鳥の目、虫の目、魚の目

第10回

ベンチャー育成、先輩経営者がメンタリングで支援 出る杭を打つことで日本経済に刺激

イノベーションズアイ編集部 2022年3月18日
 
バブル経済が崩壊してから30年がたつ。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた面影はもはやなく、国際的な地位は低下するばかりだ。長い停滞の原因は、企業と産業の新陳代謝が進まないからだ。産業の主役の担い手を、いわゆる「経団連銘柄」といわれる大企業から奪うベンチャー企業の誕生、そして台頭が急がれる。

こうした中、注目すべきベンチャー育成手法に出合った。ベンチャービジネスの振興に寄与する日本初の公益法人、東京ニュービジネス協議会(NBC)が始めた「起業家支援プラットフォーム」だ。ベンチャー企業と経営者が抱える問題をワンストップで解決し、企業成長を現場視点で支援する。

その一つがIPO(新規株式公開)を目指すベンチャー経営者を支援するピッチコンテスト「スタートアップ・メンタリング・プログラム」。2021年度決勝大会が3月3日、東京・日本橋で開催されたので取材に行った。

予選を勝ち抜いた7社が自慢のビジネスプランを披露するのに先立って、NBCの井川幸広会長(クリーク・アンド・リバー社代表取締役社長)が「(同コンテストは)起業家を育てるために誕生した。審査委員はすべて、自ら起業した人たち。IPOは通過点の一つに過ぎないが、それを乗り越えた人たちのアドバイスは起業家にとって成長の支えになる。すぐにでもIPOできるビジネスモデルもあり楽しみだ」と挨拶した。

将来が楽しみなため、決勝の舞台に立った新進気鋭のベンチャー企業を紹介したい。医療・介護業界向けIoT(モノのインターネット)センサーの開発・販売を目指すクォンタムオペレーション(加藤和磨代表取締役)、クリエイタープロダクションやコンテンツ制作事業のBitStar(渡辺拓代表取締役社長CEO)、独自の高純度ナノレベルのガラスコーティング剤を研究開発するハドラスホールディングス(山本英明代表取締役社長)、ラグジュアリーアイテムの輸入・買取などのHAPPYPRICE(小林裕昌代表取締役)、フリーランス向け報酬即日払いサービスを開発するyup(阪井優代表取締役社長)、クリエイターを起点としたマーケティング支援事業を行うNatee(小島領剣代表取締役)、審査不要の売掛保証BtoB決済後払いサービスを開発・提供するPayment Technology(上野亨代表取締役)の7人だ。

審査委員から「各社とも特徴、こだわりがあって甲乙つけがたい」と評価された接戦を制し、最優秀賞に輝いたのはハドラスホールディングス。山本氏は「機能性薄膜として重量を変えず、見た目も変えず、空力抵抗も軽減できるので、コーティングでの困り事を解決できる。商品力は圧倒的に強いので、ライバルには100%勝てる」と自信たっぷりにプレゼンテーションしたのが認められた。確かにイノベーションを起こしそうな画期的技術の持ち主と感じた。


NBCのベンチャー育成法がユニークなのは、取材したピッチコンテストもそうだが、名称が「メンタリング・プログラム」とあるように予選から決勝に臨むまで先輩経営者がメンター(助言者)となって寄り添い、面倒を見るからだ。企業と経営者の成長を促すのが開催本来の目的で、井川会長も「コンテストなので最優秀賞など順位をつけるが、終わってからもずっと支えていく」と明言した。審査委員も「メンタリングの成果なのだろう。(予選会から)成長がうかがえた」と話していた。先輩目線で個別メンタリングやスクール形式でのコーチングにより最後まで支えるのがNBCの真骨頂といえ、ステップアップを目指すベンチャー経営者にとって、まさに頼もしい兄貴的存在といえる。


審査委員が証券会社でもファンドでもなく、ベンチャーにとって先輩となる現役上場企業経営者というのも魅力的だ。プレゼンテーション後には現役経営者から収益性などについて厳しい質問やスケールアップに向けての親身になったアドバイスを受けられるからだ。審査委員の一人でメンタリング・プログラムを担当する青木正之副会長(Ubicomホールディングス代表取締役社長)は「尖ったベンチャーが登壇するので審査委員の我々も楽しみ。本業との親和性、相乗効果が見込めるなら業務提携や出資もありうる」という。審査委員は自社の営業資産を生かせるかどうかも念頭に入れてプレゼンに耳を傾けているわけだ。出場するベンチャーにとって、提携による成長機会を得るだけでなく、決定的に足りない資金力を補える可能性もある。


NBCは起業化支援プラットフォームとして、メンタリング・プログラムのほか「IPOスクール」を21年11月に開校した。こちらもIPOの先輩経営者がメンターとなって、ハウツー本には載っていない上場前の心構えやビジネスモデルの磨き方など、知っておきたい情報を伝授。東京証券取引所や証券会社、監査法人とも連携しており徹底的に教えるので、ちょっとした気づきも得られる。


21年のIPOは125社で、07年以来14年ぶりに100社を超え活況だった。ベンチャーの上場は日本経済に刺激を与えるので22年以降も「100社超え」を続けてもらいたい。そのためには世界を見据えるベンチャーの登場が待たれるし、出る杭を伸ばすサポート体制を整える必要もある。


 
 

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