Catch the Future<未掴>!

第75回

100億宣言を実のあるものにする

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 




この春からの政府による「100億宣言企業」呼び掛けに多くの企業が応じており、嬉ばしいことです。今回は宣言をどうやって実のあるものにできるかを考えます。



生産性向上という100億円宣言のメリット

政府はなぜ100億宣言企業を募集しているのか?それには企業にとっても地域やサプライチェーンにとっても、ひいては日本全体にもメリットがあると考えてのことだと思われます。


今回の呼びかけが「売上を現状から〇割増加させる」形ではないことに、筆者は関心を持っています。成長を目指す計画を立てる場合、現状(売上・社員数・生産性等)をベースに小さなステップを積み上げていくのが実現性の高いアプローチです。

一方で売上100億円という目標を目指す場合、少なからぬ企業は着実なステップではない、一足飛びを目指す計画を立てなければなりません。このような計画は、もしかすると、実現性が低く見えてしまうかもしれません。

後者の計画には、前者の計画にはない効果が期待できます。生産性の飛躍的な向上です。労働生産性は小規模企業では小さく、規模を拡大するほど大きくなると示す統計があります。当該統計によると労働生産性は、小規模企業では503万円、中規模企業では579万円のところ大企業では1,589万円に達するとされています(財務省「法人企業統計調査年報」)。生産性問題は規模の拡大により解決できるとさえ、言えるかもしれません。


多くの企業は「売上高100億円」を達成すると、労働生産性が今より大きく向上するでしょう。「現状では不可能とは言わないが、そう簡単に実現できるとは思えない」レベルへの成長を目指すことで、生産性の低さに起因する幾多のマイナス要因を解消できると考えられます。



量だけ目指せば良いのか

「そうか、生産性の低さに起因する資金繰りの困難や社員のモチベーション問題は、売上あるいは社員という『量』の問題として受け止められるのだな。では量的拡大だけを念頭に入れて、全力を尽くそう。」

そう単純な話ではないことに、注意が必要です。売上ひいてはその原動力となる社員の増大という量的拡大により労働生産性が向上するとの現象は、統計的には間違いありませんが、実際にはそれとは反対の力が働いているからです。


社員が十数人程度の小規模企業で増員すると何が生じるか?今まで存在しなかった間接業務(マネジメントや社会保険等)従事者が必要になります。これまでは社長が直接に社員と対面、指示や気遣いなどマネジメントを行えば充分だった、あるいは社会保険等の手続きも専従者が専門家の助けを借りながら行えたでしょう。

しかし100億企業を目指すと社員は増加し、従来の直接的関係性だけでは対応できなくなります。例えば現場マネジャー、あるいは社会保険等の専任担当者が必要になります。もう少し拡大して製品毎などでセクションを設けると、現場マネジャーを統括するマネジャーが必要になるでしょう。こうして売上・利益に直接的に貢献しないメンバーが増えていきます。

大企業だと間接要員割合は10%程度と言われており1,000人の会社なら100人程度となる計算です。複雑な組織体制の会社なら2割に達するかもしれません。最近ではIT導入で管理の手間を省けますが、逆に導入費用などが利益の圧迫要因になります。


量に従って必要となる質的変化

では、なぜ規模拡大が労働生産性向上に繋がるのか?多数人が関わることで分業できるからです。これにより専門分野の習熟度が高まると共に、シナジー効果が生まれたり、余計な時間が省略できたりします(例:一人なら1作業の終了後に休憩が必要で作業がストップするが、分業なら次工程に渡せば良いのでストップがない)。


但しそれらの効果は自然に実現する訳ではありません。職場に協力し合う雰囲気(文化)がない、理解のないマネジャーのせいで部下のモチベーションが低下した、あるいはIT作業のため時間を取られ仕事時間が減少し、期待した効果が得られないという話を、よく聞きます。

適切な組織文化の醸成あるいは上手なIT活用など、的確なマネジメントが行われて初めて労働生産性が高まります。仕事の質を変えていくことが必要になるのです。


「量だけではなく質も変えなければならないなら大変だ。安易に100億円企業など目指すものではない。」確かに安易な考えで目指すことはお勧めしませんが、100億円企業を目指すことにはとても大きな価値があります。生産性の向上は当該企業だけでなく周辺にも良い影響を及ぼし、回りまわって地域やサプライチェーンの繫栄や存立基盤確立に繋がるからです。


「自社はどんな100億円企業を目指せるのだろうか?」まずそれを考えてみることから始めてみるよう、強くお勧めします。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>





【筆者へのご相談等はこちらから】

https://stratecutions.jp/index.php/contacts/




なお、冒頭の写真は ChatGPT により作成したものです。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

Catch the Future<未掴>!

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。