Catch the Future<未掴>!

第91回

常識はあるが良識はないAIを使いこなす

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤伸夫 氏

 



以前の産業革命では「非人間労力の活用」が実現、使いこなせる人が最大のメリットを享受しました。

では「非人間脳力(能力)の活用」が実現した今の産業革命では何がポイントになるか、今回はそれを考えます。


非人間労力からの収穫に差をつけた「人の脳力」

過去の産業革命における「非人間労力活用」がポイントでした。それまでは労働といえば「手足を使って製品を作りサービスを提供すること」が中心で、人間外の労力利用は農耕などでの牛馬等、あるいは揚水や帆船での風力等に限られていたのです。

しかし蒸気機関の活用により、まず軽作業における人間労力が動力付き機械にとって代わられました。これにより重労働から解放された人間は「考える」役割にフォーカス、「休養は不要、取扱重量100kgなどの制約はない」機械の活用法を考え抜き、人類が何千年にわたって進歩・発展してきたスピードをはるかに超える勢いで変化を実現してきました。

高層ビルや大規模な橋、木造ではなし得なかった大きさの鉄鋼船、そして流れ作業(最初は製造途上の車両を台車で移動させていたが、今では何台もの自動車(とてつもない重量)を乗せたベルトコンベアーで移動)による自動車の大量生産などを実現してきたのです。


では、機械の台頭は全ての点においてハッピーだったのか?沢山問題がありました。最も大切なことは「頭脳が付いていないこと」です。このため自動機が発明されるまではオペレーターが必要でした。

自動機が発明された後は、今度は止めることが問題になりました。例えば紡績機械だったら10本の糸を使って織物を織る時に1本の糸が無くなっても作業を継続してしまうと不良品を山積みにしてしまうので、自動的に停止する装置が付けられました。

今度はストップしても気が付かず放置していると何時までたっても機械を稼働させられない、つまり機会損失が膨れ上がってしまうので、ストップした機械にはサイン灯が点るようにし、人間が直ぐに気が付いて補充することにしました(あんどん)。


以上から「非人間労力活用」では、想定外事態への対処思考がポイントだったことが分かります。非常時に暴走してしまう、停止装置を付けると静止して自分からは再び動き出すことのない機械に「人の脳力」を付加することが、メリット享受のポイントだったのです。



非人間脳力からの収穫に差をつける「人の良識」

生成AIは人間にとって「思考の一部を担う共同主体」になりつつあります。特に情報収集や分析を行うに当たっての扱える情報量や処理スピードではAIに軍配が上がるでしょう。創造的発想でもアイデアを融合するなどの手法を活用して短時間に多数の案を提示できます。

では生成AIは、その特徴を踏まえて利用分野に工夫しさえすれば、後は心配なく思考の代行を任せられるのか?そう考えるなら、落とし穴に陥る可能性があります。生成AIは超人的な「常識」を備えているけれど、「良識」の発揮は得意ではないからです。


常識とは「社会生活を送る上で『持っていて当たり前』の知識や価値観」、良識とは「健全な判断力をもって、物事の善悪を正しく見極める能力」だと言えるでしょう。

「結局、同じことにならないか?『常識とは何か』、『良識とは何か』を問うていけば、AIの方が膨大な情報をもとに平均値を導き出せるので、偏りのない『常識』、『良識』が導き出せるだろう。」その部分では、仰る通りです。

一方で良識は、実は相手や状況等によって正解が変わります。それをAIは判断できないので、良識が必要な場面での思考を代行させると問題が生じる可能性があります。


例えば他人の欠点を率直に指摘すべきか?ある人は「私はそれを望む。相手のためになるはずだ」と考える一方、別の人は「私は嫌だ。相手にとっても百害あって一利なしだ」と考えます。

相手がどう感じ受け止めるかも考えなくてはなりません。その忠告が初めてなのか、同じ忠告を伝え続けたかにも影響され、瞬時の回避が必要か、じっくり理解した上での回避行動が望ましいかにもよります。

当事者同士だけでなく、それを聞いている周囲の人に「切れ味の鋭い人だと受け取ってもらいたい」あるいは「じっくりと対応できる人だと受け取ってもらいたい」などの願望でも、発言内容が変わるでしょう。

このように「良識」が絡む場面に、すなわち人の価値観だけでなく状況認識、それも顕在化している状況の他に顕在化していない状況の認識、経緯なども踏まえなければならない判断に、AIは対応することはできません。


「非人間労力活用」におけると同様に「非人間能力(脳力)活用」においても「人」はとても大切な要素だと考えられます。AIの回答を「下書き」に「相手の心に届くか」や「理想に近付けるか」なども込めていく、「自分の良識を磨いていく」ことがポイントだと考えられます。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>

https://www.innovations-i.com/panf/id/?id=842



【筆者へのご相談等はこちらから】

https://stratecutions.jp/index.php/contacts/




なお、冒頭の写真は ChatGPT により作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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