鳥の目、虫の目、魚の目

第1回

リーダーに求められるのは発進力 強い意志と覚悟で危機に挑む

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 
新型コロナウイルスと安全保障という難題を抱えるなかで、第100代首相に岸田文雄・自民党総裁が就任した。経済の「成長と分配の好循環」による「新しい資本主義」の実現を目指すと強調し、所信表明演説では「国民の声を真摯に受け止める」「国民に丁寧に説明する」と繰り返した。

菅義偉前首相が在任期間約1年という短命内閣に終わったのは、新型コロナ禍の対処についての発信力、説明力が足りず、自粛に疲れた国民から見限られたといえる。その結果、急速に支持を失い退陣に追い込まれた。有事においてはリーダーが明確な展望を示し国民に訴え、一丸になって取り組むよう鼓舞する発信力の強さが欠かせない。国民もそうしたリーダーを求めている。

「聞き上手」を自負する岸田氏の出番といえるが、それだけで危機の時代のリーダーが務まるわけではない。国難の今こそ、リーダーに問われるのは実行力であり、すべての責任を取る覚悟だ。



それにしても新型コロナは万全と思われていた日本の医療態勢が実はそうでなかったことを露見させた。日本の決められない政治、リーダーの決断力の欠如も明らかにした。太平洋戦争、バブル崩壊に次ぐ第3の「敗戦」といわれるゆえんだ。軍事、経済、医療と分野こそ違うが、いずれも縦割りの弊害、根拠なき楽観主義、科学の軽視がもたらしたといえる。


新型コロナは100年に一度のパンデミックであり、ブラックスワン(滅多に起こらないが、起こると壊滅的になる)だった。危機は姿を変えて再びやってくるので、備えを怠るわけにはいかない。


それだけにコロナ禍は日本を見つめなおす好機といえる。コロナ収束後もコロナ以前に戻ることはない。リモートワークを経験したことで、全社員が毎朝同じ時間に同じ場所に出勤するという従来型ワークスタイルではなく、多様なワークスタイルが定着することになるのは間違いない。前例踏襲や横並びといった変化を望まない日本の仕組みを新型コロナが壊す。言い換えると、これまでできなかったこと、諦めていたことにチャレンジするチャンスととらえるべきだ。


「危機」という漢字は、危ない「危」とチャンスの「機」に分けられる。ピンチをチャンスに変え、災い転じて福となすのは今なのだ。松下幸之助は「かつてない困難からは、かつてない革新が生まれ、かつてない革新からは、かつてない飛躍が生まれる」と喝破した。逆風はどの企業にも等しく吹き荒れる。経営不振の理由を逆風のせいにするのはリーダーたる経営者の経営手腕のなさをさらけ出すだけだ。


だからこそリーダーはどんな逆風が吹こうと全ての責任を取るという強い意志をもって取り組まなければならない。「誰が何といおうとやる」との意気込みで、自信をもって自分の言葉で語るリーダーの話には説得力があり、反対を封じ込めるだけの強さがある。重要なのは認めさせるだけの発信力だ。


とはいえ、根拠のない「大丈夫だろう」は危険であり、最悪のシナリオにも対応できるよう常に準備が必要なことはいうまでもない。会社の存続を危うくするほど大きなリスクをかけて会社の発展を図るのはリーダーとはいえない。リスクを踏まえたうえで、どこまで積極的に動けるかが問われる。


「裸の王様」になってはいけない。リーダーは「諫議太夫」、つまり自分が間違ったときにその過失を諫める部下を持つべきだ。「主を諫める部下は一番槍よりも手柄だ」といったのは徳川家康。独善に陥るのを防ぐため、厳しい意見にも耳を傾けるというわけだ。リーダーは「批判される勇気」と「批判を受け入れる度量」が求められる。


株主資本主義が行き詰まり、ステークホルダー(利害関係者)資本主義が台頭する今、ビジネス成果に加え、危機管理、コンプライアンス(法令順守)、コーポレートガバナンス(企業統治)、CSRといった取り組みにも社会の目が向く。一つでもマイナス評価を突きつけられると市場からの退場を余儀なくされる「掛け算経営」が始まった。ナポレオンは「一頭の狼に率いられた百頭の羊の群れは、一頭の羊に率いられた百頭の狼の群れに勝る」という言葉を残した。リーダーの器が企業の将来を決めるといっても過言ではない。


 

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