企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第9回
「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
働き方が多様化し、便利なツールも増えた現代において、ウェルビーイング(Well-being)の向上を目指す「より良い会社のあり方」を追求する傾向が社会全体で進んでいると感じます。
ウェルビーイングには「安心して働けること」が不可欠ですが、一方で、事業活動は常に多様なリスクと隣接しているものです。
今回のコラムでは、「もしも」の時に事業を止めないための備えである「BCP」と、その有効な手段となり得る「BPOの活用」について、私たちaubeBizの実践例も交えながらお伝えしたいと思います。
1. なぜ今、BCPが求められるのか?
大規模な自然災害や、 パンデミック、戦争やサイバー攻撃など、近年、私たちは「想定外」が次々と起こる時代に生きています。また日本では、深刻な労働人口の減少と連動して採用率・定着率が低下。予期せぬキーパーソンの離職が非常に大きな痛手となる・・・そんな企業も少なくありません。
事業規模にかかわらず、これらのリスクは「事業の存続」という深刻な事態に直結する可能性があります。以前から「BCP(事業継続計画)」という言葉は存在していましたが、ここ数年でその重要性が急速に高まっています。その背景には、主に3つの変化があります。
① サプライチェーンの複雑化
自社が直接被災しなくても、部品の供給元や配送を担うパートナー企業が機能不全に陥れば、事業も止まってしまいます。近年、大手企業がサプライチェーン全体のリスク管理を強化する中で、取引先である中小企業に対しても、BCPの策定状況を評価項目に入れることは、もはや珍しいことではありません。「備えがない」という事実が、大切なビジネスチャンスを失う引き金になるかもしれないのです。
② 信用の価値と脆さ
例えば、自然災害の影響でお客様への納品が遅れたとします。事情を説明すれば理解はしてもらえるかもしれません。しかし、もし競合他社がBCP対策を万全に施し、有事の際にも何事もなかったかのように製品を届けたとしたらどうでしょうか? お客様の心に「何が起こるか分からない時代、いざというとき頼れるのはどちらか」という判断が刻まれてしまうかもしれません。長年かけて築き上げた信頼関係も、たった一度の「もしも」で、脆く崩れ去る危険性をはらんでいます。
③ 人材の流動化
特定の業務を一身に背負っていたベテラン社員が、ある日突然、より良い条件の会社へ転職してしまう。これは採用や就職が「売り手市場」の現代において、いつ起こってもおかしくないリスクです。その人がいなくなった途端、お客様への対応品質が落ちたり、社内業務が混乱したりするような「属人化」は、大きな経営リスクといえます。
BCP対策とは、こうした様々なリスクから会社という共同体を守り、従業員とその家族の暮らしを守るための、経営者が果たすべき重要な責務なのです。
2. 「BPO活用」が、BCP対策の心強い味方になる理由
「BCP対策と言われても、何から手をつけていいか分からない…」「大掛かりな投資は難しい…」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。そんな皆様にこそ知っていただきたい選択肢の一つが「BPOの活用」です。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)とは、経理や人事、カスタマーサポートといった社内業務を、その道のプロである外部チームに継続的に任せる経営手法。一般的には「コア業務への集中」や「コスト削減」といった“攻め”の文脈で語られがちですが、実は「リスク分散」という“守り”の効果もとても大きいのです。
具体的には、以下のような効果が期待できます。
・地理的な分散
本社がある地域とは別拠点、もしくは全国や海外にリソースを持つBPOパートナーと連携する。こうすることで、特定の地域を襲う大規模災害(地震、豪雨、大雪など)のリスクを直接的に回避できます。自社のオフィスが閉鎖されても、業務を継続できる体制をつくれます。
・人的リソースの分散
「経理のことはAさんしか分からない」というような状況は、非常に危険です。BPOを活用することで「Aさんと同じスキルセットを持つ経理のプロチーム」が、常にバックアップとして存在することになります。これは「属人化」の解消と同時に、一人の社員への過度な負担を軽減し、結果として離職リスクの低減にも繋がることもあります。
・システム・インフラの分散
例えば自社のサーバーが停電や物理的な損傷でダウンしても、BPOパートナーとクラウドベースでの業務体制を構築していれば、業務をストップせずに働き続けることができます。クラウド上で共有していたデータは実質上のバックアップとなり、大切なデータやナレッジの消失を防ぐ手段にもなるのです。
