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第4回

脱炭素への対応が勝ち残りの道、事業構造の転換に本気に取り組むとき

イノベーションズアイ編集部 2021年12月10日
 
英国グラスゴーで11月13日まで開催された国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議(COP26)では、「2050年脱炭素社会」実現に向けた強い意志が示された。採択された「グラスゴー気候合意」を読んでダーウィンの言葉を思い出した。「生き残るのは最も強い生き物でも、最も賢い生き物でもなく、変化に最も対応できる生き物だ」。現状の社会経済システム下での強者といえども脱炭素社会で勝ち残るとはかぎらない。むしろ脱炭素への事業構造転換を果たした企業が勝者になる。

COP26では「世界の気温上昇を産業革命前から1.5度に抑えるための努力を追求する」とした成果文章を採択した。二酸化炭素(CO2)など温室効果ガス排出量の多い石炭火力発電の「段階的削減」に向けた努力を加速させる方針も明記された。

1.5度目標を達成するには、温室効果ガスの排出量を30年までに10年比で45%削減し、50年までに実質ゼロにする必要がある。しかし、協議では各国の足並みの乱れが目立った。石炭火力については成果文書採択の土壇場で、石炭火力に依存するインドが「フェーズアウト(段階的廃止)」から「フェーズダウン(段階的削減)」に変えるよう主張、世界最大の温室効果ガス排出国でありながら30年まで排出量を増やし続ける方針を変えない中国が追随した。

50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を目指す日本は、岸田文雄首相がCOP26の首脳級会合で30年度の温室効果ガス排出量を13年度比46%削減する目標を表明したが、10月に決めたエネルギー基本計画では電源に占める石炭火力の依存度は30年度で19%と依然高い。石炭産出国で日本以上に石炭への依存度が高いドイツでは社会民主党、緑の党、自由民主党の3党が11月24日、連立政権樹立で合意。気候変動対策では石炭火力の全廃時期をメルケル政権時代が決めた38年から30年に前倒しすると表明した。

それだけに日本の遅れが目立つ。「というより『逆行している』と世界では写る」との声も環境保護団体から聞こえてくる。このままでは「脱炭素の発展途上国」とのレッテルが張られかねない。

足元の電源構成は、石炭や石油など化石燃料が77%を占める。一方で再生可能エネルギーは20%に届かない。日本は発電時にCO2を出さない原子力発電所を増やし脱炭素と電力の安定供給を目指す戦略を描いた。しかし11年の東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所の事故で行き詰まった。原発の再稼働は進まず、新・増設の議論も封印したままだ。再生エネを主力電源に位置付けたのは18年と遅れた。現状では「50年脱炭素」の道筋は全く見えないといっていい。脱炭素社会の実現に向け温室効果ガスを排出しない電源を増やし、量を確保する政策が不可欠だ。

脱炭素の流れは今や、だれにも止められない。最新鋭火力発電設備も今後5~10年で経済的価値はなくなる。国際決済銀行(BIS)は脱炭素で価値を失う資産規模は最大18兆ドル(約2000兆円)に達する可能性を指摘する。資産価値を失うわけで企業経営が揺らぎかねない。金融機関も投融資が焦げ付くリスクにさらされる。一方で脱炭素への移行はコストも時間もかかる。しかし、その時間的猶予はあまり残されていない。


地球温暖化という人類にとって深刻な危機が迫る中、各国は本気になって脱炭素に取り組むべきときだ。企業も環境意識を高める市民の声に応えられなければ支持を得られず、市場からの退出を余儀なくされる。言い換えると国にとって産業構造の転換、企業にとって事業再編の好機だ。生かさない手はない。


「100年に一度の大変革期」を迎えた自動車産業が典型例だ。排ガスを出さないゼロエミッションの流れは加速、ガソリン車から電気自動車(EV)など電動車へのシフトが間違いなく進む。対応できないメーカーは脱落するしかないサバイバルレースが始まったわけだ。各社がEVシフトを加速するのは脱炭素に向けた環境規制の高まりがある。欧州連合(EU)の欧州委員会は7月、35年に域内の新車が排出するCO2をゼロにすることを義務付ける規制案を発表した。中国も35年までに、新車販売の全てをEVなど新エネルギー車やハイブリッド車にする計画だ。


「火力発電が大部分を占める日本ではEVを増やしても脱炭素になりにくい」と指摘する声がある。しかし日本メーカーもEV化にかじを切るしかない。高性能ガソリン車を発売しても売れなくなるからだ。また部品点数が多いガソリン車からEVへのシフトは失業者を生みかねないといって、国内の車部品メーカーで働く約70万人の「雇用を守る」と強調するメーカーもある。そのためにEVシフトを遅らせることは今の時点では正しい選択かもしれないが、やがてガソリン車は売れなくなる。今の雇用を守っても5~10年先の雇用は守れない。いつの雇用を守るのかが問われる。


産業構造の転換にいち早く対応する企業が勝ち残るのは自明の理だ。ある日本メーカー幹部は「技術者としてガソリン車を残したいが、社会が変わった。経営判断としてEV化を加速する」と話した。もはや立ち止まることは許されない。自動車産業に限らず、COP26を機に、日本企業は産業構造の転換に向けた競争を迫られるのは確かだ。


 
 

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