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鳥の目、虫の目、魚の目

第33回

従業員の働きがいなくして企業成長なし

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 

少子化による人手不足が顕著になり人材獲得競争が激化する中、「働きたい」と思われる魅力ある企業とは何だろうか。給与など待遇なのか、それとも仕事のやりがい、社風、職場の人間関係なのか。

一方で、大卒新入社員の3人に1人が3年以内に辞めるといわれる。苦労して採用し、入社後もつなぎとめるため賃上げなど待遇を良くし教育に力を入れてもあっさりと転職されてしまう。なぜなのだろうか。

求めるものは十人十色だろうが、売り手市場の今、社内外の人材を引き付けるには従業員エンゲージメント(働きがい)の向上が欠かせない。低ければ人材獲得どころか、流出につながりかねない。これでは企業成長もままならない。必要なのは、魅力的な職場として選ばれるエンプロイヤー(雇用主)ブランドだ。

そこで注目したいのが、総合人材サービスのランスタッドが調べた「エンプロイヤーブランドリサーチ2023(日本版)」だ。働き手からみた雇用主としての魅力を測った。

それによると、勤務先を選ぶ際に働き手が求めるものは「給与水準の高さ、福利厚生の充実度」がトップで、「快適な職場環境」が続いた。

3位は「ワークライフバランス」で、相対的な重要度が最も上昇した。新型コロナウイルス禍で在宅勤務が認められ、「在宅でも仕事はできる」ことを実感。子育てや親の介護をしながら働けることが、ワークライフバランスの重要度を高めたといえる。実際、在宅勤務など柔軟な働き方が普及し、女性の職場復帰をもたらした。


転職理由でもワークライフバランスが2位に入った。働き手に寄り添う企業、つまりエンプロイヤーブランドが高いほど優秀な人材が集まるというわけだ。ちなみに1位はインフレ補償だった。

その転職だが、日本は他国に比べて転職行動は少なく、安定しているといわれてきた。しかし、働き手の4人に1人が仕事に面白みを感じなかったり、上司との関係が悪かったりすると転職すると答えている。

かつては「35歳転職限界説」と言われたが、人手不足の今では50歳超でも可能だ。新しい職場探しが年齢を問わず進めば、労働流動性が高まり、選ばれない企業は存続すら危うくなる。つまり企業の新陳代謝を促すことにつながる。

働き手のキャリア開発の機会提供もエンプロイヤーブランド向上に大きな役割を果たす。ランスタッドの中山悟朗最高マーケティング責任者は「若い人は成長志向が強い。その機会を提供できることが重要になり、サポートできる企業が生き残る」と強調する。

しかし日本の働き手の半分がキャリアアップを重要視しているにもかかわらず、成長を望む働き手の5人に1人が適切な機会を与えられていないと感じている。このため「雇用主はこのギャップの解消に努める必要がある」と中山氏は指摘する。

特に成長志向が強いZ世代と言われる若者は顕著で、転職市場における自分という商品価値を高めるため、スキルや強みを磨くことに意欲的だ。給与など待遇が良いだけでは魅力を感じないという。

このため「(年功序列で)10年経っても平社員」という大企業を蹴って、責任ある仕事に早くから任されるスタートアップに流れるのも頷ける。働きやすいものの、このままでは成長できないし、将来性を感じにくい「ゆるブラック企業」も避けがちだ。

激化する人材獲得競争で優位に立つには、従業員の価値を最大限引き出す人的資本経営の実現が欠かせない。にもかかわらず、人を育てる気があるのか分からない企業も見受けられる。企業ブランドと混同している企業も少なくない。企業ブランドが高くても、働き手が求めることに応えないと欲しい人材の確保につながらない。

物理学者で文学者の寺田寅彦は「捨てた一粒の柿の種 生えるも生えぬも 甘いも渋いも 畑の土のよしあし」と話した。畑の土とは企業の人材育成であり、柿の種は働き手とも言い換えられよう。また山本五十六は「やってみせ、言って聞かせて、やらせてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」と語った。

成長を求める企業にとって最も大事なのは従業員に寄り添うことだ。言い換えると、働き手が望むことを提供するというCS(従業員満足度)向上だ。授業員エンゲージメントなくして企業成長はありえない。


 

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