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鳥の目、虫の目、魚の目

第9回

コロナ禍で鎖国の日本  外国人材に「選ばれる」仕組づくりを

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 
海外から「鎖国」といわれるほど厳格だった新型コロナウイルスの水際対策が3月から緩和され、1日当たりの入国者数の上限を3500人から5000人に引き上げられた。まずは留学生やビジネス客を受け入れるが、日本の在留資格を得ながら入国できない留学生、技能実習生などは約40万人にのぼるため「開国」と呼ぶには程遠い。対応は遅きに失したといわざるを得ず、受け入れ人数も徐々に増やすとはいえ不十分だ。この経済的損失は決して小さくない。

外国人への入国制限は2年を超え、日本への留学をあきらめて行き先を韓国や台湾に変える学生が増え、ビジネス交流が思うに任せずプロジェクトや投資がストップし提携先の選択肢から日本企業を外す外国企業も出始めた。外国人留学生や技能実習生、駐在員は本来、親日派、知日派として日本のよき理解者となるはずだが、このままでは対日観を悪くし、将来にわたり国益を損ないかねない。もはや「日本が選ばれない国になりつつある」と懸念する声も大きくなるばかりだ。

経済活動の主な担い手となる日本の2020年の生産年齢人口(15~64歳)は7508万人と5年前に比べ226万人減った。総人口(1憶2614万人)に占める割合は6割を切った。ピークだった1995年の8716万人に比べ約2割少ない。2010年代は女性や高齢者の就労が増え、生産年齢人口の減少を補ってきたが、限界もある。14歳以下の人口は過去最少の1503万人にとどまる。

今後も減少傾向をたどる生産年齢人口を補うのが外国人であり、今や国内産業を支える担い手として欠かせない存在だ。だからこそ「選ばれる国」にならなければならないのだが、実態はむしろ外国人に「フラれる国」になりつつある。

新型コロナ禍による入国制限だけが問題ではない。外国人材を受け入れるため、1993年に技能実習制度を設け、日本で学んだ技能・技術を母国の発展につなげる名目で非熟練労働者を呼び込んだ。そのかいあって新型コロナ流行前の19年10月末の日本の外国人労働者は165万人と5年間で倍増した。このうち技能実習生は38万人と20%強を占める。人手不足に悩む企業にとって安価な労働力としてなくてはならない戦力となった。

しかし、技能実習生にとって日本は働きやすい国でも、住みやすい国でもない。厚生労働省の調査では技能実習実施企業の約70%で労働基準関係法違反が認められ、国際社会から人権侵害との批判を受けている。単純労働の実質的受け皿となってきた技能実習生は、少なからぬ企業で劣悪な労働環境など待遇の悪さやコンプライアンス(法令順守)違反から逃亡や失踪などの問題が発生。言葉の壁もあって地域社会にもなじめず、日本を信頼できずに帰国する技能実習生が頻発した。

その反省を踏まえて19年4月、外国人に単純労働を認める在留資格「特定技能」を新設した。人材を送り出す当該国との間で悪質業者の排除や問題が発生した場合の解決策などを強化、生活支援も義務付けられた。技能実習では不可だった同業種での転職も認められた。対象とする14業種は外食や介護などで、人々の生活に直結しながら日本人が集まらず人手不足が深刻化する。それだけに特定技能人材が今後の日本で重要な役割を果たすと期待される。


外国人採用支援会社のフォースバレー・コンシュルジュの柴崎洋平社長は「日本を働く場として選んでくれた外国人が日本を嫌いになる技能実習のスキームは廃止し、特定技能が補えばいい」と指摘する。その上で「国内外の悪質なブローカーや受け入れ企業を徹底排除する必要がある」と強調する。さらにアジア新興国の大卒者を日本企業に迎え入れる「柴崎メソッド」を開発した。日本で働きたい高学歴の若者の夢をかなえられるといい、地方企業でも大卒人材を採用できる。


ウイン・ウインを構築できるメソッドの仕組みはこうだ。企業の所在地や職種、報酬と求職者の居住国の賃金水準、日本文化との親和性など定量化された指標をチェックしていくと、外国人材を獲得するうえでお勧めの国・地域が表示される。従来の外国人材獲得といえば「なんとなく」という感覚論に基づき国・地域を選んだり、ブローカーの言いなりで採用したりするケースが多かった。このため企業にとって本当に欲しい人材を採用できなかった。日本で就職した外国人も最低賃金で働かされることへの不満や文化の違いなどから職場や地域社会とトラブルを起こすこともあった。こうしたバッドケースをなくせるというのだ。


感覚論ではなく定量的データに基づき、その上で企業のニーズにあった最適国・地域から最適な在留資格で受け入れることができる。選ばれた外国人は待遇や環境への満足度が高く、しかも親日なので日本人との共生も図れる。柴崎氏は「特定技能は学歴要件がないので、このままでは技能実習と同じく18歳以上の中卒・高卒の外国人を迎え入れることになり、最低賃金で働かされかねない。バッドケースにつながる」と言い切る。


かつて技能実習生の最大の送り出し国だった中国も高齢化などによる人手不足から外国人を採用する側に回り、今後は激しい人材獲得競争も予想される。他のアジア諸国も経済が成長すれば日本で働く魅力も薄まる。認められていない家族帯同など条件面を改善しなければ日本が避けられるようになる。日本行きの希望者がいる今のうちに人材争奪戦で「選ばれる国」になるだけの魅力を再整備する必要がある。人手不足に悩む企業も同じで、待遇改善などにより「フラれない」努力が欠かせない。


 

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