Catch the Future<未掴>!

第74回

100億宣言企業が募集されています

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



政府がこの春から「100億宣言企業」を募集していることを、皆さんもご存じでしょう。この取組みは企業にとっても、そして地域ひいては日本にとっても「未掴を掴み取ろうとする」きっかけになると考えられます。今回はこのことについて考えてみます。



100億円企業を目指すということ

100億宣言とは何か?公式サイトには次のように説明されています。

<引用始まり>

「100億宣言」とは、中小企業の皆様が飛躍的成長を遂げるために、自ら、「売上高100億円」という経営者の皆様にとって野心的な目標を目指し、実現に向けた取組を行っていくことを、宣言するものです。

<引用終わり>


ここでのポイントは「売上100億円を目標とすること」、「実現に向けた具体的な取組みを行っていくこと」そして「それを宣言すること」です。このような宣言を行った企業を後押しするために政府は補助金や特別な税制を準備すると共に、100億宣言企業のネットワークを準備しました。

https://growth-100-oku.smrj.go.jp/


少なからぬ企業は成長を目指しており「(自ら定めた時期に)売上〇〇円企業になる」と目標を設定する場合もあります。中でも100億円は切れの良い数字なので魅力的ですが、さりとてどんな企業でも目指せる数字ではありません。

売上が100億円を超える企業は日本に2023年度現在15,159社しかなく、企業全体の1%に過ぎないからです。その範疇の企業になることを目指すとは、すなわち「野心的な目標」と言えるでしょう。

https://www.tdb.co.jp/report/economic/20250418-100okukigyo/(*)

「野心的な目標というより、今では非現実的な目標と言うべきだろう。失われた10年、20年、30年が進行中で逆風が吹いているのだから。」仰りたい趣旨、分かりますが、その逆風の中で100億円企業が増加していることに注目できます。上の調査(*)では、2023年度決算で初めて100億円の大台に乗ったのは609社、2022年度決算では641社でした。

「では新しい、成長中の企業なのだな。」これも、そうは言えないようです。同調査によると到達に要した平均年数(2023年度までの業歴)は42.2年でした。歴史ある企業でも成長を積み重ねて、あるいは成長のきっかけを掴んで100億円企業になったのです。



100億円企業になると宣言する意義

「逆風、あるいは『順風とは言えない』事業環境にあっても成長できる企業があるのは分かった。しかし成長には戦略が必要で、上手く策定する必要がある。当初は的確な戦略でも、事業環境の変化によっては調整が必要となるだろう。このような事情を踏まえると、100億円企業への成長は偶然の産物と言うべきだろう。」

確かに100億円企業の成長パターンには様々あり、ある報告書では自社開発、製品開発力(新製品企画)、自社ブランド、OEM供給、海外生産拠点、垂直M&A、水平M&A、販売方法の工夫、営業力強化、海外展開、多角化、付帯サービス強化という実に様々な(細かく見るとお互いに矛盾する策もある)などが挙げられていました。

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/seichoken/240628_report.pdf(※)

一方で上報告書(※)では成長パターンの選択よりも重要な要素として「経営者のモチベーション・成長志向」を挙げています。筆者としても、この指摘には納得ができます。

事業活動がコロナ禍により大きく阻まれ、その後に回復基調にあるがコロナ禍中に背負ってしまった財務問題が大きくのしかかっているので、コロナ禍以前なら「大した問題ではないね。しばらく耐えれば光明も差し込むだろう」と笑い飛ばせるような赤字が原因で存続の危機にある企業が、今後も持ち堪え、更なる回復を遂げて窮地を脱することができるようになるには、経営者の自覚(危機感)と「会社を立て直す、発展させるとの意思(覚悟)」がポイントになるからです。


この点で政府が「100億円企業になる」宣言を行うよう促したことは、とても意義のあることだと考えられます。調査(*)は2023年度以前3期の年商伸び率(平均)をもとに、現時点では100億企業ではない企業のうち2,398社が、2024年度以降3期以内に100億企業となる可能性が高い「ネクスト100億企業」に該当すると試算しました。

可能性があっても必ず成長できる訳ではありませんが、成長を宣言すると実現の可能性を高めることができます(加えて「中小企業成長加速化補助金」を活用できる可能性もあります)。宣言を事務局が確認済の企業数は1,419社(2025/7/7時点)で、8/25には追加確認企業が公表されました。


「次世代の輝かしい我が社」を積極的に掴み取ろうとする企業がこれほど存在することは、心強い限りです。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。

<印刷版のダウンロードはこちらから>





【筆者へのご相談等はこちらから】

https://stratecutions.jp/index.php/contacts/




なお、冒頭の写真は ChatGPT により作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

Catch the Future<未掴>!

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。