企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第2回
眠れる働くチカラ 「働きたいけれど働けない」潜在労働力を社会へ
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
第1回では、深刻化する「人がいない」という課題に焦点を当てました。
しかし、その裏側に目を凝らしてみると、社会とつながりたい、活躍したいと願いながらもその力を十分に活かせていない人々が数多く存在しています。様々な理由でその機会を得られていない「潜在労働力」が、まるで地中に眠る豊かな鉱脈のように存在しているのです。
今回はこうした「潜在労働力」について深く掘り下げ、テレワークやBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)といった新しい働き方が、いかにこの眠れる働くチカラを社会へつなげていく鍵となるのかをお話しします。
<潜在労働力とは?>
「潜在労働力」という言葉が示すのは、単に働いていない人々ではありません。
たとえば、幼いお子さんの成長を見守りながらも社会とのつながりを求める人。
家族の介護に時間を割かれながらも自身のスキルを活かしたいと願う人。
結婚や出産、病気療養などで一度キャリアが途切れてしまったものの、もう一度働きたいと願う人。
あるいは、通勤が難しい・体力的に制限があるけれど、これまでの経験を誰かの役に立てたいと考えているシニアの方々や、地方に住みながらも活躍の場を探している人たち。
そんな多様な背景を持つ人々で、現在就業はしていないけれど、条件によっては、もしくは将来的に就業を希望している人たちが含まれます。
総務省の「労働力調査」によると、非労働力人口のうち、約300万人が「働きたいのに働けていない」という状況にあります(令和5年 労働力調査年報より)。
また、労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査では、育児や介護を理由に離職した女性の再就職意向や、高齢者の就業意欲の高さが示されています。
これらの調査結果は、「潜在労働力」が決して小さな規模ではなく、適切な環境さえ整えば労働市場に大きなインパクトを与える可能性を示唆しています。
<なぜ活かされていないのか>
ではなぜ、これほど多くの「潜在労働力」が眠ったままなのでしょうか。
データからも、その構造的な要因が見えてきます。
厚生労働省の「仕事と育児の両立に関する実態調査(令和3年度)」では、育児や介護を理由とした離職者の多くが、柔軟な働き方ができないことを再就職の壁として挙げています。
とくに通勤を前提としたフルタイムの働き方では、これらの層の方々が活躍することは難しいのが現状です。
いまだに多くの企業が、経験者やフルタイム勤務を前提とした採用を行っており、転職支援サービス企業の調査データでは、ブランク期間が長いほど採用選考で不利になる傾向が示されています。
キャリアのブランクに対するネガティブな評価や、多様な働き方に対する理解不足が、「潜在労働力」の活用を妨げている可能性があるのです。
また、地方においては、都市部に比べて求人数が少なく、希望する職種が見つかりにくいという課題があります。地域によって雇用機会に大きな差があることも事実です。
<テレワーク・BPOで「つながる」方法>
このような状況に対し、テレワークという働き方と、業務プロセスの一部を外部に委託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)は、働きたいけれど働けない「潜在労働力」と、人材を必要としている企業や自治体などの組織を結ぶ有効な架け橋となり、人材不足という社会課題の解決策になり得ると感じています。
いくつかの具体的な事例や体験談から、その可能性をご紹介します。
事例1:地方在住・子育て中のAさん──在宅経理でキャリアを再開
2人のお子さんを育てながら、経理経験と簿記資格を活かし、週に数時間、家事や育児の合間に自宅で請求書発行や経費精算などの業務に従事。通勤時間ゼロで自分のペースで仕事ができ、子育てと仕事の両立が可能に。企業側も、必要な時に必要なスキルを持つ人材を活用でき、効率的な業務運営につながった。
事例2:東京在住・介護中のBさん──テレワークでWebデザインのスキルを活かす
Webデザイナーとして活躍していたが、介護に専念するために一時的に離職。親を在宅で介護しながら、週3日のテレワーク契約で都内のIT企業に就業し、Webサイトの更新やデザイン業務に従事。通勤の必要がなく、柔軟に働けるため、介護との両立が可能に。企業側も、多様な働き方を認めることで、優秀な人材を確保することができた。
体験談:キャリアブランクを経てBPOサービス企業で活躍するCさん
結婚・出産で5年間のキャリアブランクがあり、再就職活動は難航。テレワークでBPOサービスを提供するという働き方を知り、データ入力の業務に従事。直接雇用ではないものの、社会とのつながりを持つことができ、将来的には正社員としての再就職も目指している。
このように、テレワークやBPOの活用で、働きたくても働けない「潜在労働力」と企業・自治体がつながれば、双方にとってメリットのある働き方を実現できる可能性があると感じています。
育児や介護などの理由で、これまで離職せざるを得なかった人々にとって、新たな就業機会を提供できるため、実際に、テレワーク導入企業における女性や高齢者の雇用割合が増加したというデータも存在します。
もし企業や自治体が業務を外部委託する際、直接委託が難しい場合で、特にオンラインでの作業やコミュニケーションに不安がある場合などは、BPOサービスを提供する会社を利用するという選択肢もあります。
出社型でフルタイムの直接雇用にこだわらなくても、BPOサービスを通して、地方在住のスキルを持つ人材にデータ入力や翻訳業務を委託したり、育児中の母親にWebサイトの運用を任せたり、地域の主婦層に在宅での事務作業を委託したりなど、全国の人材に必要な業務だけを依頼することが可能になるのです。
日本にはまだまだ、多くの「働きたいけれど働けない」潜在労働力が存在し、その背景には、時間や場所の制約、企業側の採用慣行、地域間の雇用格差といった構造的な要因が複数絡みあい、簡単に解決できないことも多くあります。
しかし、テレワークやBPOといった新しい働き方や仕事の依頼方法は、これらの障壁を取り払い、眠れるチカラを社会へとつなぐ大きな可能性を秘めていると信じています。
「人がいない」と嘆くのではなく、「まだ、つながっていない」人々に目を向け、つなぐ制度や環境をつくるべき時なのかもしれません。テクノロジーと柔軟な発想によって、これまで埋もれていた労働力を積極的に活用していく。それこそが、持続可能な社会を築くための重要な鍵となるのではないでしょうか。
次回は、地域に新たな雇用を生み出し、活性化につなげるための切り札として注目される「地方創生テレワーク」とは何か?──“地元に仕事が生まれる仕組み”について詳しくお届けします。
プロフィール
株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
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