企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第33回
地域リーダーが拓く未来──ローカル・テレワーク・パートナーの力 〜企業と地域をつなぐ「新しいハブ人材」という選択肢〜
株式会社aubeBiz 酒井 晶子
はじめに──課題は「人がいないこと」ではなく、「つなぐ人がいないこと」
地方創生、人材不足、テレワーク、BPO。
これまでこのコラムでは、さまざまな切り口からお話ししてきました。
その中で、私自身が現場に立ち、強く実感していることがあります。
それは、「課題そのものは見えているのに、それを“つなぐ人”が足りていない」という現実です。
地方には、「人がいない」「仕事がない」「若者が出ていく」という声があります。
一方、企業側には、「人材が採れない」「業務が回らない」「外注しても定着しない」という悩みがあります。
そして多くの場合、この二つは“別の問題”として語られてしまいます。
私は、この二つの間に立ち、「企業の事情も、地域の事情も、働く人の事情も理解したうえで橋をかける存在」がいれば、状況は大きく変わると考えています。
その役割を担うのが、今回のテーマである「ローカル・テレワーク・パートナー」です。
日本全国で「地方創生」や「テレワーク推進」が叫ばれて久しいですが、現場を歩いていると、点と点がつながっておらず、もったいないと感じることがしばしばあります。
企業誘致のための立派なサテライトオフィスを用意したり、高いレベルのITスキル習得のための講座を開催したり、移住希望者への手厚い補助金やサポートを用意しているのに、地域は閑散としたまま…。
これは、働く先(企業)と、働き方や職種と、働き手という「点」が「線」としてつながっておらず、ましてやコミュニティや暮らしそのものである「面」にまで成熟することができていないからだと感じています。
一方で、交通の便が悪く、設備投資が十分でなくても、企業と人が繋がり、テレワークという働き方が着実にスタートしている、活気に満ちた地域もあります。
この違いは、どこで生まれるのでしょうか? 補助金の額でも、建物の新しさでもありません。
答えはシンプルです。
「翻訳者がいるかどうか」。
行政・企業・働き手という、異なる言語(論理)で動く三者の間に立ち、汗をかいてつなぐ翻訳者「ローカル・テレワーク・パートナー」がいる地域は、持続的な成果を出し始めています。
ローカル・テレワーク・パートナーとは何者か?
ローカル・テレワーク・パートナーとは、単なる「在宅ワーカー」でも、単なる「人材紹介役」でもありません。
あえて一言で言うなら、「地域に根ざしながら、企業と人材を“仕事の設計”からつなぐハブ人材」です。
もう少し具体的に言うと、次のような役割を担います。
・地域の人材(主婦・シニア・若者・副業人材など)の状況を把握している
・企業の業務内容・課題・温度感を理解している
・仕事を「丸投げ」ではなく、「切り出し」「設計」できる
・テレワークやBPOという仕組みを使い、継続的な関係をつくれる
つまり、「人を紹介する人」ではなく、「仕事が回る関係を設計する人」です。
行政の既存制度である「地域活性化企業人」や「地域おこし協力隊」などとも似ていますが、決定的な違いは、民間(人・企業)の事業体として独立していることにあります。
派遣期間が決まっていたり、自治体予算の中で動く制度とは違い、地域と連携しつつも、しっかりと収益を生み出し、自律自走する持続的なポジション。
それがローカル・テレワーク・パートナーです。
なぜ、ローカル・テレワーク・パートナーが必要なのか?
「人材が欲しい企業」と「働きたい地域の人」がいるなら、マッチングで直接つなげばいい。そう思われるかもしれません。
しかし、現実はそう簡単ではありません。
実際、地域のワーカーやフリーランサー、外部人材と企業をつなぐマッチングイベントは多く開催されており、弊社もいくつかの地域で参加しています。
幸い、弊社は全国のワーカーとつながる採用制度やマネジメント体制を持っていますので、マッチングイベントを通じての就業率も高く、自治体の方からも喜んで頂き、また次回も声を掛けていただける、という有難い循環が続いています。
一方で、同じマッチングイベント内においても、地元ワーカーの地元企業へのマッチング率は非常に低いのが現状です。
せっかく地域在住のワーカーがいるのに、人手不足で悩む地域企業とマッチングしないのは非常にもったいないと感じます。
その理由は、企業とワーカー両者の間に「埋めがたい深い溝」があるからです。
【企業が求める人材】
・出社してフルタイム勤務できる
・自社にフルコミットして長く働いてくれる
・若くて将来性がある
【働き手の希望】
・毎日、もしくは週に何日かはテレワークで働きたい
・育児や介護の合間のスキマ時間で働きたい
・兼業、副業、複業として働きたい(ミドル層やシニア層)
人材不足と過疎化が進む今、企業が求める前者のような人材は確かに減っています。
一方で、テレワークやワークシェアリング、副業・複業で外部人材として働きたい後者の働き手は、数多く存在しているのです。
この二つを、いきなり直接ぶつけるとどうなるか。
企業側は、 「テレワークは信用できない」 「ノウハウがなく、そもそも業務の依頼方法が分からない」
