企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第22回
「地方創生テレワーク」の進化形──自治体×企業×住民で生み出す『ローカル・テレワーク』 〜地域の人・企業・文化が輝く、循環型の“しごと生成エコシステム”〜
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
前回のコラムでは、「自治体・企業・住民の三者連携」が生み出す新しい地方創生のモデルについてご紹介しました。
今回はその延長線上にある、地域が自ら“仕事を生み出す”ステージ──『ローカル・テレワーク』について深掘りしていきます。
1. 始まりは、ひとりの「想い」から
「私たちの町は田舎で、何もないから」
「人が減って行くのも仕方がない」
地方へ行くと、そんな声を聞くことがあります。
若者は都市へ向かい、商店街の灯りは少しずつ減り、地域の風景に静けさが増えていく。けれど、その“何もない”と見える場所の中にこそ、まだ掘り起こされていない“未来の資源”が眠っているとしたらどうでしょう。
自然や、食や、歴史。地元の人にとっては当たり前になってしまっている「地域ならではの良さ」が、一度地域を離れたUターン希望者や、都会の喧騒を離れて暮らしたい移住者や二拠点居住希望者にとって大きな魅力になることも多いものです。
それなのに、人口流入より流出が上回ってしまう原因の一つに、「そこに住んでも仕事がない」という現実があります。そうした状況を改善する一つの方法がテレワークです。
地域に住みながら、テレワークで仕事ができる。そんな地方創生テレワークは、これまで主に都市部の企業が地方の人材に仕事を“発注する”スタイルが中心でした。しかしいま、全国の現場では確実に新しい潮流が生まれています。
「地域テレワーカーが、地域企業の課題を解決する」
毎日車で1時間かけて通勤するのは難しいけれど、普段はテレワークで、週1回出社なら働きたいテレワーカーと、テレワーク導入には不安を感じるけれど、いざとなれば会える地域テレワーカーなら力を借りたい企業がマッチングし、地域内で雇用を生み出し経済を回す。
そんなふうにして、地域が自らの手で未来を設計し、持続可能な仕事を生み出す──それが「ローカル・テレワーク」です。
2. 未来を描き直す「設計図」=ローカル・テレワーク
ローカル・テレワークは、地域の未来を描き直すための、極めて実践的な「設計図」です。
地域の中で「育成」「就業」「定着」の好循環を回し、地域内外の仕事を継続的に取り込む。この仕組みを成り立たせるポイントは、以下の3つです。
地域で人を育てる:眠っていた才能に光を当て、デジタルスキルだけでなく、主体的に動くマインドやチームで協働する力を育みます。講座を受けた人が90日以内に実務経験を積めるように設計するなど、座学で終わらない「実践につながる学び」を重視します。
地域で仕事をつくる/呼び込む:地元企業の業務を棚卸しし、デジタル化・BPO化を進めます。外部の副業・リモート人材とチームを組むことで、都市の知見を取り込みながら、地域の仕事を再設計する仕組みが整います。
地域に根づかせる:得た収益は地域内で再投資し、次の育成や事業支援へ。仕事が単発で終わらず、人が育ち、仕事が続き、コミュニティが回る循環をつくり出します。この循環の“要”を担うのが、前回ご紹介した「ローカル・テレワーク・パートナー」です。
行政と企業の調整役であり、人材の伴走者であり、そして地域の内と外をつなぐ架け橋。まさに「三者連携を動かすエンジン」として欠かせない存在です
3. 地域が、輝きを取り戻す瞬間
私たちaubeBizは、これまで全国のさまざまな地域と共に歩んできました。その中で何度も目にしてきたのは、「人と仕事がつながる瞬間」に生まれるエネルギーです。
事例①:地元企業と住民が共に育つまち
育成講座で学んだ住民が、地元企業のSNS運用や広報を担うようになり、 “地域で人を育て、地域で雇う”という新しい循環が生まれました。 発信の頻度は数倍に増え、企業のオンライン発信力も向上。 「このまちに、仕事が戻ってきた」という実感が、地域全体の希望になっています。
事例②:子育て・介護世代の新しい働き方モデル
行政・企業・住民が一体となって、在宅でも安心して働ける仕組みを構築。 採用コストを抑えながら応募数は大幅に増加し、 「育児や介護を理由に働くことを諦めなくていい」という声が広がりました。 雇用の創出以上に、働く人たちの笑顔と自信が地域の財産となっています。
事例③:地域の魅力を“仕事”に変えた観光プロジェクト
観光とテレワークを掛け合わせた新しいプロジェクトでは、 都市部の副業人材がブランド設計や発信戦略を監修し、 地元のメンバーが日々の情報発信を担いました。 結果としてアクセス数やファン数が大幅に伸び、 地域の外からも「応援したい」という声が集まるようになりました。
これらの地域に共通するのは、「仕事を待つ」姿勢から、 「自分たちで未来の仕事をつくりにいく」という意識への転換です。その一歩が、町の風景を変えるほどの力になります。
4. “関係人口ワーカー”が生む新しい循環
ローカル・テレワークのもう一つの大きな特徴は、地域の外にいる多様な人材と共に働ける仕組みにあります。
