鳥の目、虫の目、魚の目

第50回

ブルーカラーはカッコいい AIに奪われない仕事として評価高まる

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 

昨年(2025年)秋くらいから、頻繁に耳にするようになった言葉がある。「ブルーカラービリオネア」だ。AI(人工知能)に仕事を奪われない現場で働いて高収入を得る人たちだ。米国で起きている現象だが、その波が日本にもやってくると待ち構える企業も出てきた。ブルーカラーの人手不足を解消する好機といえるが、稼げるうえに社会インフラを支えるカッコいい仕事だと発信することも必要だ。

米国では今、建設業や製造業といった生産現場で働く労働者(ブルーカラー)の給与が高騰しているという。経理から配管工に転職して給与が3倍になった例もあると聞く。実際にビリオネア(10億ドル)を稼いでいるわけではないだろうが、現場を任せられるだけの優れた技能を持った人材は足りておらず、引く手あまたとなり、高い賃金で雇われているというわけだ。

ブルーカラーが足りないのは、大学進学率の上昇によりホワイトカラー職を選ぶ若者が増えたためだ。ブルーカラーは3K(きつい、汚い、危険)現場で汗を流す”肉体労働者”。これに対し、ホワイトカラーはきれいで空調がきいたオフィスで働く知的・専門的な”頭脳労働者”というイメージが強い。給与も高いので、高学歴者はこぞってホワイトカラーを目指す。

それが今や、目覚ましく進化するAIに仕事を奪われるというのだ。データ入力・分析や定型的な事務作業などルーチンワークの処理能力はAIのほうが明らかに優れており、スピードと正確性、一貫性が求められる仕事はAIに置き換わっていくのは仕方がない。

確かに、肉体的にも精神的にも一定時間を超えて働くことができない人より、24時間休まず、しかも愚痴を一切言わずに黙々と働き続けることを厭わないAIを選ぶのは理にかなっている。生産性が高いうえ、正確無比というのは雇う側にとって大いに魅力だ。

事務・総務・受付、カスタマーセンターから、システムエンジニアやプログラマーに至るまでAIに代替されるとみられている。それだけホワイトカラーは余ることになる。パソコン画面とにらめっこしながら資料や文書を作っている人は少なくとも異動が避けられそうもない。

金持ちになるチャンス

一方でAIが最も苦手とするのは、ゼロからイチを生み出す独創的な発想力や、柔軟性があって臨機応変な対応力、コミュニケーションや感情を理解する能力が求められる仕事だ。

ホワイトカラーでも経営者・起業家、クリエイター、医師・看護師、介護士は当てはまるが、人々の暮らしを守るのに欠かせない土木・建設作業員や清掃員、自動車整備士といった職人・技術者がAIに代替されることはないだろう。

にもかかわらず、労働環境が厳しいわりに給与が低いというイメージから若者から敬遠され、担い手は減り現場の高齢化が進む。需要に供給が追い付いていないのだから、ブルーカラーは奪い合いになり、給与もアップする。オフィスワーカーは稼ぐ機会が減るのに対し、ブルーカラーが金持ちになる機会は増えるというわけだ。

建設現場に携わる職人といえば電気工事士や配管工、溶接工などだ。専門知識と熟練した技能が必要で、安全最優先ながら予期せぬ事態や緊急時には適正な判断が求められる。しかも現場の状況は日々変わり、マニュアル通りにいかない複雑な作業が待っている。現場で一緒に働く仲間との円滑な連携やコミュニケーションも欠かせない。臨機応変な対応が求められる現場をAIに任せるのは酷だ。熟練技能者が引っ張りだこになるのは間違いない。

熟練技術者がそろう

「ブルーカラーが潤う時代がやってくる。我々にとってチャンスだ」。こう意気込むのは、「果てしなく続く緊急メンテナンスをゼロにする」をミッションに掲げる店舗ドック(旧レガーロ、25年10月に社名変更)の高倉博社長だ。「AIが進化しても、AIには難しい現場作業は残る。熟練した技術者がもつ現場のスキル価値が再評価される」とみる。

同社は看板のほか、屋根や配管、電気設備などの劣化状況を検査し保全する予防メンテを手がける。健康寿命を延伸させるために受ける人間ドックの店舗版といえる。従来は看板を対象にした「看板ドック」を展開していた。

このため、看板の製作から施工・設置、メンテまで手掛ける看板屋の全国ネットワークを構築しており、土木作業や高所作業はお手の物。電気工事やシート張り、塗装なども難なくこなす。しかも、見えないところも手を抜かずにまじめに働く職人魂の持ち主ばかりだ。

加えて、店舗ドックを始めるにあたり屋根、配管、電気設備といったメンテの専門家も集めており、「我々はブルーカラーのど真ん中の仕事を行っている」と自負する。多様なスキルと経験を持つ熟練技術者がそろうだけに、ブルーカラービリオネアの道を突き進む集団といえる。

ブルーカラーの仕事を再評価する動きを生かさない手はない。日本SNS採用推進協会は職人などが憧れられる社会をつくることを目指し、ブルーカラーのSNS採用を呼び掛けている。代表理事で電気工事士の資格を持つ秋山剛氏は「建設業界は『募集しても来ない』というが、それは業界の魅力が届いていないだけ。手に職をつけることはカッコいいと発信することが重要だ」と説く。

建設業はインフラの維持を担っており、働く人材はエッセンシャルワーカーとして欠かせない。かつての3Kはネガティブイメージだったが、「給与、休暇、希望」という働き甲斐のあるポジティブイメージの新3Kへの転換が求められる。高齢化が進む水産業界でも「カッコいい、稼げる、革新的な」3Kとアピールする。

ワークライフバランスに適う

日本では依然としてホワイトカラー志向が強いとはいえ、モノづくり立国を支えるのはブルーカラーであり、脚光を浴びるのはいいことだ。ブルーカラービリオネアは高給がクローズアップされるが、働く時間が決まっておりオンとオフのメリハリがきき、精神的ストレスも少ない。ワークライフバランスに適う働き方でもある。

このため、条件さえあえばブルーカラーを選ぶ人が増えていくだろう。「尊敬される働き方の勝ちパターンが逆転する」と高倉氏は指摘する。AIが奪えない仕事の担い手として一目置かれる存在になることを歓迎すべきだ。

 

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