第48回
「やめる」のは「始める」より大変
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
日本茶が世界的なブームなのだという。実際に、日本の緑茶輸出はこの10年の間に、量で3倍、金額でも2倍以上と急伸している。その中心にあるのは抹茶を中心とした粉末状のお茶だ。
抹茶は茶の木に遮光シートを被せて育てた茶葉を使う。この茶葉を蒸して乾燥させたものを「てん茶」というが、これを粉末状すると抹茶になる。
抹茶の需要が急増しているため、茶の産地ではここ2、3年てん茶づくりに奔走している。中山間部に茶畑が広がる静岡でも、遮光シートを被せた茶畑が急増。若草色の丘が連なる茶所の景観は一変した。
お茶の価格はここ20年以上緩やかに下落してきた。こうした中で、生産者はこの間に4分の1にまで減少。茶畑の面積も生産量も激減した。そんな中での世界的な緑茶需要の拡大で、ここ2、3年のうちに価格は3倍程度にまで上昇。しかし、生産量はそう簡単には増やせない。
むしろ、生産者の高齢化と後継者不足で、廃業と隣り合わせの状況も変わらない。中山間部の斜面にある茶畑は、大型の機械を使った自動化や効率化も難しい。需要急増、価格高騰の反面で、廃業を検討している生産者は少なくない。産地はブームに沸く一方で、苦悩も渦巻いている。
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廃業もそうだが「やめる」という決断はいろいろと難しい。
気分的にも重く苦しい。続けることや、新しいことを始めるよりも、気分的には辛い選択かもしれない。役割を終えたモノやムダなコトはやめるべきなのだが、それがなかなか難しい。企業でも、撤退の判断などは感情的な要素も混じり難航しがちだ。
しかし、そうした判断が迫られる局面は人口が減少する中で増えてくる。
例えば学校の統廃合。全国的に廃校が増えている。静岡市でも今春、2つある市立の高校を廃校して新たに中高一貫校を作るという構想が示された。統合再編ともいえそうだが、対象となった2つの市立高校の在校生や父兄はもちろん、卒業生からも動揺や反対の声が噴出し、ちょっとした騒動になっている。
対象となった静岡市立高校は地元で人気のある進学校だ。一方の清水桜が丘高校はサッカーの名門校。前身の清水商業高校だったころも含めると全国高校サッカー選手権に13回出場し、3回の優勝を果たした。卒業生には小野伸二氏や名波浩氏、川口能活氏らワールドカップに出場した日本代表選手も多い。
だからどうというわけではないが、よく知られたところだけに、地元のショックは大きい。
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静岡県は人口規模が比較的大きい。しかし、人口減少も大きい。このため、将来の人口規模を見越して公立の学校や病院を再編する動きが加速しつつある。
このほかにも、今年は清水港と土肥港を結ぶ駿河湾フェリーの存続可否に関する判断も注目されている。これらの判断は採算性の観点で進められるが、必要性もさることながら、関係する人の思い入れが強ければ存続を求める声も強まる。
だからといって、無理やり維持するわけにもいかないのだろう。自治体の財政も厳しい。そしてこれは、そろそろ地方だけの話ではなくなる。
財務省は4月、2040年までに少なくとも250の私立大学、14万人程度の学部定員を減らす必要があるとの数値目標を公表した。国内には600以上の私立大学があるようなので、今後15年ほどで4割の私立大学がなくなるかもしれない。
そんなことで、これからは「どうやめるのか」も社会の大きなテーマとなりそうだ。これは、企業経営の世界では以前から問われてきた。ただ、企業経営の場合は、何かに資源を集中したり、新しい何かを始めるためだったりする。近年はデジタル化による事業の変革などもある。時代に合わせ、常に事業を見直せ、と。
その点、社会や個人が何かを「やめる」のは難しい。これまでも少なからずやめるケースはあったが、今後はそうしたケースが急増する。ダメージの少ないやめ方、スムーズで関係者の心労も少ないやめ方を考えたいものだ。
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