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鳥の目、虫の目、魚の目

第18回

リスクを取らなければ成長しない。政府・日銀は機動的な金融政策を

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 
政府・日銀は9月22日、24年ぶりの円買い・ドル売りの為替介入に踏み切った。円安を止めるため「伝家の宝刀」を抜いたことで、外国為替市場では1ドル=145円台から140円台まで急速に円高・ドル安が進んだ。

一定の介入効果はあったといえるが、市場では政府・日銀による介入が相場の流れを変えることは難しく、効果は限定的と見る。実際、同日のニューヨーク市場では142円台前半まで戻され、23日のロンドン市場では143円台を付けた。このため「無駄な介入」との声すら聞こえてくる。

外為市場には円安圧力が根強く残っているからだ。欧米などの金融当局がインフレ退治に向け金融引き締めを強める中、日本だけが金融緩和姿勢を貫いている。米国の長期金利は今年だけで約2%上昇し3.5%程度に達した。一方の日本は、日銀が長期金利の上限を0.25%に抑える金融政策を維持する。

日銀の黒田東彦総裁は、22日の金融政策決定会合後の記者会見で「当面、金利を引き上げるようなことはない」と強調。その上で「必要があれば躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」と言い切った。これでは日米の金利差は拡大するばかりで、金利の高いドルを買うため円を売る動きが今後も強まるのは間違いない。

円安は輸入する資源や原材料の値上がりにつながり、輸入物価の上昇は日本の企業、家計を圧迫する。帝国データバンクによると、食品は10月に6500を超える品目で値上げが予定されている。8月の生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.8%上昇し、5カ月連続で日銀が政策目標に掲げる2%を上回っている。


それでも日銀は動こうとしない。賃金が上昇し、物価が安定的に2%程度上昇する状況ではないとみているからだ。毎年の賃金は春闘で決まるし、現状の金融政策をかたくなに守る姿勢を堅持する黒田氏の総裁任期が満了するのも来春だ。


ということは、来春まで円安も物価上昇も放置することになりかねない。日銀は「通貨の番人」「物価の番人」といわれる。にもかかわらず、円を売るために訪れる通行人(投機筋)を黙って通すわけで、門番とはとてもいえない。


金融政策は本来、機動的、弾力的であるべきなのはいうまでもない。だが、日銀は短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度にする金融緩和を続ける。これにより財務体質が脆弱な企業でも資金調達がしやすくなり、本来なら市場から退出すべき企業も生き残ることになる。帝国データの調べによると、利払い負担を事業の利益で賄えないにもかかわらず、営業を継続している「ゾンビ企業」は2020年度時点で約16万5000社。前年度から約1万9000社増えた。


これでは日本経済の新陳代謝は遅れるばかりで、構造改革を阻む。本来なら革新力を持つベンチャー企業が続々と誕生し、生産性が低い企業を追い出したり、成長分野への事業転換を促したりする世代交代が起きることで経済は活性化する。


このような経済循環が生まれない限り日本買い、すなわち円買いは起きない。開業率と廃業率を足し合わせた「代謝率」は米国や英国、ドイツが20%程度で推移するのに対し、日本は約5%にすぎない。日本企業の新陳代謝がいかに乏しいかを物語るデータだ。


これではイノベーションは起こらない。輸出に有利な円安にもかかわらず貿易赤字が続くのも頷ける。輸入物価の高騰を受けているとはいえ、日本には世界で売れる製品・サービスが長らく誕生していないわけだ。もはや日本は輸出大国と呼べない。


失われる国際競争力、歯止めがかからない通貨安、さらに忍び寄る物価高―。日本経済を取り巻く環境は厳しい。企業が投資に前向きになれる環境に変えなければ、地盤沈下は進むだけだ。


カギを握るのは人材だ。リスクを取って起業に挑む若手が不足している。言い換えると、人材の流動性向上が欠かせない。大企業で経験を積んでからベンチャーを創業したり、大学の研究者が起業したりする事例が増えると変わるはずだ。最近は学生社長も増えている。


失敗したら責任を取る風土からは何も生まれない。失敗あっての成功であり、そのためにはリスクを取ることだ。これこそが閉塞感に包まれた今の日本が選ぶべき道だ。「できない」。それは「やりたくない」と同義語だ。


 

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