企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第28回
BPOアワードから見えた未来──“外注”ではなく“共創”が、人材不足を超えていく~受賞社の取り組みが示す、これからのBPO活用の正解~
株式会社aubeBiz 酒井 晶子

1. はじめに──「人が採れない」と嘆くその前に
「求人を出しても、驚くほど反応がない」
「採用できたと思ったら、現場の忙しさについていけず辞めてしまう」
今、多くの経営者・人事の方から、こんな声を日常的に聞きます。
「うちの業界は不人気だから」「地方だから仕方ない」と、半ば諦めムードになっている方も少なくありません。
でも、少し視点を変えてみてください。
・フルタイムは難しいけれど、働きたい人
・通勤はできないけれど、スキルを持っている人
実は、社会にはこうした「眠れる戦力」が、まだまだたくさんいます。
「人手が欲しい企業」と「働きたい個人」。
この“もどかしいすれ違い”を埋め、企業の成長エンジンに変えていく鍵のひとつがBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)です。
ただし、それはかつてのような「出来るだけ安く発注する外注」ではありません。
もっと戦略的で、且つ、「仲間としての温かみ」のある、新しい経営の武器としてのBPOです。
その可能性を、事例とともに社会に示す場として、私が代表を務める株式会社aubeBizは、2025年9月10日、東京・渋谷「The Place Shibuya」にて『第1回 BPOアワード2025』を開催しました。
このコラムでは、受賞事例をご紹介しながら、 「これからのBPO活用の“正解パターン”」を、発注側の視点で整理してみたいと思います。
2. BPOアワードで見えた「未来のチーム」の姿
BPOアワードは、単に「すごいBPO会社」を表彰する場ではありません。
BPOサービスをどう提供するかだけでなく
企業とどう関係をつくるか
結果としてどんな変化・成果を生み出したか
を軸に、「これからのBPOのあり方」を可視化する試みです。
共催は、弊社のパートナー企業でもあるオンラインアシスタントサービスを展開されている株式会社TryMam様。
当日は、全国から多くの経営者・実務担当者、そして行政の方々にもお集まりいただきましたが、そこで目にしたのは、主催者側の想像を超える「進化」。
従来イメージされてきたBPO像とはまったく違う景色でした。
受賞企業の取り組みから見えてきたのは、クライアント様とのとドライな発注関係ではなく、
「社外に心強い味方を持ち、一緒に事業をつくるチーム」
としてのパートナーシップの関係性です。
「人が足りないから、外に投げる」のではなく
「会社を強くするために、社外チームと組む」
そんな、“共創”としてのBPO活用が、確かな形になりつつあることを、会場の空気からも強く感じました。
3. ガソリンスタンドがBPO拠点に?──常識を覆す受賞事例
これまでの常識を覆す象徴的な存在が、今回「審査員特別賞」を受賞された有限会社中村石油様。
社名の通り、地域のガソリンスタンドを経営している企業です。
一見すると「BPO」とは縁遠いようにも思えますが、中村石油様は、このガソリンスタンドを拠点にBPO事業を立ち上げられました。
地域の主婦・シニア・若者たちがガソリンスタンドの一角を拠点に、企業の事務代行などのバックオフィス業務をオンラインで請け負う──
という、これまでの常識をいい意味で裏切るモデルです。
背景には、
「地方には仕事がないから、若者が都会へ行ってしまう」
という課題に対して
「仕事がないなら、テレワークで“ここへ”仕事を呼べばいい」
という、発想の転換がありました。
また、「いざとなれば会いに行ける、顔の見えるテレワーク」の実現により、これまでテレワークを敬遠しがちだった地域企業からもお仕事を受注されています。
この取り組みは、
地域に新しい雇用の受け皿をつくり
都市部企業の人手不足の解消に貢献し
地域のガソリンスタンドという生活インフラの存続にもつながる
という意味で、まさに「三方よし」のBPOモデルと言えます。
「場所」や「業種」のイメージに縛られなければ、 戦力はこんなにも柔軟に生み出せる──。
中村石油様の事例は、そう教えてくれます。
4. 「言われたこと」以上を返す──それが共創パートナー
また、栄えある「グランプリ」に輝いた株式会社プライムコム様(https://prime-com.jp/)の事例からは、これからの「あるべき関係性」を学びました。
評価されたポイントは、単なる「作業代行」を超えた、“コンサルティング視点を持ったアシスタント”というスタンスです。
「これをやっておいてください」と依頼されたことを淡々とこなすのではなく、
「その目的なら、このツールを使った方が効率的です」
「このフローは二度手間なので、ここを簡略化しませんか?」
といった形で、業務改善やツール活用まで提案していく。
その結果、
発注企業の業務はスリムになり
経営者や社員は、「本来やるべき仕事」(事業開発・顧客対応・マネジメント)に集中できる
ようになっていました。
ここまで来ると、もはや立ち位置は「外注先」ではありません。
事業成長を共にデザインする“社外パートナー”です。
プライムコム様の取り組みは、
「良いBPO会社を選ぶ」とは、「良い“関係性”を育てられるパートナーを選ぶこと」だということを、改めて教えてくれます。
5. 成功の第一歩は、やっぱり「業務の切り出し」
成功している企業に共通しているのは、とてもシンプルなことです。
それは、仕事を丸ごと投げず、「一口サイズ」に“切り出して”いること。
どんなに優秀なパートナーでも、中身が見えない「一式でお願い」では力を発揮しづらくなります。
私がよくお伝えしている
「業務の切り出し(Job Decomposition)」
とは、具体的には次のようなステップです。
1.業務を書き出す
メール対応
データ入力
請求書発行
SNS投稿準備 など
2.分解する
例えば「メール対応」一つでも
お問い合わせの一次返信
社内への確認依頼
最終回答の作成
などに分かれるはずです。
3.任せられる“ひとかけら”から出す
「定型質問への一次返信だけ」
「DM発送リストの作成だけ」
「SNS投稿用の画像作成だけ」
など、成果が測りやすく、再現しやすい部分から切り出す。
そして今回のアワードで評価されたような事業者は、この「切り出し」の段階から一緒に考え、伴走してくれる存在でもあります。
「何から手をつけたらいいか分からない」
そんな段階から相談できる相手を選ぶこと。
そこが、BPO活用を成功させる第一歩だと私は思います。
6. おわりに──“抱え込まない”経営へ、一歩踏み出す
第1回BPOアワードを通じて、私があらためて確信したことがあります。
BPOは決して、「人員削減し、コストカットするための冷たいシステム」ではありません。
むしろ、
今いる社員を守り
組織の疲弊を防ぎ
地域や社会に眠る人材の力を引き出す
ための、温かいインフラになり得るということです。
すべてを自前で解決しようと歯を食いしばるのではなく、 「抱え込まない経営」 「外と手をつなぐ経営」 へと、舵を切ってみませんか。
BPOを「外注費」ではなく、
人と組織の可能性を広げる“共創の投資”として捉え直すこと。
それこそが、人材不足の時代をしなやかに生き抜き、働く一人ひとりの笑顔を取り戻していくための近道だと、私は信じています。
次回は「観光とワーケーション──関係人口を増やす新しい働き方」
BPOやテレワークによって生まれた“場所に縛られないチーム”は、今、観光地や地方自治体とも結びつき、新しい人の流れ=「関係人口」を生み始めています。
「働く」と「訪れる」の境界が溶け始めた今、 地域と企業にはどんな化学反応が起こるのか。
新しい地域共創の形について紐解きます。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
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