第80回
通用しなくなりつつある経済原則:価格
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫

本シリーズ名である「未掴」とは、これから訪れる時代が「時間が経てば誰にも訪れる未来」というより、「掴む人には訪れ、掴まない人には訪れない」という違いが生じる時代だとの考えを示しています。では、どんな場面で未掴が掴める、あるいは掴めないとの差が生じてしまうのか、2025年の締めくくりとして考えてみます。今回は、今も通用しなくなりつつあり、今後はその傾向がもっと強まると考えられる経済原則を検討します。
適正原価+適正利益に収束していた価格(過去)
経済学では「ものの価格は一つに集約されていく」が前提になっています。需給バランスに従って価格が上下することはありますが、調整がきちんとなされていれば「適正に算出された原価に適正な利益を乗せた金額」に収束していくという考えです(宝石や美術品などの特殊な「もの」は例外です)。
単純労働の結果として生み出される「もの」の価格は、生産に要した労働時間でもって原価が算定され、それに「その社会で容認されている率」での利益を加えた額になる、と考えられます。生産・流通・販売などの各段階で多くの人が関与した「もの」も、それら人々の適正原価と適正利益を積み上げた価格に収束していくと考えられます。
一方で同一カテゴリに属する「あるもの」について、性能や利便性、耐久性などプラスアルファ要素が付け加えられた「もの」は、プラスアルファ要素がない「もの」よりも高価格でも取引されるという現象が生じており、「差別化」という言葉で正当化されています。
差別化されていないものは、なぜ「労働時間をベースに算出された原価に適正な利益を乗せた金額」に収束していくのか?その理由として「需要者が『これで十分だ(これ以上は必要ない)』とする数量の商品がなかったことが挙げられるでしょう。
十分な量がないという現象は、通常の「もの」以外、「お金」にも言えることでした。「ある人が、十分とは言えないお金を持ち、別の人が、十分とは言えない『もの』を持つ」という関係で取引(売買)をするので、両者が「そうだね、その価格がお互いに納得いくね」と言える価格を目指すことになります。それが「労働時間をベースに算出された原価に適正な利益を乗せた金額」だったのです。
「この金額を出そう」と思わせた者が勝つ(未掴)
しかし今、資源の掘削や大量生産、大量輸送の恩恵で「もの余り」の時代です。加えてお金も潤沢にあります。「そうかな、お金がなくて困っている人が沢山いるが。」残念ながらお金は多いが分配が上手くいってないのです。
物々交換時代に「お金」が生まれても、最初は十分ではありません。「貴金属(金)=お金」と定義される時代に随分と普及しましたが、まだ足りませんでした。産業革命などで「もの」が増えると、お金不足が経済活動の支障となります。
例えば「去年に100円で売れた製品が、今年は90円になった」状況では、理由がお金不足=お金の価値高騰だと分かっていても、モノを増産するモチベーションが下がります。少なくともモノと同じペースでお金を増やす必要があります。去年は100円だった製品が110円になると、経済活動は前向きになるでしょう。この考え方に基づきお金が金から紙幣となり、「インフレーション政策」が採られていたのです。
しかし今は、モノの取引に必要な額をはるかに超える「お金」があります。投資・投機が盛んになったからです。株式や先物取引される石油、穀物等、果ては外貨(FX)やビットコインなどまで投資対象となり、お金を増殖させています。
例えばFXに初めて投資するにはキャッシュを投入しなければなりませんが、「10倍のレバレッジを効かせたい」と希望すると投資額の10倍の外貨が買え、損することなく売却できれば投資額の何倍ものキャッシュを手に入ります。
投資で儲かった人がモノを買おうとする時「労働時間をベースに算出された原価に適正な利益を乗せた金額」にこだわるでしょうか?それに強く魅せられ「是非手に入れたい」と考えると常識を超える金額を払うでしょう。
以上から、未掴を掴める人とそうでない人が理解できるでしょう。「労働時間をベースにした原価に適正利益を乗せた金額が常識だ。そんな製品を作ろう」と考えると、従来と変わりません。
「我が社の製品に、皆が欲しいと思う要素をできるだけ盛り込もう。製品の性能や機能、耐久性だけでなくデザインやストーリー、あるいは所有欲・顕示欲をくすぐる要素まで、できるだけ取り込もう」と考える人は、常識価格をはるかに超える金額で買ってもらえる可能性があります。
価格の概念を修正できる人が未掴を掴める時代が今、来ようとしています。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
