鳥の目、虫の目、魚の目

第3回

東芝VSソニー 複合経営は是か非か 稼ぐ力をつけることこそ肝要

イノベーションズアイ編集部 2021年11月19日
 
創業146年の名門企業、東芝が「総合電機」の看板を下ろす。2023年度に3つの企業に分割すると発表した東芝の綱川智社長は「会社の価値、株主価値を上げるために最善の選択だ」と説明。多くの事業を抱える複合企業(コングロマリット)の価値が、事業ごとの価値の合計に比べ過小評価される「コングロマリットディスカウント」の解消を目指す。「解体ではない」とも強調したが、会社分割によって企業価値の目減りを防げるか疑問だ。21年3月期に最終利益が初めて1兆円を超えたソニーグループはものづくりと娯楽の両輪経営が奏功、むしろ「コングロマリットプレミアム」をもたらした。

東芝が11月12日に発表した新中期経営計画に盛り込んだ。3つの企業に分割するのは、海外ファンドなど「物言う株主(アクティビスト)」が求める企業価値の向上が狙いで、発電システムなど「インフラ事業」、パワー半導体やハードディスクなど「デバイス事業」の2社に事業を分け、東芝は半導体メモリー大手のキオクシアホールディングスや上場子会社でPOS(販売時点情報管理)システムを手掛ける東芝テックの株式を保有する管理会社となる。

複合企業が主要事業ごとに分割する日本初の事例となり、「脱総合電機」で生き残りを図る。確かに会社分割は世界的すう勢といえる。先行したのが米IT大手のヒューレット・パッカード(HP)や化学大手のダウ・デュポンだ。HPは法人向けサービス部門を分離し業績を向上させた。

東芝の分割案がマスコミで騒がれると時を同じくして9日、米国最後の複合企業と呼ばれるゼネラル・エレクトリック(GE)が発電機、航空機エンジン。医療機器に3分割すると発表した。東芝同様にアクティビストから会社分割の圧力を受け続けていた。米日用品・製薬大手のジョンソン・エンド・ジョンソンも12日、消費者向けと医療向けに分割すると発表した。

分割に対する株式市場の評価はおおむね好意的だ。不振事業がお荷物となり成長事業を伸ばしきれないという複合企業の足かせが外れ、長期的に企業価値を高めると考えるからだ。引き継ぐ企業の経営者は中核事業に専念できる。切り離された企業も成長への選択肢が広がる。投資など経営判断のスピードが早まるのも間違いない。業界再編など産業の新陳代謝も促すことにもなろう。




総合電機、総合商社、総合化学など複合経営を標榜する日本企業は少なくない。東芝の決断が低収益にあえぐ日本企業の行動を変え、これを機に会社分割が広がるかもしれない。とはいえ、分割により企業規模は小さくなる。手がける事業に専念し、機動的経営で生き残りを図るが、従業員や取引先など多様な関係者の理解が得られなければ、稼ぐ目論見も「絵に描いた餅」になりかねない。企業価値向上を求める株主の声に応えることができなければ、市場からの退場が避けられない。


会社分割こそが企業価値の向上に資するわけではない。ゲームから半導体まで手掛けるソニーに対し、米アクティビストのサード・ポイントはかつてエンターテイメント事業の分離を迫った。これに対しソニーは自社の強みを複合経営と主張し、要求を突っぱねた。一方で株主との対話を続けた。その結果が、21年3月期の最終利益1兆円突破だ。売上高も9兆円弱と過去最高だ。株主との良好な関係を維持しているのは言うまでもない。


ソニーは21年4月に社名を「ソニーグループ」に変えた。吉田憲一郎社長はその狙いについて「エレクトロニクスもエンターテイメントも金融も横一線。グループとして効果的に資金や人材を配分する」と話したという。祖業のエレクトロニクスも「ワン・オブ・ゼム」にすぎないというわけだ。


実際、アニメを含む音楽、映画、ゲームのエンターテイメント事業は今や稼ぎ頭で、営業利益の6割を占める。ゲームで専用機を作り、映画も製作、多くの歌手も抱える。この3事業が相乗効果を生み、2度、3度と稼ぐ。音響技術や映像機器などエレクトロニクスとの融合もあり、株式市場もその多様性からコングロマリットプレミアムを意識する。要は総合か専門かではなく、強くて稼げる事業領域を持つかどうかだ。


 
 

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