第68回
激動時代に起業家の発想を取り入れる
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫
先行き不透明感が漂う中、日本は閉塞感から抜け出せない状況でしたが、ここに来てアメリカの動向などの影響を受けて「激動」と言っても過言ではない状況に突入した感があります。このような環境でどのように事業を行っていけばよいか。今回はこのことを考えてみます。
「激動の時代にはじっと耐える」との戦略
激動の時代にはどうするか?「今まで通り、じっと耐える」と答える経営者も多いと思います。これまで企業支援を行ってきた中で多くの企業・経営者から「過去にも様々な激動時代があったが、全てじっと耐えて乗り越えてきた」というお話をお聞きしました。その流れで、今回の激動も耐えて乗り越えようとの戦略でしょう。
じっと耐えるとはどのような意味か?今までのビジネスを、今までの取組をベースに、強化するのではなく、逆に縮小したりコスト削減などする方向性と言えます。例えば産業資材を営業マンによる対面営業で販売していた企業なら、取扱商品を変えず、EC販売に舵を切ることもなく、売上低下を盛り返そうとキャンペーンを打つでもなく、逆に「激動の時代で当社にとっては逆風が吹いている状況なので、普段よりも活動量を落として出張費や残業代を削減、今までできなかった整理整頓などをして嵐を過ぎるのを待とう」との姿勢です。
このように対処していればいつの間にか激動の時代は過ぎ去り、一時は「どうなることか?!」と思っていたが意外と元の状況に戻り業況も回復していたのです。
じっと耐える戦略の落とし穴
現在、景気はまだら模様と言われています。好調な業種・業態・企業もあれば、不調にあえぐ企業もあります。不調にあえぐ企業は今まで通り「じっと耐える」を採れば良いのか?今までと同じ流れで決めてしまうと落とし穴に陥る可能性があると思われます。2点、注意すべき点があるからです。
第1点は、我が社に「耐える」体力がない可能性があることです。このような企業の多くは、コロナ禍が猛威を振るった時代、売上・利益の低下を手厚い金融支援で乗り切ったと考えられます。そして今も不調なら、債務超過に陥っているかもしれません。つまり自社の金庫にお金がなく、金融支援を受けられる可能性も非常に低いという状況なのです。
もう一つ考慮に入れる必要があるのは「今回の激動が落ち着きを取り戻した時に以前の状況、つまり自社製品・商品がコンスタントに売れ、利益が出せる状況に戻るのか」です。例えばコロナ禍期間中に対面コミュニケーションが制約されたので在宅勤務やWeb会議・営業等が活用されました。
今は対面コミュニケーションが可能ですが、在宅勤務を続ける企業や、Webを活用した営業活動に重点を置いている企業もあります。とすると通勤者や対面営業のサポート事業(例:ビジネススーツ等服飾販売)は以前の状況には戻らない可能性があります。そのことを、考慮に入れるのです。
エフェクチュエーション5原則を取り入れた取組
「企業体力が弱くなったので特段の取組は無理だ、耐えるしかないと思っていたが、考えてみると耐え続ける体力さえ不足して間もなく資金繰りが苦しくなると予想される。事業環境が以前に戻るとも考えにくい。この場合、どうすればよいのか?」現状の打開策を考えましょう。但し、その取組みが会社を危機に陥れないよう配慮します。起業家のアプローチが参考になります。以下は「エフェクチュエーション」がまとめる5原則です。
① Bird in Hand(手元にある材料を使う)
自社が持つ商品や顧客、取引先、従業員、ノウハウ等をベースに取組みを考えていきます。
② Affordable Loss(失っても耐えられるリスクを取る)
例えば最初から生産性の高い設備を備えて最大利益を狙うのではなく、従来の設備を使って最小限のコスト(失敗しても耐えられる損失)で済むように始めます。
③ Crazy Quilt(代えがたいパートナーを見つける)
容易ではない取組みに協力して未来を共創する仲間(顧客・パートナー・支援者など)を集めます。
④ Lemonade(逆境をレモネードに変える)
「ピンチの中にチャンスのタネが埋まっている」との発想でビジネスチャンスを捉えていきます。
⑤ Pilot-in-the-Plane(自分が運命を変えると信じる)
まさに「未掴」の精神を発揮します。
これまで継続的に会社経営していると「新たな試み」に乗り出す時も「基盤のある会社だからこそできるアプローチ」を自然に思いつきます。
しかし今、もしかしたらその発想が罠となるかもしれません。起業家の発想法を活用することで、現状を打破できる可能性があります。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
【筆者へのご相談等はこちらから】
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なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。
独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。
現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions
- 第68回 激動時代に起業家の発想を取り入れる
- 第67回 トランプ関税を乗り越える産業・政策
- 第66回 トランプ関税を考えて今後を見通す
- 第65回 企業が描きたい大戦略
- 第64回 大戦略を描いていくことの大切さ
- 第63回 技術か経営かではなく、技術も経営も
- 第62回 ニッサン・ホンダの破談をどう捉えるか
- 第61回 社会システム変化の軸となる主体性
- 第60回 社会システム視座の必要性
- 第59回 再構築が望まれるエコシステムの姿
- 第58回 突きつけられる課題と、その対応方法
- 第57回 「好ましいインフレ」を目指す取組
- 第56回 「好ましいインフレ」を目指す
- 第55回 地域の未掴をエコシステムとして描く
- 第54回 地域の未掴はどのようにして探すのか
- 第53回 日本の未来を拓く構想と新しい機関
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- 第50回 未掴を掴む原動力を歴史的に探る
- 第49回 明治時代の未掴、今の未掴
- 第48回 オリンピック会場から想起した日本の出発点
- 第47回 都知事選ポスターから考える日本の方向性
- 第46回 都知事選ポスター問題で見えたこと
- 第45回 閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」
- 第44回 競争力低下を憂いて発展戦略を探る
- 第43回 中小企業の生産性を向上させる方法
- 第42回 中小企業の生産性問題を考える
- 第41回 資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
- 第40回 「新しい資本主義」をどのように捉えるか
- 第39回 日本GDPを改善する2つのアプローチ
- 第38回 イノベーションで何を目指すのか?
- 第37回 日本で「失われた〇年」が続く理由
- 第36回 イノベーションは思考法で実現する?!
- 第35回 高付加価値化へのイノベーション
- 第34回 2024年スタートに高付加価値化を誓う
- 第33回 生成AIで新価値を創造できる人になる
- 第32回 生成AIで価値を付け加える
- 第31回 価値を付け足していく方法
- 第30回 新しい資本主義の付加価値付けとは?
- 第29回 新しい資本主義でのマーケティング
- 第28回 新しい資本主義での付加価値生産
- 第27回 新しい資本主義で目指すべき方向性
- 第26回 新しい資本主義に乗じ、対処する
- 第25回 「新しい資本主義」を考える
- 第24回 ChatGPTから5.0社会の「肝」を探る
- 第23回 ChatGPTから垣間見る5.0社会
- 第22回 中小企業がイノベーションのタネを生める「時」
- 第21回 中小企業がイノベーションのタネを生む
- 第20回 イノベーションにおける中小企業の新たな役割
- 第19回 中小企業もイノベーションの主体になれる
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
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- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
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- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!