働き手は、 「毎日出社は無理なので、テレワークOKの都心の企業の仕事をしよう」 「この地域に移住してきたいけど、仕事がないから不安」
というように、せっかく目の前に働く企業があり、働きたい人がいるのに、マッチングが成立しないという状況がおきているのです。
この両者をつなぐのが、ローカル・テレワーク・パートナーです。
企業側には、業務の切り出し方や、テレワーカーや外部人材活用の仕組みやノウハウを提供し、実際に仕事を依頼できるよう伴走支援します。
働き手に対しては、企業との契約や折衝、ディレクション等をサポートします。
また時には、両者のハブとなって、企業から業務を受け、ワーカーへ依頼するBPO事業者としての役割も担います。
企業と働き手の「分からない」や「不安」を解消し、この二つを繋げる。
そんな存在がローカル・テレワーク・パートナーなのです。
ローカル・テレワーク・パートナーの正体
ローカル・テレワーク・パートナーは、単なるリーダーや管理者ではありません。
企業と働き手の間の「防波堤」であり、「翻訳機」であり、「伴走者」です。
業務の品質を担保したり、両者の文化や考え方の通訳をしたり、仕事が円滑に回るよう、両者と一緒に伴走します。
「そんな高度なことができる人は、うちの地域にはいない」 そんな声をお聞きすることもありますが、一番大切なのは、ITスキルやノウハウではありません。
ローカル・テレワーク・パートナーに必要なのは、
・人の話を聞けること
・地域や企業に対する関心
・分からないことを分からないと言える素直さ
そして、一人で抱え込まないこと。 地域、企業、行政と手を繋いで推進していく力です。
仕組みやノウハウは、いくらでも学べます。
大切なのは、「人と仕事と地域を、よりよい形でつなぎたい」という意思です。
実際に、地元を愛し、地域住民や企業から信頼されている地域のリーダーや経営者層の方が、ノウハウを学びながら活躍しはじめています。
もちろん、その地域に愛着があり、地域の方々とコミュニケーションが取れている方であれば、移住者の方も活躍できるポジションです。
ローカル・テレワーク・パートナーがいると、何が変わるのか?
実際に、私たちが関わってきた地域では、次のような変化が起きています。
① 企業側の変化
「人が足りない」という焦りが減る
業務を整理する視点が育つ
外注=コストではなく、共創という意識に変わる
② 働く人の変化
「自分には無理」と思っていた仕事に挑戦できる
地元にいながら、やりがいある仕事に関われる
スキルが積み上がり、自信が育つ
③ 地域の変化
小さな仕事が点ではなく線になる
コミュニティとして仕事を受けられるようになる
「仕事がない地域」から「仕事を生み出せる地域」へ変わる
行政・企業・地域、それぞれの立場から見た価値
また、この仕組みは、どこか一方だけが得をするものではありません。
・行政にとって:単発事業で終わらない雇用施策になり、質のある関係人口や中間支援人材が育つ。
・企業にとって:採用リスクを抑えながら人材と出会え、地域と関わることで企業価値が高まる。
・地域にとって:働く選択肢が増え、若者や女性、シニアが役割を持てる。「住む場所」と「働く場所」が分断されなくなる。
こうした三者の利点をつなぐ存在が、ローカル・テレワーク・パートナーなのです。
おわりに──地域の未来は、「つなぐ人」から始まる
これからの地方創生は、企業誘致や、一発逆転の観光施策だけでは成り立たないと考えています。
日々の仕事があり、関係性が続き、人が育ち、次の挑戦につながっていく。 そんな“地に足のついた循環”が必要です。
地域を変えるのは、いつの時代も、「誰かのために動ける”熱”を持った人」ではないでしょうか。
地域に仕事を呼び込みたいなら、建物やIT製品等のハード面にお金を使うだけでなく、ぜひこの「パートナー(つなぎ役)を育てること」に投資して欲しいと感じています。
そしてもし、「今の働き方や地域の在り方に、少し違和感がある」「自分の経験を、誰かの役に立てたい」。そう感じている方がいたら、ぜひ、ローカル・テレワーク・パートナーという働き方に目を向けてみて欲しいと思います。
次回は 「人材流動化の時代に選ばれる会社とは?」
転職・副業・フリーランスが当たり前になった今、企業は「雇う側」から「選ばれる側」へと立場が変わっています。人が定着し、応援され、自然と人が集まる企業の共通点を、テレワーク・BPO・組織づくりの視点から紐解いていきます。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第33回 地域リーダーが拓く未来──ローカル・テレワーク・パートナーの力 〜企業と地域をつなぐ「新しいハブ人材」という選択肢〜
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- 第21回 自治体・企業・住民でつくる 地方創生テレワーク推進モデル 〜“点”で終わらせない、持続可能な三者連携とは?〜
- 第20回 「“よくわからない”を乗り越える──テレワーク導入Q&A」 〜不安を解消し、最初の一歩を踏み出すために〜
- 第19回 「“社会貢献企業”としてのテレワーク導入」 〜採用力とブランド力を高める組織戦略〜
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