Catch the Future<未掴>!

第85回

前提が転覆する可能性に備える

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



前回は、先行きが不透明な時代に中小企業が生き残る方法「己を知り自己鍛錬する」について検討しました。今回はその続編として、なぜ今「前提が覆る可能性を踏まえた経営行動」が望ましいのかを考えていきます。



日本発金融ショックが否定できなくなった?

現在は「先行きが不透明な時代」だと言われています。「先が読めないこと」と「前提が次々と覆っていること」という2つの要素が関わっていると考えられる中、AIの急激な進化などにより将来が見通せない点に注目が集まりがちですが、そもそも過去を振り返ってみても、将来が明確に見えていた時代はほとんどありません。

そう考えると、現在の不透明感の正体は、「前提が覆る頻度や規模が増していること」にあると考えられます。


そして今、もう一つ大きな前提が覆る事態を想定する必要があります。日本発で大きな金融ショックに見舞われる可能性を否定できないと考えられるのです。

これは、衆議院議員選挙に与党が勝つか、あるいは野党が勝つかという問題ではありません。どちらが勝ったとしても、積極財政と減税が実施される可能性は極めて高いことによるものです(本記事は2/5に作成しています)。


日本のようにGDPを上回る国債発行残高を抱える国がさらに借金を重ねることには、大きなリスクが伴います。

2022年、当時のトラス首相が打ち出した大規模な減税政策「ミニバジェット」をきっかけにイギリスの国際金融市場は大混乱に陥りました。いわゆるトラスショックにより長期金利が急騰、通貨ポンドと株式価格が急落する「トリプル安」となったのです。その結果、トラス首相は就任からわずか44日で退任に追い込まれました。



メカニズムはなくとも「思惑」による力が働く

国の財政悪化は、どのようなプロセスで金融市場の混乱をもたらすのでしょうか。大きく分けて二つが想定されます。

一つは因果関係に基づき、不可避的にショックが発生するプロセスです。もう一つは、市場の総意とも言える「人の思惑」、すなわち人々の心理や判断によってショックが発生するというプロセスです。

イギリスと日本では財政構造や国債の消化状況が異なるため、これ以上国債を発行しても日本では大きな金融インシデントにはつながらないとの考えがあるようです。これは、前者「因果関係プロセス」が前提と言えるでしょう。

一方で、国の財政状況を踏まえ「これ以上の国債発行は危険だ。回避すべきだ」と判断する「人の思惑」により発生すると考えると、たとえ金融的な因果関係が明確でなくても油断はできません。ギリシャをはじめ、すでに大きな金融ショックに見舞われた国々の例を考えると、日本も楽観視できないと考えるべきでしょう。



発生しなくても損はない対策

一方で「ショックが発生しない可能性があるなら準備は不要ではないか」という考え方もあるかもしれません。確かに、災害への備えが日常生活を脅かすほどの負担になるのであれば、その判断は慎重であるべきでしょう。

例えば地震に備えて大規模な地盤整備工事や耐震性能を持つ建物が必要になり、そのために通常の何倍もの費用を払う場合には、発生確率を無視することはできません。


しかし今回提案しているのは、企業が「己を知り、自らを鍛錬する」ことです。これは、どのような状況でも無駄になることはなく、常に有益な対策です。

仮に金融的平穏が維持されれば多少の冒険を伴う戦略的取組みが可能になるところ、この提案に基づいて慎重になることは「冒険のチャンスを逃すコスト」が発生したと言えるかもしれません。

しかしその程度のコストで、万一の際に甚大な被害を回避できる可能性があるなら、受け入れる価値があるコストと言えないでしょうか。



日本発金融ショックがもたらす「前提の転覆」

もし日本でトラスショックのような事態が起きた場合、これまでの前提が大きく覆ると想定されます。中小企業への支援策が行われない可能性です。

前回のコロナ禍では中小企業の突然死を防ぐため、ゼロゼロ融資をはじめ手厚い支援策が講じられました。それ以前の金融危機でも程度の差こそあれ、中小企業支援が実施されました。


しかし今後、トラスショックと同様のメカニズムで金融危機が発生した場合、これまでと同様の中小企業支援策が実施されるとは考えられません。

国の財政状況が発端なので、従来と比べると「ほとんど行われない」と言っても過言ではない水準になる可能性があります。


この事態がもし起きた場合、どのように生き残るか。それが「己を知り、自らを鍛錬する」準備です。

仮に想定した事態が起こらなくとも、この準備は事業に必ずプラスに働きます。ぜひ念頭に置かれるようお勧めします。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>

https://www.innovations-i.com/panf/id/?id=825



【筆者へのご相談等はこちらから】

https://stratecutions.jp/index.php/contacts/




なお、冒頭の写真は ChatGPT により作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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