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鳥の目、虫の目、魚の目

第34回

「変わる日本」の前兆か 34年ぶり株価、17年ぶり利上げ

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 

そういえば今年初め、多くの企業経営者から「岐路」「正念場」「転換点」といった言葉を聞いた。こう思い出したのは、桜の開花を前に「××年ぶり」というニュースが相次いだからだ。どうやら潮目が変わったようだ。今度こそ「変わる日本」に期待したい。

「荒れる春場所」といわれる大相撲3月場所はまさに荒れた。関取の象徴である大銀杏も結えない尊富士が、1914年の両国以来110年ぶりとなる新入幕優勝を果たした。初土俵から所要10場所での制覇は史上最速だ。それまでは24場所だったから大幅に記録を塗り替えた。記録は破られるためにあるとはいえ、「あっぱれ」としか言葉が見つからない。

今年はまだ3か月しか経っていないのに「ありえない」「まさか」の出来事が連発する。世紀を超えた尊富士の快挙はもちろん、金融界では2月22日に日経平均株価が3万9098円となり、それまでの最高値(1989年12月29日の3万8915円)を34年ぶりに更新した。こちらも驚きしかない。

筆者は前年の88年に証券業界を担当する記者が集まる「兜町クラブ」に在籍し、当時のバブル経済絶頂期の熱気を肌で感じた。ゲンを担ぐ証券マンが闊歩する兜町のうなぎ屋はいつも盛況だった。一方で、バブル崩壊後の株価低迷による「失われた30年」も知る。2009年にはバブル後最安値の7054円を付けた。「株は上がらない」と思い込み、3万8915円を「抜くことはない」と信じて疑わずにいただけに驚きを隠せなかった。

その天井を突き抜けても株価は上昇し、3月4日には史上初めて4万円の大台に乗った。信じられないことの連続で、相場格言「節分天井、彼岸底」も当てはまらない。どこまで上がるのか、むしろ今後が楽しみになってくる。というのも日経平均株価は34年前の水準に回復したにすぎないからで、この間に米ダウ工業株30種平均は14倍になった。それだけ日本の伸びしろは大きいともいえる。

金利もついに引き上げに転じた。日銀が3月19日、マイナス金利政策を解除したのだ。2007年2月の利上げを最後に金融緩和に転じたので実に17年ぶりだ。マイナス0.1%だった政策金利は0~0.1%に引き上げ、「金利のある世界」に戻した。

マイナス金利解除の理由を日銀の植田和男総裁は「賃金と物価の好循環の強まりが確認されてきた」と説明した。23年の物価上昇率(生鮮食品を除く生鮮)は前年比3.1%と41年ぶりの高い伸びとなった。一方の賃金は、連合が3月15日に発表した24年の春季労使交渉(春闘)の第1回集計結果で、ベースアップと定期昇給をあわせた賃上げ率は平均5.28%となり、1991年以来33年ぶりに5%を超えた。

「景気は気から」というから、この機会を生かしてマインドセット(思考)を変えていきたい。バブル絶頂期の1989年に流行った言葉に「24時間働けますか」があった。寝る間を惜しんで働いたモーレツ社員であふれていた。当時の熱気を取り戻す時期が訪れるかのような「日本の変化」を感じる。それを確実なものにするためにも野心的に挑戦するアニマルスピリッツ、夢を追いかけるチャレンジスピリッツを復活させなければいけない。

失われた30年間は「3つの過剰(雇用、設備。債務)」の解消に追われた。企業は財務の安定性確保に向け利益をため込んだ。企業が抱える手元資金は100兆円を超える。稼ぎや余裕資金をため込んだままでは付加価値は生まれない。潤沢な資金が設備投資や賃上げなど様々な使われ方で回っていくことが景気拡大をもたらす。

にもかかわらず失われた30年間は、若手社員が斬新なアイデアを出しても上司は「今はその時ではない」と却下した。やりたいことをやるエネルギーが成長の原動力のはずだが、あきらめが先に立った。それに慣れてしまった。こんな風潮を打破しなければならない。

マンネリ経営からの脱却だ。自社の強みを再定義するときともいえる。求められるのはイメージチェンジ(イメチェン)だ。金利がある時代になれば,ゼロ金利で生き延びてきた「ゾンビ企業」の存続は危うくなる。人材不足が深刻化する中で賃上げができない企業は、新規採用はおろか、人材の流出も避けられなくなる。優秀な人材は、高い賃金水準を求めて成長産業に移動する。企業は賃上げの原資を確保するため、設備投資や研究開発を活発化させ製品・サービスの付加価値向上に注力し収益力を高める。

こうなると産業の新陳代謝は間違いなく起こる。「変わる日本」への期待感の高まりが株価を引き上げている。この期待に背くわけにはいかない。利上げへの抵抗感が強い経済界も異論をはさまず受け入れる。先輩経営者から引き継いだレガシー(低採算事業)から撤退する好機ととらえているようだ。

失われた30年から抜け出して新たな成長期に入れるのか。そのためには企業は収益性の高い事業に経営資源を集中するしかない。「変わった」といわれる企業が競争を勝ち抜くのは自明だ。

 

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