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鳥の目、虫の目、魚の目

第31回

シニアの活用で生産性向上

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 

元気なシニアが多い。人手不足に悩むチェーン店を働き手として支えているのも、観光地を訪れて現地を潤すのもシニアだ。

総務省によると、2022年9月時点の65歳以上の高齢者は3627万人。前年比6万人増加し過去最多となった。総人口は82万人減少しているので高齢化比率は29.1%と過去最高だ。ちなみに75歳以上人口の総人口に占める割合は初めて15%を超えた。いわゆる団塊世代(1947~49年)が22年から75歳を迎え始めたからだ。

働く高齢者も増え続けている。22年の65歳以上の就業者数は前年比3万人増の912万だった。就業者数に占める割合も前年比0.1ポイント上昇して13.6%と過去最高になった。働き手の7人に1人が高齢者だ。

筆者も23年9月で65歳となり、40年強にわたりお世話になった会社を卒業した。縁あって新たな仕事先を見つけることができ、いわゆる「きょういく」「きょうよう」を得た。(ちなみに前者は「今日、行くところがある」、後者は「今日、用事がある」を指すそうで、私も先輩から聞いて知った)

少子化による生産年齢人口の減少により、企業も高齢者に頼らざるを得ないともいえる。雇用側が定年延長や継続雇用など雇用制度の充実に注力してきたことで、60代になっても働きやすい環境が整ってきたからだ。「シニアなしに経営は成り立たない」「シニアを生かせないのは損失」と言い切る企業も増えている。70歳以上でも働ける制度を持つ企業は約4割に達した。

とはいえ、シニア人材を生かし切れていないのが現状だろう。長年にわたる会社勤めを終えて、再就職先を探しにハローワークに行って求人票を見ても、自分の経験を活かせる仕事を見つけるのは難しい。若者が嫌がる「きつい、汚い、危険」の3K職場が少なくない。これでは経験もスキルも生かせない。意欲はあるのに活躍の場が閉ざされているのであれば「宝の持ち腐れ」といわざるをえない。

定年前の役職定年制度も弊害となっている。多くの企業は一定の年齢(多くは50代前半から半ば)に達すると管理職を外され、権限も小さくなり、給与水準も下がる。組織の若返り・新陳代謝を図れるとはいえ、これでは該当者のモチベーション低下は避けられない。

賃金が下がる以上にパフォーマンスが低下しているともいわれる。役職定年に伴い50代社員が意欲と生産性低下で生じる経済的損失は1兆5000億円に達するという試算もある。職場に「働かないおじさん」が多いともいえる。

言い換えると、役職定年者の活用法が分からない企業が少なくないといえる。それまでに培った経験や技術を生かすことができない仕事に就けば、やりがいもアイデンティティも失うのは当然だろう。

特に、日本の強みである現場を熟知するベテラン技能者を生かし切れていないのは残念だ。終身雇用制のもとで長年にわたり磨いた技能を、若手に伝承していくことを会社から与えられた使命と意気に感じる世代にもかかわらず、その機会さえ与えられずに現場を去るのは本人も忸怩たる思いをもっているはずだ。

これでは「俺が培ってきた技能は必要とされていないのか」と勘ぐってしまう。日本の産業を支えてきたと自負する熟練技能者にとって賃金以上にモチベーションの低下につながっているのではないかと危惧する。


65歳以上の85%が定年退職後も働き続けるー。こうした考えに賛同するシニアが世界的に増えていることが、総合人材サービスを提供するランスタッド(東京都千代田区)の調査で分かった。生産年齢人口の減少に悩む企業にとって、定年退職後の人材活用がいかに有益化を示す結果となった。

同社は世界34カ国・地域で働き手の意識調査を実施した。回答者の70%が早期引退は経済的理由から難しいという。22年の調査では61%が65歳までに定年退職したいと答えていたが、今回は51%にとどまった。一方で、回答者の3分の1近くが目標達成や「忙しくしていたい」という社会的側面から仕事が不可欠と回答した。

英センター・フォー・エイジング・ベター労働局副所長のエミリー・アンドリュース博士は「雇用主はシニア人材の持つ経験、スキル、視点を非常に高く評価しており、中でも多岐にわたる世代からなる労働力がもたらす多様な視点や姿勢に期待している」と指摘した。

OECD(経済協力開発機構)の調査でも、50歳以上の従業員割合が平均より10%高い企業は生産性が高いという結果がある。別の調査でも、多世代が働く企業は高いイノベーションが評価されていると説明した。

まさに、その通りだろう。シニアの多くは健康で働く意欲も高い。70歳を超えても働きたいという人も少なくない。日本の生産年齢人口が減少し続ける見通しの中、企業の将来を考えるとシニアを活用するしかない。高い知見と技術力をもつシニアを積極的に雇い、成果に合わせて昇給することでシニアの働く意欲も高まり、企業も課題となっている生産性向上を果たせる。ウイン・ウインの関係を築くためにもシニア活用が欠かせない。


 

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