産業最前線

第1回

巨大地震とクルマ

イノベーションズアイ編集局  産業ジャーナリストK

 

2024年元日に発生した能登半島地震。今年8月時点には死者だけで650人を超え、石川県・能登地方を中心に甚大な被害をもたらした。筆者は金沢市出身で高校生まで実家で過ごした。その後、大学生から社会人に至るまでの記憶をたどっても、石川県でここまでの大規模災害が起きたことはない。

東京から帰省していた1月1日午後4時過ぎ、石川県輪島市と志賀町で最大震度7を観測した巨大地震に襲われた。正月の買い物を終え、夕食を控えてマンションでくつろいでいたところだった。親族と一緒だったが、建物が縦横に想定外に大きく揺れ、棚から食器類などが次々に床に落ちて割れた。すぐに緊急ニュースを見て、被災地・能登がとんでもない事態に陥っていることに驚愕していた。

その後しばらくの間、自分の無力さを痛感した。能登の自宅の断水などで金沢へ避難して来る家族連れも多かった。現在は東京在住で地震にはそこそこ慣れているものの、あの激震の恐ろしさは今も忘れられないくらいだ。

ここ数年、巨大地震とクルマの関係は一段と深くなっているのではないか。地震の影響がある程度落ち着いた頃、能登には他地域の複数自治体から職員が派遣され、多くの救援ボランティアも訪れ、いつもごった返していた。ただ、地元の住宅や旅館、道路、市場などの崩壊が相次ぎ、現地で支援活動に乗り出しても、精神的にも肉体的にも疲れた体を癒す宿泊・休憩場所が極端に不足していたのは間違いない。被災地で見かけた光景で特に印象的だったのは、被害に遭ったマイカーはもちろん、キャンピングカーの数の多さだ。プライベート空間が確保され、家族に高齢者・障害者がいたり、ペット連れでも安心して避難生活を送れるメリットが特徴だ。

日本RV協会のデータでは、キャンピングカー保有台数は16年に10万台の大台を突破、05年の調査開始以来増え続けている。24年には前年比で1万台増の16万5000台と社会に浸透してきていることがよく分かる。自治体・企業や個人の間では、キャンピングカーを防災対策に有効活用しようとする動きが加速。本来はキャンプなどレジャー向けのイメージだったが、新型コロナウイルス禍を背景にキャンピングカーブームも巻き起こり、クルマとしての用途は多様化している。

その勢いを追い風に、旅行や車中泊をするクルマユーザーも急増中だ。災害時でも重宝される「道の駅」の駐車場や高速道路の休憩スペースでのマナー問題でトラブルとなる事態も少なくない。このためローソンは新たな取り組みとして、千葉県の6店舗で駐車場を使用可能な有料サービスを始めた。7月から1年間の実証実験だが、コンビニは夜間も駐車場が開いている。トイレは24時間使用でき、飲食品もいつでも購入できる。常時有人な点も踏まえ、コンビニの特性で安心かつ気軽に利用でき、企業として結果次第では新規事業化も狙うというわけだ。

近年は消費者の旅行ニーズの多様性やホテル宿泊費の高騰を受けた節約志向から、キャンピングカーに限らず、ミニバンなどによる車中泊の需要が全国各地で高まっている背景もある。

9月1日は「防災の日」だ。1923年の関東大震災、59年の伊勢湾台風を受け、国民に理解を促し、日常生活における〝災害への備え〟を図るために創設された。調査会社のインテージが8月にまとめた防災意識に関する全国調査によると、家庭での防災実施率は52%と統計として過去最高を記録。具体的な回答で「簡易トイレの準備」「避難所を確認・家族で共有」などが目立つのは、大規模災害がいつどこで起こるか分からない行動心理の表れだろう。

ただ、能登半島地震もそうだったように、南海トラフ巨大地震、首都直下地震などの発生は現代の科学では予知できない。

被災リスクは各地域で異なるのは当然だが、国が一定の支援を施せば、各自治体・企業が対策の事前準備を整えることも可能だ。われわれ住民・社員にいざという時に備える行動を促すためにも、各地の実情に応じた防災・減災意識のレベル向上を進めることが重要といえる。

 

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