ソニーのパーパスとは何か。吉田氏は「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」ことだという。いかにもソニーらしいパーパスだ。複合企業ゆえ、株式市場ではコングロマリット・ディスカウントにさらされてきたが、パーパスを基軸にした価値創造が株式市場から支持され、見事にコングロマリット・プレミアムを得るとともに、思わず感動するような商品やサービスを送り出すことで最終利益1兆円企業を創り上げたのだ。
なぜ自分の会社が必要なのかー。パーパスは日本語で「存在意義」と訳されることが多いが、米ボストン・コンサルティング・グループでは、パーパスを「なぜ社会に存在するか」と位置づけ、「どこを目指すか」を示すビジョン、「何を行うべきか」を示すミッション、「どのように実現するか」を示すバリューと分けて定義する。
ビジョンやミッションは時代により変化するが、パーパスは時代を超えたもので、ビジョン、ミッション、バリューの上位概念と位置付けられる。今や時代のキーワードとなっており、日本でもここ数年で導入する企業が相次いでいる。
パーパスは自分たちが何のために存在するのかを示すため、社員は「自分が何に貢献し、何を達成できたか」を感じることでモチベーションを維持・向上でき、エンゲージメント(愛社精神)も高まる。組織の一体感が生まれ、生産性や創造性が高まり、イノベーションにつながる。それだけ会社の成長をもたらし、企業価値・ブランド力も向上するわけで、株主の理解も得やすい。しかし、単なるお題目では何も生まれない。社員の納得・協働なしではパーパス経営は成り立たないのだ。
「パーパス経営」を著した一橋大学の名和高司教授はパーパスを「志」と訳し、株主還元重視の行き過ぎた資本主義の先を見据え「志本主義」の必要性を説く。先が見通せないVUCA(変動制・不確実性・複雑性・曖昧性)と呼ばれる時代だからこそ、社員はもちろん、顧客や社会といったステークホルダー(利害関係者)から共感を得やすいパーパス経営が求められると指摘している。
新型コロナウイルス禍や米中対立などで社会情勢が激変し、価値観も変わる中、ステークホルダーから支持・応援なくして厳しくなるばかりの企業間競争を勝ち抜くのは難しい。そこで改めて見つけなおしたい。「自分の会社のパーパス(志)は何か」―。