例えば、東京在住の副業ワーカーが、その専門知識を活かして地方企業のブランディングやSNS戦略を支援する。一方で、地元の人材はその戦略に基づいた日々の運用・更新を担い、現場のリアルな情報を発信していく。こうして、「都市の知見」と「地域の現場力」がかけ算され、互いに刺激し合うことで、一人では生み出せなかった大きな価値が創造されます。
この関わりを通じて、副業人材は「仕事相手」から「地域の共創者」へ。やがては”関係人口ワーカー”として、地域のファンとなり、第二のふるさとになっていくこともあります。オンラインのやり取りだけでなく、現地を訪れ、人と人が出会い、プロジェクトが新たな芽を出す。こうした「都市と地域をつなぐ循環」**こそが、ローカル・テレワークの真価とも言えます。
5. 私たちが大切にしている3つの視点
この循環を、未来へとつないでいくために。私たちが、いつも大切にしていることが三つあります。
① 経済と社会、両輪で価値をつくる
企業の生産性向上と、地域の雇用・教育・文化の継承。経済的な成果(ROI)だけでなく、「暮らしの豊かさ」という社会的価値を、同じダッシュボードで可視化することを目指します。
②“育成”と“定着”のバランス
講座を受けて終わり、ではなく、学びを実務につなぐ仕組みづくり。スキルアップ講座→OJT→小規模案件→定期案件化、という期間を定めた中での成功体験設計が、長期定着の鍵となります。
③“地域らしさ”の活用
地元の特産品、観光資源、独自の文化、そして何より“人”の魅力を、テレワークやデジタル技術を駆使して光を当てること。“働くこと”と“暮らすこと”を分断せずに捉えることで、その地域ならではの個性が、他にない強力な武器になります。
6. 自分のまちを、働く舞台に
ローカル・テレワークのゴールは、“遠くの正解”を探すことではありません。
「自分のまちを、働く舞台に仕立て直す力」を地域自身が取り戻すこと。地域内の仕事だけでなく地域外の仕事も受けることで「地域外からの収益」を地域にもたらすことも出来ますし、逆に地域の仕事を地域外の人材に発注することで「知見」を得ることも可能です。
もちろん、実現ためには行政や自治体、民間企業、住民の連携が不可欠です。
地域が生み出す“しごと”と“人”の循環が広まれば、日本全体を元気にするエネルギーになって行くのではないでしょうか。
次回は「地方と企業をつなぐ“BPOモデル”の進化──自走型チームが地域経済を動かす」
ローカル・テレワークを支えるもう一つの重要な仕組み、“地域BPO”の可能性を掘り下げます。企業と地域人材が対等なパートナーとして成果を出す仕組み、そして地域自身で仕事を回していく“自走チーム”の育て方を実践事例とともにお届けします。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第22回 「地方創生テレワーク」の進化形──自治体×企業×住民で生み出す『ローカル・テレワーク』 〜地域の人・企業・文化が輝く、循環型の“しごと生成エコシステム”〜
- 第21回 自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
- 第18回 「“自走できる人材”を育てるマインドと環境づくり」 〜指示待ち型から“目的を理解し、動ける人材”へ〜
- 第17回 「“信頼される会社”の条件──テレワーク時代の組織文化とリーダーシップ」 〜制度や仕組みを超えて“信頼”を築く組織の土台とは〜
- 第16回 生成AIとテレワーク ──中小企業が直面する“AI格差”を乗り越えるには?
- 第15回 「地域×テレワーク」──地方創生ローカル・テレワーク 〜地域企業と地域人材のハブとなる地域リーダーの創出〜
- 第14回 「“個の力”を最大化するチームづくり──テレワークでも成長・定着する組織のつくり方」 〜孤独・疎外感を防ぐコミュニティ型組織づくりの工夫〜
- 第13回 「“副業・複業人材”を活かす!兼業社会における新しい雇用戦略」 ── 多様なキャリアが交わる“パラレルワーカー”活用の可能性
- 第12回 「“スキマ時間”を活かす働き方──ワークシェアリングという選択肢」
- 第11回 「成功するテレワーク採用」 〜離れていても成果を出す組織づくりのヒント〜
- 第10回 「“全国から採用する時代”へ!採用戦略の発想を切り替えるヒント」 〜テレワークが生み出す“新しい雇用のかたち”〜
- 第9回 「BPOとBCP」―― 有事の際の事業継続に備える新常識
- 第8回 ーDX化の第一歩となる業務改革ー「属人化を防ぐ仕事の仕組み化」
- 第7回 完全テレワークでも離職率5%未満を実現するチームづくりの秘訣 〜組織の土台を支える“仕組み”と“信頼文化”のつくり方〜
- 第6回 成長戦略としてのBPO活用法 〜“外注”にとどまらない、企業の柔軟性と競争力を高める選択肢〜
- 第5回 「テレワークは難しい?」──よくある誤解と“うまくいかない理由”を解きほぐす
- 第4回 地域で働く、地域を支える──「ローカル・テレワーク」という新しい仕組み
- 第3回 地方に眠るチカラを活かす!「地方創生テレワーク」の可能性
- 第2回 眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
- 第1回 これからの時代に選ばれる働き方とは? ― 少子高齢化・人材不足を乗り越える組織づくりのヒント