鳥の目、虫の目、魚の目

第45回

「まぜこせでええやんか」 マイノリティー集団が多様性社会を訴える ~一般社団Get in touchが舞台公演~

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 

こんなパフォーマンス集団がいたのかー。どんなパフォーマー(演者)が登場するか事前に分かっていたとはいえ驚いた。義足、車椅子、自閉症、全盲、トランスジェンダーなど個性豊かなマイノリティーが入れ代わり立ち代わり歌やダンス、パフォーマンスを披露した。「健常者に交じって」というより「健常者も加わって」という感じで、摩訶不思議な演者たちのカラフルな衣装とパワフルなステージに魅せられた。

俳優の東ちづるが代表を務める一般社団法人Get in touchが7月27日、東京・渋谷の渋谷区文化総合センター大和田さくらホールで開催した舞台公演「『まぜこぜ一座』 月夜のからくリハウス 楽しい日本でSHOW!?」を観てきた。

一座の「まぜこぜ」にどんな意味あいを持たせたのか。座長も務める東は「まぜこぜご飯から発想した」と話した。それぞれの食材の特性を生かしてこしらえた具材を混ぜ合わせるからおいしくなる。同じように、「違うって生きづらい」と感じるマイノリティーの特性(違い)に配慮した社会になれば、みんなが幸せになれるはずだ。そんな思いから、個性的な演者が集まる一夜限りの一座を結成し、エンターテインメントの力で誰も排除せず、誰もが自分らしく生きる「まぜこぜ社会」を目指して活動している。

「ちがいをちからにするまち」を標榜する渋谷区が舞台を共催。駆け付けた長谷部健区長は「多様性とインクルージョン(包括性)を意識しており、協調が大切。いろんな人、いろんな考え方があることを分かってほしい」と挨拶した。

パンフレットには「世界で唯一無二の1年に1度の『魅せ者ショー』」と活字が躍る。どんなステージが始まるのか開演前からワクワクする。最初に登場したのは、男女の声を操る両声類シンガーソングライターの悠以。「どっちでもええやんか、まぜこぜでええやんか」と熱唱すると、会場のテンションが一気に上がった。

ゲストとして招かれた月乃光司の絶叫朗読も観客の心をつかんだ。引きこもりとアルコール依存症を克服し会社員として働きながら、体験をもとに詩をつくり朗読活動を行う作家であり、心身障害者表現イベント「こわれ者の祭典」代表を務める。

4年間のひきこもり時代に着ていたパジャマ姿で、自作詩「仲間」を感情たっぷりに読み上げ、「生きづらさを共に分けあって生きていこう。仲間がいれば、きっと生きていける」と説いた。深刻なテーマもユーモアを交えて表現するため、聞く人の涙と笑いを誘い、生きづらさを感じる人の共感を生む。そんな詩を発表してきた。

義足ダンサーの大前光市、車椅子ダンサーのかんばらけんた、全盲のシンガーソングライターの佐藤ひらり、誇張された女性の姿でパフォーマンスを行うドラァグクイーンのエスムラルダなど各ジャンルで活躍する演者が絶え間なく登場、唯一無二と自認するパフォーマンスを披露した。

演者が交代する時間の合間を縫って、MC(司会)を務めた東と身長114センチの日本一小さい俳優・手品師のマメ山田、声優・マルチクリエーターの三ツ矢雄二の3人が派手な衣装で登場。ボケとツッコミの軽妙なトークで観客の笑いを誘った。

観る側もまぜこぜだった。誰もが楽しめるように手話通訳・文字通訳・バリアフリー音声ガイド付きで、聴覚障害者優先席、車椅子スペースもそろえる。演者と一体となって楽しめる空間になっており、観客も音楽に合わせて手拍子を打ったり、目を見張るパフォーマンスに賞賛の拍手を送ったりしていた。乗りに乗って体を動かす観客もいて大いに盛り上がった。

フィナーレには30人超の演者がステージに集結、「人生は祭りだ。共に生きよう」と歌い、踊った。アッという間の2時間だったが、観たことがない極上のエンタメを堪能した。同時に生きづらさを共有し多様性を認めあう社会の実現に向けて「何ができるか」を考えさせられた。

Get in touchは2011年に活動を開始し、12年に法人化した。アートや音楽、映像、舞台などのエンタメを通じて、まぜこぜ社会の実現を目指す。その活動の一環として、まぜこぜ一座を17年に旗揚げした。それから8年が経ち、目指す社会は到来したのか。

「(旗揚げ公演)当時はテレビや新聞など多くのマスコミが取材に来て『まぜこぜ社会の扉が開く』と思ったが、翌日のテレビでは1秒も放送されなかった。壁は高くて分厚かった」。7月6日に行われた今回の公演に関する記者会見で、東はこう振り返った。

今や世界中で、共生社会やDE&I(多様性・公平性・包括性)の重要性を盛んに訴えているが、むしろ分断が深まり、排外も広がる。障害者や高齢者、外国人が困っていても「見て見ぬふり」する健常者は少なくない。建物や設備などハードのバリアフリーは進むが、困っている人に声をかけたり、手助けを申し出たりして気遣うハートのバリアフリーはなかなか進まない。マイノリティーへの理解は深まっていないのだ。

だから東は「遠慮するのではなく、配慮が大事」と強調する。誰も排除しない、させないで「人に役立つ社会をつくる」と言い切る。そのうえで「私たちの目標は解散することだが、まだまだ早い。マイノリティーに施しではなく、チャンスがある社会をつくる」と意気込む。「夢は海外公演」とも話した。代表を降りる日は先になりそうだ。

 

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