に委託するなどの対策をとっている者もいますが、抜本解決策とはなっていないようです。あるいは連隊走行させることで1人のドライバーが複数のトラックを運転できるようにする方法も検討されているようです。
ここでもし、トラックやバスあるいは自家用車までを鉄道のように自動運行・管理するシステムが実現すれば、遠距離輸送のドライバーを飛躍的に削減できます。例えば東京から大阪まで、ドライバーが東京の集積基地まで運転すれば、後は高速道路を通って大阪の集積基地まで自動運転されるというシステムです。
現在に開発中の自動運転車両を外からの情報でコントロールできるシステムを加えるのです。各車は予定(例:東京基地から大阪基地)や道路の状況(カーブや登り・下り坂等)、混雑具合、天候等を加味しながら最も安全かつ省エネルギーで運行できる指示を与えられながら運行します。
運送業2424年問題の課題解決をソリューションとして日本が実現すると多くの国や地域が欲しがるでしょう。付加価値の高い外貨獲得力となると期待できます。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。
プロフィール
中小企業診断士事務所 StrateCutions 代表
合同会社StrateCutions HRD 代表社員
落藤 伸夫
早稲田大学政治経済学部卒(1985 年)
Bond-BBT MBA 課程修了(2008 年)
中小企業診断士登録(1999 年)
1985 年 中小企業信用保険公庫(日本政策金融公庫)入庫
2014 年 日本政策金融公庫退職
2015 年 中小企業診断士事務所StrateCutions 開設
2018 年 合同会社StrateCutions HRD 設立
Webサイト:StrateCutions
- 第53回 日本の未来を拓く構想と新しい機関
- 第52回 新政権に期待すること
- 第51回 日本ならではの外貨獲得力案
- 第50回 未掴を掴む原動力を歴史的に探る
- 第49回 明治時代の未掴、今の未掴
- 第48回 オリンピック会場から想起した日本の出発点
- 第47回 都知事選ポスターから考える日本の方向性
- 第46回 都知事選ポスター問題で見えたこと
- 第45回 閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」
- 第44回 競争力低下を憂いて発展戦略を探る
- 第43回 中小企業の生産性を向上させる方法
- 第42回 中小企業の生産性問題を考える
- 第41回 資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
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- 第39回 日本GDPを改善する2つのアプローチ
- 第38回 イノベーションで何を目指すのか?
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- 第36回 イノベーションは思考法で実現する?!
- 第35回 高付加価値化へのイノベーション
- 第34回 2024年スタートに高付加価値化を誓う
- 第33回 生成AIで新価値を創造できる人になる
- 第32回 生成AIで価値を付け加える
- 第31回 価値を付け足していく方法
- 第30回 新しい資本主義の付加価値付けとは?
- 第29回 新しい資本主義でのマーケティング
- 第28回 新しい資本主義での付加価値生産
- 第27回 新しい資本主義で目指すべき方向性
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- 第25回 「新しい資本主義」を考える
- 第24回 ChatGPTから5.0社会の「肝」を探る
- 第23回 ChatGPTから垣間見る5.0社会
- 第22回 中小企業がイノベーションのタネを生める「時」
- 第21回 中小企業がイノベーションのタネを生む
- 第20回 イノベーションにおける中小企業の新たな役割
- 第19回 中小企業もイノベーションの主体になれる
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
- 第10回 Futureを掴む人になる!
- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
- 第3回 5次元社会が未掴であること
- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!