Catch the Future<未掴>!

第88回

新たな産業革命期を乗り越えるには

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



前回、生成AIの急速な発達と利用により新たな産業革命が引き起こされる可能性について考えました。今回は、新たな産業革命期をどのように乗り越えていくかについて考えていきます。



前産業革命のキモは非人間労力の利用(仮説)

18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命は、何がその原動力だったのか?「非人間労力の活用」だったというのが前回の仮説です。

労力を人に頼ると、増やすことは時に難しく(人口の少ない国では至難)、「休憩が必要」とか「一人で100Kgのものは持てない」などの制約がありますが、動力源を備えた機械の導入で、それまでとは比較にならないほど大きな成果が得られるようになり、これにより「豊かになる方法」が多様化しました。


それまでは国の豊かさは領土の広さや人口によって決まる側面が大きく、そのため戦争による拡大を目指すこともあったのですが、産業革命後は狭く人口も少ない国でも国情にマッチした戦略製品を育てることで、一人当たりのGDPを飛躍的に増やし、豊かさを満喫できるようになったのです。

戦争に勝つ国ではなく、「望ましい産業構造」をフリーハンドに風呂敷を広げ、的確に描いて実現した国が栄えるという構図だとも言えます。



非人間脳力活用による仕事の変化

生成AIの普及は、これと同様の構図を可能にすると考えられます。「非人間脳力」の活用が可能になることで、人間が持つ様々な脳力のうち一部についてはAIは人間の代わりができませんが、代用できる部分なら人間が持つ「休憩が必要」とか「これまで勉強して来なかった分野への対応は下手」などの制約を受けずに働いてくれます。

言語化された情報の処理は、今や人間よりもはるかに短い時間で難関大学の入学試験に合格するレベルです。音声データの入出力にも対応するので、活用する人間側の負担も軽減されています。加えて絵画などの非言語情報にも高いレベルで対応するようになってきました。


これにより「なくなる仕事」が増えると予想されています。例えば18・19世紀の産業革命前は多数いた「糸を紡ぐ人」がいなくなった、それと同じように「特定の事務労働・知識労働」は生成AIに取って代わられる可能性があります。最近のニュースでは、あるメガバンクが5,000人以上の事務職を整理すると報じていました。



IT・AIの生産性を享受できる立場に立つ

「仕事がなくなっても心配する必要はない。生成AIによる高生産性の成果を刈り取る側に立てば良いのだ」という声を聞くことがあります。社会全体としては、その認識で良いのでしょう。

一方で「自分自身が生成AIによる高生産性の成果を刈り取る」立場になれるかは別問題です。先の例で、工場生産により「糸を紡ぐ」仕事を失った人が何の対応もせず工場生産による恩恵に与れた訳ではありません。例えば「機械を操作する」仕事をこなすことで、その恩恵に与れます。同様に今、「非人間能力活用」という新しい仕事に対応する必要があるのです。

前産業革命を参考にすると「非人間能力活用」にはレベル感(階層)があったと考えられます。「以前の生産方法に機械や動力を活用する」、「機械や動力の利用を前提とした、新たな生産方法を構築する(例:流れ作業の導入)」、「機械や動力を利用して、今まで実現できなかった製品を実現する(例:巨大鉄鋼船・高層ビル・高架橋を使う交通網)」、「以上をベースに新しい社会(社会システム)を創造する(例:巨大企業・グローバル企業、きめ細かい行政サービス)」などの層です。


残念ながら今の日本は、第1レベル「以前の生産方法において機械や動力を活用する」対応も十分ではありません。生成AI、いやその前のIT技術活用もままならず、低い生産性に甘んじているケースが多いのです。数年前まで、業務効率化に向けたIT製品・サービスは「分かりにくい、使い辛い、自社にマッチしない」という欠点がありましたが、今や急速に改善されています。前向きに導入・活用することが急務です。

そしていち早く第2レベル及びそれ以上に進むことがポイントです。例えばAmazonは書籍のネット販売(第2レベル)から、そのITシステムを応用するクラウドサービス(AWS:第3レベル)に発展させています。ここまで進んだので「生成AIによる高生産性の成果を刈り取る」立場を謳歌できるのです。日本も是非、ここまで進みたいと思います。


生成AIに関心を寄せて我が社事務の大幅な効率化を目指すのは、大変結構なことです。是非、進めていきましょう。しかしそれは「始まり」だということにも気付く必要があります。次の「AIを活用して仕事・ビジネスプロセスを革新する」や「新しい製品の実現を目指す」にも挑戦したいものです。こうすることで人口減少に直面する日本も、新たな転機を掴めると考えられます。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>

https://www.innovations-i.com/panf/id/?id=831

【筆者へのご相談等はこちらから】

https://stratecutions.jp/index.php/contacts/


なお、冒頭の写真は ChatGPT により作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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