「業務を外部に出す」ことへの心理的な抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、BPOは業務の「丸投げ」とは違い、組織の課題や目標も共有し、共に効率化や品質向上を目指す、いわば外部の「パートナー」です。
人材不足時の手段としてだけではなく、むしろ、人がいて安定的に回っている時にこそ、突然のリスクに備えるためにBPOを活用して仕組み化を進める企業様も増えて来ました。
もちろん、ナレッジをしっかり自社に残してくれるか?など、委託先を見極めることは大切ですが、頼もしいBPOパートナーへアウトソーシングすることは、会社の生命線である業務プロセスを、複数のエンジンで動かすための戦略的な選択とも言えるのです。
月々の保険料を支払って万が一の火災や事故に備えるように、BPOコストを「事業継続のための保険」と捉える。そのような視点を持つことも、現代の賢明な経営判断と言えるのではないでしょうか。
3. aubeBizが考える「止まらない体制」の3つの条件
では、具体的に「止まらない体制」はどのようにつくれば良いのでしょうか。私たちaubeBizでは、以下の3つのステップを重視し、お客様をご支援しています。
ステップ1:見える化(可視化)
まずは、社内の仕事が「誰にでも見える」状態をつくることから始めます。
「あの案件の進捗、どうなってる?」がすぐ分かる状態に。たとえば、見積書や請求書のテンプレートをクラウドに移したり、メールをチャットツールに切り替えるだけでも、“見える”文化が育つ大きな一歩となります。
ステップ2:仕組み化(標準化)
「この仕事は誰でも一定の品質でできる」状態を目指します。「その人にしかできない匠の技」は確かに素晴らしいものです。しかし、事業を継続していくためにはリスクも伴います。例えば長年活躍してくれた経理や事務のプロフェッショナルの方など、その匠が持つ暗黙知を大切にし、尊重しながらも、いかに組織全体の共有財産としていくかが、重要な課題となります。とはいえ、いきなり完璧なマニュアルを作る必要はありません。業務の流れを箇条書きにしたチェックリストを作ったり、手順を説明する短い動画で撮影するだけでも立派なマニュアルになります。
ステップ3: 分散化(テレワーク・外部連携)
「場所の制約なく仕事ができる」状態を構築します。 社内業務が「見える化」「仕組み化」されていれば、テレワークの導入や外部パートナーへの業務委託のハードルは格段に下がります。業種にもよりますが、バックオフィス業務や制作業務においては、オフィスは「毎日出勤して作業する場所」から「チームで創造的な議論をするために集まる場所」へと、その役割を変化させていくかもしれません。
私たちは、「見える化」「仕組み化」「分散化」の3つの要素が揃うことで、とても企業の磐石な基盤が築けると考えています。これにより、担当者の不在や特定の拠点における有事の際にも、お客様へのサービス提供を滞らせることはありません。
4. 実際の支援事例から
実際に、BPOの活用によって危機を乗り越え、より強い体制を築かれたお客様の事例を少しだけご紹介します。
地方団体様:長年事務局を支えてきたスタッフの方が急病で業務が停止。業務の棚卸しから始めてBPOを導入し、無事に運営を再開できたと同時に、再現性のある仕組み化・マニュアル化を進めました。その結果、スタッフの方は回復後も、過度な負担なく復帰することができました。
EC企業様:お一人で管理されていたカスタマー対応業務。仕組み化とマニュアル作成を進め、属人化を解消した上でBPO化。担当者の方の心理的負担が減っただけでなく、より安定した顧客対応が実現しました。
自治体事務局様:災害時の庁舎閉鎖という事態を想定し、平時から業務の外部化とクラウド化を推進。有事の際にも住民サービスを継続できる体制を構築されました。
会社の“体幹”を鍛え、未来を拓くために
BCP対策は、変化の激しい時代を乗り越えるための、会社の“体幹”を鍛えるトレーニングのようなものだと考えています。
“止まらない体制”を整えることで、社員が安心して働ける。属人化が減り、業務がスムーズに進む。そんな日々の積み重ねが、結果として「選ばれる会社」へとつながっていくのです。
未来を予測することはできません。でも、「何があっても大丈夫」と言える体制をつくることは、今日からでも始められます。
このコラムが、皆さんの“しなやかで強い組織づくり”のヒントになれば、これほど嬉しいことはありません。
《次回予告》 「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜をお伝えします。
プロフィール
株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
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