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鳥の目、虫の目、魚の目

第6回

常識を疑え、ニーズに応えるな ベンチャー成功のキラースキル

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 
2021年のIPO(新規株式公開)の企業数は125社と前年比32社増加し、IPOブームに沸いた06年の188社以来の多さとなった。100社を超えるのは07年以来14年ぶりだ。新型コロナウイルス禍で進むDX(デジタルトランスフォーメーション)や脱炭素などを手掛けるベンチャー企業の上場が相次いだ。ESG(環境・社会・企業統治)に関連した企業も目立った。

日本は起業が少なく、企業と産業の新陳代謝が進まないとよく指摘される。必ずしもIPOが起業の目的ではないが、「起業してIPO」という成功パターンが増えることは、バブル崩壊から30年経過した今もなお停滞が続く日本経済に与えるインパクトは小さくない。IPOの活況は経済の活力を取り戻す好機ととらえたい。起業を目指す若い世代にとって、目標となる成功のロールモデルが身近にいることは頼もしく、起業の連鎖が続くことが期待できる。

そこで後に続く起業予備軍に参考にしてもらいたいのが、野村総合研究所の「100人の革新者プロジェクト」だ。同プロジェクトは12年9月に始まったが、少しも色あせていないので、責任者の齊藤義明氏に取材したときの発言や資料をもとに紹介する。


従来の発想とは異なるユニークな切り口を持ったビジネスモデルを100パターン探索。選ばれた100人の革新者たちによる事業構想についてのキラースキルを5つ挙げている。それは①世の中の当たり前を疑ってみる目を持つ②ニーズを探すのではなく、ウォンツを創造する③出会ったことのない価値観や世界観を求める④マイナスをプラスに逆転させる⑤IT、デザイン、エンターテインメントを用いて顧客の体験を変え、既存産業を変える-。こうした革新者たちの異質な発想と価値創造力は、日本の社会課題を解決するトリガーとなる可能性を秘めているというわけだ。


ここでいう革新者とは必ずしもハイテクベンチャーである必要はないし、将来上場しそうな成長銘柄を探しているわけでもない。何らかの社会課題と意識的にかかわり、それに対しこれまでなかった独自の切り口から解に迫っていく。しかも我々が通常マイナスと思っているものからプラスの潜在価値を引っ張りだすという。その上で齊藤氏は「革新は同質のムラ社会の中では起こりにくく、異質の領域との触発から生まれる」と指摘する。


まず①についてみてみよう。アインシュタインは「常識とは18歳までに身に着けた偏見のコレクション」と喝破した。確かに常識とは時代によって違うし、同じ時代でも国・地域によって違う。常識を疑い、本質を突き詰めることによって革新の扉が開かれるというのだ。


②も面白い。ニーズとは必要なもの、顕在的な欲求であり、多くの人が共通に求める要素や条件だ。顧客のニーズを満たすことはビジネスの原理原則であることは間違いないが、それは競合他社もやることであり、コモディティー化しコストパフォーマンスの競争に陥りやすい。ベンチャー企業がここに挑んでも資金力に勝る大企業に勝てるわけがない。


他方、ウォンツは顕在的なニーズの奥底にある潜在的な願望であり、顧客に聞いてもウォンツは分からない。うまく言葉にできないことが多いからだ。また、多くの人が共通して求めるものではなく、個別多様だ。このため起業家自ら欲しいと思うもの、あったらいいなと思うものを創造することにこそ価値がある。しかも当初のマーケットは小さいので大企業は参入してこない。口コミやSNS(交流サイト)を通じた共感によって拡散されるので、後に大企業が参戦しても先行者利益を享受できる。


私たちは何か新しい事業を創造しようとするとき、基本的な思考方法としてWANT(やりたいこと)、CAN(できること)、MUST(やるべきこと)という3つの枠組みから考えることが多い。この3つのどこから最初の思考に入るかだが、多くの人はMUSTから考える。真面目な人、常識のある人、優秀と評される人ほど、この傾向が強い。しかし革新者の多くはWANTから入る。自分がどうしても欲しいものがある、どうしても助けたい人がいるといった強い内的動機をもっているからだ。社会が必要としているかどうかを問う前に、自分が欲しいかどうかを問う。自分がどうしてもやり遂げたいという情熱があるから、周囲から否定され反対されても事業としてやりきることができる。


革新者が立ち上げたベンチャー企業は間違いなく産業、企業の新陳代謝を起こし、主役交代を果たすはずだ。あなたの会社はニーズに応えようとしていませんか、同じ業界というムラ社会にどっぷりつかっていませんか。コロナ禍の今こそ、これまでの思考や行動を見つめ直す好機だ。


 

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