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なお、冒頭の写真は ChatGPT により作成したものです。
プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。
独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。
現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。
【落藤伸夫 著書】

『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions
- 第80回 通用しなくなりつつある経済原則:価格
- 第79回 未掴入口の捉え方
- 第78回 壁とするか、未掴への入り口とするか
- 第77回 生成AIを活用しながら人間力を発揮する
- 第76回 生成AIがもたらす革命的変化に対応する
- 第75回 100億宣言を実のあるものにする
- 第74回 100億宣言企業が募集されています
- 第73回 あいまいさを創造性に繋げる方法
- 第72回 あいまいさに耐えられない危険性
- 第71回 イノベーションの量産でジレンマ回避
- 第70回 イノベーションのジレンマは不可避か
- 第69回 激動の時代に「どのように」始めるか
- 第68回 激動時代に起業家の発想を取り入れる
- 第67回 トランプ関税を乗り越える産業・政策
- 第66回 トランプ関税を考えて今後を見通す
- 第65回 企業が描きたい大戦略
- 第64回 大戦略を描いていくことの大切さ
- 第63回 技術か経営かではなく、技術も経営も
- 第62回 ニッサン・ホンダの破談をどう捉えるか
- 第61回 社会システム変化の軸となる主体性
- 第60回 社会システム視座の必要性
- 第59回 再構築が望まれるエコシステムの姿
- 第58回 突きつけられる課題と、その対応方法
- 第57回 「好ましいインフレ」を目指す取組
- 第56回 「好ましいインフレ」を目指す
- 第55回 地域の未掴をエコシステムとして描く
- 第54回 地域の未掴はどのようにして探すのか
- 第53回 日本の未来を拓く構想と新しい機関
- 第52回 新政権に期待すること
- 第51回 日本ならではの外貨獲得力案
- 第50回 未掴を掴む原動力を歴史的に探る
- 第49回 明治時代の未掴、今の未掴
- 第48回 オリンピック会場から想起した日本の出発点
- 第47回 都知事選ポスターから考える日本の方向性
- 第46回 都知事選ポスター問題で見えたこと
- 第45回 閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」
- 第44回 競争力低下を憂いて発展戦略を探る
- 第43回 中小企業の生産性を向上させる方法
- 第42回 中小企業の生産性問題を考える
- 第41回 資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
- 第40回 「新しい資本主義」をどのように捉えるか
- 第39回 日本GDPを改善する2つのアプローチ
- 第38回 イノベーションで何を目指すのか?
- 第37回 日本で「失われた〇年」が続く理由
- 第36回 イノベーションは思考法で実現する?!
- 第35回 高付加価値化へのイノベーション
- 第34回 2024年スタートに高付加価値化を誓う
- 第33回 生成AIで新価値を創造できる人になる
- 第32回 生成AIで価値を付け加える
- 第31回 価値を付け足していく方法
- 第30回 新しい資本主義の付加価値付けとは?
- 第29回 新しい資本主義でのマーケティング
- 第28回 新しい資本主義での付加価値生産
- 第27回 新しい資本主義で目指すべき方向性
- 第26回 新しい資本主義に乗じ、対処する
- 第25回 「新しい資本主義」を考える
- 第24回 ChatGPTから5.0社会の「肝」を探る
- 第23回 ChatGPTから垣間見る5.0社会
- 第22回 中小企業がイノベーションのタネを生める「時」
- 第21回 中小企業がイノベーションのタネを生む
- 第20回 イノベーションにおける中小企業の新たな役割
- 第19回 中小企業もイノベーションの主体になれる
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
- 第10回 Futureを掴む人になる!
- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
- 第3回 5次元社会が未掴であること
- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!