第22回
高市政権よ、リベラルな連中を恐れるな
イノベーションズアイ編集局 編集アドバイザー 鶴田 東洋彦
新政権の支持率、若年層は80%に

高市早苗政権の支持率が高い。主要メディアの世論調査でも軒並み60%台の後半、読売新聞に至っては71%。石破内閣発足時の34%の倍以上の数字であり、第一次安倍内閣を超えて歴代5位の数字である。中でも驚くべきなのは18歳から39歳までの「若年層」の支持率だ。石破内閣が15%と史上最低水準だったのと比較して、80%という記録的な数字を示している。
自民党、石破茂政権の参院選大敗から約3ヶ月。長い政治空白の上に、曲折を経て誕生した政権だけに、逆に期待も膨らんでいるのだろう。女性が参政権を得て80年。先進各国と比較して国会議員に占める女性の比率が2割前後と極端に少ないこの国で、女性の社会進出が顕著な米国よりも早く“ガラスの天井”が破られた現実を喜ぶ人が多いのも確かだろう。
だが、高支持率の底流にあるのは、そんな単純なものだけではないだろう。外交・安全保障や憲法改正、外国人政策など、就任早々に打ち上げてきた諸政策が非常に明瞭で、少なくとも石破政権時代の政策の不明瞭さと一線を画すものだからだ。日本の憲政史に新たなページを刻んだ初の女性首相の政策が「戦後の日本の歩みを大きく転換してくれるのでは」という期待が、とくに「若年層」の80%の数字に表れていると思う。
底流のある明瞭な諸政策
だが、一部のリベラル派の人たちは、この支持率の高さをまるで無視するかのように、高市政権が掲げる諸政策を「タカ派色が強い」と表現。テレビのあるワイドショーではコメンテーターの一人が「高市政権は右翼政権であり、先行きに強い危惧を抱く」とまで発言した。防衛費のさらなる増額を念頭に置いた安保関連の3文書の前倒し改定や、「スパイ防止法」の策定問題についても「右翼の発想」と指摘する”自称“政治評論家も多い。
なぜこのような日本が置かれている危機的な局面、例えば海洋進出に代表される中国の覇権主義、北朝鮮の核開発、ロシアの国家侵略というこの時代に、防衛問題やスパイ防止法を掲げるだけで「右翼」「タカ派」というレッテルを張ろうとするのか、正直、理解できない。先進諸国と比較しても、むしろ当然のことではないか。国際基準でいえば「右翼」ではなく、むしろ「中道」というほうが正しい。
しかも、あきれたのは、高市総裁の選出直後に、抱負の中で「ワーク・ライフ・バランスを捨てる」と発言しただけで「働き過ぎを助長している」と発言した評論家がいたり、報道するメディアがあったことである。比喩的な表現すら汲み取れないことに、この国の劣化を痛感した。
戦後80年、今こそ身を切る改革を
戦後80年。今の政治に求められているのは、戦後に積み残された“宿題”を解決する改革である。また、新政権に求められているのも、徹底した改革の姿勢だ。前述した防衛費総額の前倒し改定、武器輸出対象の拡大はもとより、経済対策として戦略的な積極財政を掲げる一方で、減税や給付で中低所得者を支援する「給付付き税額控除」など、やるべき改革は山積している。
これからの日本のありようを変える政策に対する、こうした改革に向けた高市政権の姿勢こそが、石破政権誕生時をはるかにしのぐ、高い支持率に表れていると思う。右翼とかタカ派という言葉そのものが、80%が支持した「若年層」には無意味なのだろう。ひょっとしたら言葉も知らないのかもしれない。
もちろん、高市新政権は発足にあたり積み残した課題も、将来に向けた難題も多い。日本維新の会との連立合意で要求を呑んだ副首都構想、現役世代の保険料引き下げを含めた社会保障改革、議員定数の1割削減、企業・団体献金の見直しと、国会を目前にして多くの課題も並ぶ。また、選択的夫婦別姓や同性婚など個人の人権問題、ジェンダー平等への取り組みに否定的な姿勢も、いずれかのタイミングで問われることになるだろう。
だが、ここで足を引っ張る勢力に言っておきたいことがある。「身を切る改革」は今こそ必要なのだ。政治家として男性中心の「古い自民党」の中で揉まれ、総裁選を勝ち抜き首相の地位にたどり着いた高市首相に、経済政策、外交政策、そして安全保障をゆだねたのは我々国民であるということを忘れてはならないと思う。
世襲でもなく地方の会社員出身で男性社会を生き抜いてきた胆力に、今は横やりを入れるべきではない。曖昧な言葉で愚弄された石破政権にノーを突きつけたのは国民であり、自民党自身である。あの無責任な時代、政治空白さえも自らの責任と認めなかった時代をもう繰り返してはならない。そのことだけは肝に銘じる時だ。
※1 出典=首相官邸ホームページ 「高市内閣の発足」より(https://www.kantei.go.jp/jp/104/actions/202510/21takaichinaikaku.html)
プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集アドバイザー
鶴田 東洋彦
山梨県甲府市出身。1979年3月立教大学卒業。
産経新聞社編集局経済本部長、編集長、取締役西部代表、常務取締役を歴任。サンケイ総合印刷社長、日本工業新聞(フジサンケイビジネスアイ)社長、産経新聞社コンプライアンス・アドバイザーを経て2024年7月よりイノベーションズアイ編集局編集アドバイザー。立教大学、國學院大學などで「メディア論」「企業の危機管理論」などを講義、講演。現在は主に企業を対象に講演活動を行う。ウイーン国際音楽文化協会理事、山梨県観光大使などを務める。趣味はフライ・フィッシング、音楽鑑賞など。
著書は「天然ガス新時代~機関エネルギーへ浮上~」(にっかん書房)「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)「記者会見の方法」(FCG総合研究所)など多数。
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