よどみのうたかた

第26回

価格よりも不安なコメの管理体制

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

静岡市での生活が2年半を超えた。この間、スーパーでの食品や日用品などの買い物はほぼ全てキャッシュレス決済にしてきた。

これはなかなか便利なのだが、それ以上にいろいろなことがわかるのがおもしろい。例えば1か月単位の出費額の推移。単身生活だが、宴席でもない限り自炊を基本としており、金額の推移が少しは気になる。家計簿でもつけない限りこういうのは大雑把になりがちだが、キャッシュレス決済に集約したことで把握できるようになった。そんな数字の推移をみていると、よく言われる物価高騰の形跡が色濃く出ていることが分かる。

データはここ2年半分しかなく、買うものは個人の趣向を大きく反映しているため、一般的に参考となるような話ではない。が、コメや野菜、魚の値上がりがこの間続いてきたことをよく反映している。全体としては、静岡に来た翌年の2023年と昨年を比較するだけでも3割近い上昇。それでも単身だと感覚的にはわかりにくいが、4人家族の場合や飲食事業者の場合は看過できないレベルだろう。

5月12日に農林水産省は、全国のスーパーで4月28日から5月4日に販売されたコメ5キロ当たりの平均価格が18週ぶりに下落したと発表した。前週より19円安い4214円だったという。政府備蓄米の放出が始まって1カ月以上になるが、ようやく店頭価格は下落に転じたという。ただ、この価格は依然として前年同期の2倍以上と、過去最高レベルで推移している。

価格が高騰するということは、需給がひっ迫しているということだろう。当初は、例年並みとされた昨年のコメ生産が実は猛暑で事実上不作だった説、外国人観光客の増加で需要が上振れした説、投機筋の誰かが買い占めている説などが指摘された。しかし、備蓄米を放出した後も価格が上昇を続けてきたことや、現時点でも高止まりの状態にあるのは不思議だ。不思議というか、コメの管理や流通システムに問題があるとしか考えようがない。

実際に、備蓄米放出のニュースがマスコミで取りざたされる傍らで、行きつけのスーパーにはそもそもろくにコメがない。おまけに、野菜の価格は落ち着いてきたが、タマゴやサバ、カツオ、シラスなども高騰している。

それらを避ければいいのだが、料理のレバートリーが追い付かず対応できない現状では、それらを買う。結果として食料調達費は上昇を続けている。困ったことだ。

そんなことで、食料調達費の上昇は不徳の致すところでもある。料理技術の向上で多分に対応できるという説もある。そんな中でも、コメだけは悩ましい。これもなんなら工夫すればよく、ダイエットと称して2割程度減量するほうが健康上もいい可能性はある。とはいえ、コメとカツオを同列で議論してはいけない。

昨年来のコメ騒動に対応するため、政府は備蓄米の放出を続けてきた。その放出量は、集荷上不足しているとみられた量を満たしている。それでも、消費者がアクセスするスーパーなどの店頭にはほぼ届いていない。これでは価格が下がるわけもない。

日本では長年にわたって減反政策を続け、コメの生産量を調整、というか減らしてきた。それはひとえにコメの価格を維持するためだった。コメ騒動が起きる前までは5キロ3000円以下が普通だったわけだが、これは生産者や流通業者にとっては厳しい低価格だったともいえる。そう考えると、価格上昇が生産者に還元されているならまだいいのだが、今回の高騰はそれとは違うメカニズムで起きている。

監督官庁である農林水産省は、それなりに管理しているものかと思っていたが、蓋が空いたらなんだか不思議な状況だ。オープンで自由な市場とは違い、備蓄米による需給調整も難しいということだろうか。こんな状況だと、有事の際の備蓄米放出だってきちんとできるのか不安しかない。日本のコメ事情はけっこう簡単に混乱させることができる、と公言しているようなもんだ。

先日、有名な報道カメラマンが講演でロシアのウクライナ侵攻について話していたのが思い出される。

そのカメラマンは、ウクライナが3年以上にわたってロシアと戦い続けられる理由の一つとして食料の自給を挙げた。ちなみにウクライナの食料自給率は140%程度。日本は太平洋戦時中で80%程度、いまや40%を下回る水準だ。

今回の日本におけるコメ騒動は、5キロの価格が高いという話だが、この調子だと食料安全保障上も大いに不安だ。日本では江戸時代も再三にわたって食料不足に陥り、社会は混乱したが、戦後はわざわざ減反してまで生産量を減らしてきた。これから増やすにしても、生産者の減少や高齢化など課題だらけ。増やせば余る、ということもあるが、現状を見る限り、将来的に足りなくなってゆくことが不安でならない。

 

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