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第89回

新産業革命期に生まれる「意味創造者」

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 




以前の産業革命が「非人間労力の活用」だったところ、今の産業革命では「非人間脳力(能力)の活用」がポイントになります。今回は、その時期に活躍する人材像、あるいは「人の役割再定義」について考えていきます。



非人間労力の利用が生み出した「管理者」と「資本家」

18世紀・19世紀の産業革命は「機械化の進展」として捉えられましたが、それは「非人間労力の活用」と同義です。このため「人間の役割そのものが書き換えられる」というもう一つの、より本質的な意味合いが生まれました。それに適合した人とそうでない人で大きな違いが生まれたのです。

産業革命以前、人間の基本的な役割は「作業する者」でした。親方と弟子という立場の違いはあれど、技術を身につけ、自らの手で価値を生み出すことに違いはありませんでした。作業の細かさや正確さ、速さ、道具等の所有が両者を分けるポイントでした。

しかし機械の登場により状況は一変します。まず単純な作業が機械に置き換わり、だんだんと手の込んだ、正確さやスピードが必要な作業も機械に切り替わりました。今では伝統的工芸品を除けば(その生産者は「作業者」ではなく「芸術家」に位置付けられる)、ほとんどの産物が機械により生産されるようになったのです。

かつての作業者は機械に部材を投入し、次工程に引き渡す役割、あるいはメンテナンスする役割を担うようになりました。


ここで新たに生まれたのが「管理者」と「資本家」という存在です。管理者とは、自ら手を動かすのではなく、「ゴール達成のため目標を選択、実現に向けた行動等は他者に委ね、進捗等を確認して必要に応じて措置する者」です。

資本家は更に進んで「取組み全体をシステムとして構築、成果が資産として積み上がる仕組みとした者」です。人・設備・資金を組み合わせ、継続的に価値が生まれる構造そのものを所有することで、「自らは付加価値に関わる仕事をしなくても価値が生まれ続け、富が積み上がり続ける」構図を手に入れたのです。


重要なのは親方が管理者あるいは資本家のいずれに移行するかの違いは、能力ではなく「努力を何に向けるか」で決まったことです。スタート点は同じでも、自分の活動を「消えゆく努力」に投入した者は管理者となり、「積み上がる仕組み」に投入した者は資本家となりました。「どの位置を目指すか」の違いだったとも言えます。



非人間脳力活用による「知識増殖者」と「意味創造者」

この構図は、現代の産業革命でも再現されています。現在進行している「IT・生成AIの台頭による非人間脳力(脳力)活用」は、人間の脳力発揮が機械に置き換わるという側面よりも「人間の役割そのものを再定義」という側面の方が意義深く、人のあり方に影響を与えます。

知識活用や判断など「脳力(能力)」の外部委託により、「判断者」であった知識労働者に新たな道が拓けました。

その先に現れつつあるのが「知識増殖者」と「意味創造者」です。知識増殖者とは、既存の意味や概念を拡張し、別の領域に適用し、展開し、増幅させる存在です。一つのアイデアを複数の形に変え、スピードと広がりをもって社会に流通させる、いわば「意味を動かすエンジン」のような存在です。


この役割、新たな産業革命の発生前から細々と存在していましたが、当時は「他人とは一味違う発想ができる人」だけが担える役割でした。それが今、生成AIの台頭・浸透で多くの人が担える役割になりつつあります。

既存の意味・概念を拡張して別領域に適用・展開・増幅させることは、今や特殊能力を必要とする取組みではありません。生成AIに適切な質問を投げかけることで、即座に・無限に行うことができます。今、この層を厚く育成することが急務とされています。


さらにその先にいるのが意味創造者です。彼らは既存の意味に囚われることなく、新たな意味を創造します。常に「何に、どんな意味を与えようか」を探り、今まで価値とされていなかったもの(財・サービス・状態・心境など)に価値を見出し、新しい評価軸を提示し、人や資本、技術を投入して実現すると共に、人・資本・技術の流れも反作用的に変えていく役割を果たしています。

実はこの役割も新たな産業革命発生前に存在していました。スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリンなどが知られています。


「そうか、他人が夢想しなかった理想を実現するもの(財・サービス・状態・心境など)を思い描けば良いのだな。」半分当たっていますが、それだけでは「後付けで『そのモデルは既に描かれていた』と称されるマンガ家」に留まってしまいます。

意味創造者は、それが実現されるよう設計し、実行し、試行錯誤した人です。以前には常人を超えるエネルギーや能力が必要でしたが、今ではサポート体制も整いつつあります。今の日本に求められるのは、まさに「意味創造者」だと言えるでしょう。




本コラムの印刷版を用意しています


本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>

https://www.innovations-i.com/panf/id/?id=836




【筆者へのご相談等はこちらから】

https://stratecutions.jp/index.php/contacts/




なお、冒頭の写真は ChatGPT により作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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