鳥の目、虫の目、魚の目

第24回

人材確保に欠かせない外国労働者が長く働ける道を開け 貴重な戦力に「選ばれる国・企業」へ

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 

日本のプロ野球界から今季、野球選手なら誰もが憧れる米大リーグのニューヨーク・メッツに入団した千賀滉大投手がいきなり大活躍、最初の登板から3回連続して勝利を上げた。時速150キロを超す速球と「お化けフォーク」の異名を取る落ちる球を投げ分けて、力自慢の強打者をバッタバッタと三振で打ち取る姿は見ていて頼もしい。地元ニューヨークのファンの心を早くもつかんだ。

念願のメジャーリーガーとなった千賀投手だが、ソフトバンク・ホークス入団当初は一軍での活躍が期待されていたわけではない。一軍の公式戦に出場できる支配下選手の下部に位置し、文字通り育成を目的とした「育成契約」としてプロの世界に入った。そこからはい上がり一軍での活躍が認められ、プロ野球の世界で世界最高峰といわれるメジャーリーガーに上り詰めた。

こうした「千賀物語」が日本のモノづくり現場でも起きるかもしれない。荒唐無稽かもしれないが、主役を担うのは東南アジアからの技能実習生なのではと期待している。野球選手が大リーグを目指すように、日本のモノづくり現場が憧れの場所なのか分からないが、日本経済を覆う停滞感から抜け出すには、今や貴重な戦力である彼らの活躍が欠かせないのは確かだろう。

日本人はとにかく緻密で器用、真面目。しかも探求心が旺盛で、勤勉といわれてきた。そんな国民性を遺憾なく発揮し、世界に冠たるモノづくり立国の地位を得た。そんな気質を技能実習生は持っている。しかも今のモノづくり現場を支えるのは日本人ではなく、彼らだ。現場を訪れると、非正規社員が増加する一方で高齢化による熟練工が減少しており、補うのが技能実習生なのだ。間違いなく貴重な戦力だ。

どういうことかというと、政府の有識者会議が技能実習制度の廃止と新制度の創設を提言したからだ。狙いは熟練した技能実習生が日本で長く働く道を開くことだ。「技術を学ぶ」という人材育成を目的に来日した外国人は実習を終えれば帰国するのが前提だが、新制度には新たに「人材確保」の観点が盛り込まれる。このため、技能を磨いた外国人労働者を継続雇用できるようになる。

外国人材も基礎的な技能を習得すれば、本人の希望によりさらなる能力開発の機会が与えられ、それに応えれば日本に中長期にわたり滞在できるようになる。有期契約の非正規労働から無期契約の正社員登用へと道が広がる。中にはモノづくり現場を支える「なくてはならない」存在として活躍する外国人材も出てくるはずだ。家族も日本に呼べる。

技能実習制度は1993年、発展途上国への技術移転、人材育成を目的に始まった。建設業や製造業、農業などに従事できる。ただ、人材育成を通じた国際貢献を目的とし「労働力の需給の調整の手段としておこなわれてはならない」と明記されている。

にもかかわらず、実態は不足する労働力を確保する手段になっている。受け入れ企業側は、その場しのぎの「安価な労働力」として実習生を使い捨てのように扱い、賃金未払いや暴行・傷害といった人権侵害を受けて追いつめられ、失踪したり、犯罪に加担したりするケースが続出。日本が好きで来日したのに、日本嫌いになって母国に帰る実習生も少なくないという。

労働力の確保が喫緊の課題にもかかわらず、このように技能実習制度は負の側面があまりにも大きい。深刻な人手不足への対策として即戦力を受け入れるため2019年に創設された特定技能についても同様の問題が指摘されており、抜本的な制度改革が欠かせない。

厚生労働所の国立社会保障・人口問題研究所によると、70年の日本の生産年齢人口(15~64歳)は4535万人となり、20年比で約4割減少する。すでに生産年齢人口は1990年代をピークに減少局面に入っているが、女性や65歳以上の高齢者、外国人労働者で労働力不足を補ってきた。

しかし、いずれ女性と高齢者の労働市場への流入は頭打ちとなる。頼みは外国人だ。その外国人労働者数は08年の48万人から増加を続け、昨年10月時点で182万人に達した。このうち技能実習生は34万人に上る。とはいえ言葉や文化の壁を抱える外国人にとって、これからも日本は魅力的な労働市場なのかというと疑問符が付く。経済の長期停滞で世界に比べて賃金は上がらず、勤続年数が長いほど賃金や職位が上がる年功序列など日本の独特な慣行が根強いからだ。中国や韓国なども人口減少局目に入っており、日本との人材の奪い合いが激しくなるのは間違いない。

それだけに、「選ばれる国」になる環境整備が欠かせない。それは貴重な外国人材が安心して働ける環境づくりだ。成果主義的な賃金制度を導入し、人事制度も日本人と同等の処遇を行うことだ。英語で仕事ができる職場環境をつくることも必要だ。こうして外国人材の成長意欲を後押しすることで、帰属意識を高めることができる。勤勉で真面目な優秀人材の囲い込みにつながる。

野球選手が憧れる大リーグはチームの期待に応える結果を出せばレギュラーという不動の地位を与えられ、報酬もアップする。出身や年齢は関係ない。技能実習生に選ばれる国・企業にならないと日本の将来は危ういことだけは確かだ。


 

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