鳥の目、虫の目、魚の目

第38回

円より縁 地域通貨が絆を深める

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 

1万円札の「顔」が福沢諭吉から「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一に代わった。5千円札の肖像画は津田梅子に、千円札は北里柴三郎になった。消費者のキャッシュレス決済が4割まで高まり、デジタル化が進む中での新紙幣の登場だ。

こうした中、地域通貨に注目したい。特定の場所でしか使えない通貨で、自治体や企業、NPO、商店街などが独自に発行。地域の経済振興やコミュニティーの強化に使われることが多い。

この地域通貨を題材とした映画が制作され、8月に東京・新宿、9月には大阪・梅田で上映される。タイトルは「ロマンチック金銭感覚」。若手監督の登竜門として知られ、受賞すると商業映画の上映に近づくといわれる「田辺・弁慶映画祭」で、海外進出のポテンシャルが高い作品に贈られるフィルミネーション賞に輝いた。

俳優の緑茶麻悠と映画作家の佐伯龍蔵が共同で監督。日本各地に暮らす独自の金銭感覚を持つ人々に2人が取材を重ねた映像をフィクションとして再構築した新感覚映画で、資本主義や経済成長の限界を指摘し、新たな選択肢としての地域通貨の可能性をユーモラスに描いたという。

映画のストーリーはこうだ(チラシから抜粋)。

映画監督である龍蔵と麻悠は、働けど働けど常にお金がない貧乏監督コンビ。売れない自主映画を定期的に作り続けているからで、生活費も底をついたある日、映画作りには避けて通れない「お金」について考え始める。そんな夜、旅人が突然来訪し「お金って何ですか?」と問いかける。

答えられない2人はおかしな出来事に遭遇しながら、地域通貨に出会う。その実践者たちに話を聞くうちに、普段何気なく使っている法定通貨「円」の外側に、とてもロマンチックな経済圏があることを知った。

なぜ地域通貨がロマンチックなのかー。

佐伯氏は「どこか冷たいイメージを感じさせる『お金』というワードに、『ロマンチック』を付けるとユーモアを感じられる。それは映画の中で取り上げている『地域通貨』によるお金の在り方そのもの。つまり取引するとき、最初に相手との関係を思い出させてくれる」と説明した。この温かみがロマンチックなのだという。

円ではなく地域通貨が流通している地域コミュニティーや、「共感コミュニティー通貨」を独自発行している非営利株式会社eumo(ユーモ)を取材していく中で、つながり、すなわち縁を感じ取ったわけだ。「金の切れ目が縁の切れ目」と言われる世の中で、「円より縁」は確かに共感できる。

緑茶氏も「地域通貨は地域コミュニティーとのつながりが見える。人と人とをつなげるきっかけになり、互いに助け合う『おせっかい通貨』だ」と強調する。その上で「お金は目的をかなえる手段なのに、目的になっている。お金持ちでも人とのつながりが持てなければ幸せとは感じないはず」と話す。

「共感資本社会」を掲げるユーモにもシンパシーを感じたという。ユニークなのは通貨に3カ月の有効期限を設けていることだ。貯めるお金ではなく、循環するお金として生かすためだ。期限切れのお金はコミュニティーへの感謝や応援の気持ちとして贈ることできる。自分のために使えなくなっても、人のために使われることになり、それはやがて「ありがとう」という感謝の声となって自分に返ってくる。「情けは人の為ならず」というわけで、共感をベースとした経済循環を創出できる。

お金の役割・機能は、尺度(モノやサービスの価値を計る)、交換(売買)、保存(貯蓄)といわれる。地域通貨には保存機能がないため、お金が動く。つまり経済が回ることになる。家計だけでなく、企業の内部留保も年々膨れ上がる。貯め込むだけで、設備投資や人材育成などに使わなければ「宝の持ち腐れ」になってしまう。これでは経済活性化をもたらさない。

ロマンチック金銭感覚は昨年12月、京都市と富山市のミニシアターで先行上映された。その際に新たな試みとして、映画の通常料金を設定せず、鑑賞者の一人一人が納得する料金を支払う「金銭感覚上映」を行った。すると円(1~1万円超)のほか、地域通貨やクーポン券、さらにはコーヒー豆200グラム、フランス語翻訳など自分のスキルと交換といったものもあったという。ここでも映画の作り手と観客、観客同士のコミュニティーが生まれた。

使える場所は限られる地域通貨だが、一方で濃密なコミュニティーを形成できる。利他主義の考えにも通じる。人と人を結び、仲間をつくり、起業や恋愛・結婚につながるきっかけをもたらす。将来不安から結婚をあきらめ、結婚しても子供を生まない若者は増えている。また老後2000万円問題も重くのしかかる。一方で「金、金、金」と拝金主義に走る人たちもいるだけに、縁結びの通貨にロマンを感じる。ロマンチック金銭感覚に賛成だ。

やはり円より縁だ。物価高や円安で通貨価値が下がるばかりの円と、コミュニティーの絆を深める縁結び通貨ではどっちが多くの価値、つまり幸せを得られるのか。「ありがとう」の言葉が自然に出てくるほうに軍配が上がるのは確かだろう。

潜在成長率が長く1%を割り込み、合計特殊出生率が1.20%に落ち込む日本を地域通貨が救うかもしれない。アイデアや夢を持ちながら一歩踏みだせないでいるなら、ヒントを得るために映画館に足を運んでもらいたい。

上映はテアトル新宿が8月23~27日、テアトル梅田は9月20,24,26日。ともにレイトショーとして行われる。

 

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