企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第35回

働き方とウェルビーイング──幸せが生産性を高める理由

株式会社aubeBiz  酒井 晶子

 

はじめに──「人を大切にする経営」は、成果と両立できるのか

「社員を大切にしたい」
「でも、会社として成果も出さなければならない」
経営者や人事担当者の方は、時にこの二つの間で揺れ動くことがあるのではないでしょうか。

「人を大切にすること」と「高い成果を上げること」
 この二つをバランスよく保ちながら組織運営をしていくことは難しく、「どちらかを取れば、ある程度はどちらかを犠牲にせざるを得ない」と感じている人も多いかもしれません。

しかし、私たちがBPOサービスを通じて多くの企業様のバックオフィスを支えてきた経験のなかで感じているのは、
「人が安心して力を発揮できている組織ほど、結果として強い」
ということです。

昨今、意識が高まっている「ウェルビーイング」という視点は、実は組織の生産性を高めるための、かなり強固な土台になると感じています。
一方で、
「私生活ばかりを大事にして、仕事を疎かにされては困る」
という経営者の方の懸念も、十分理解できます。
「個の幸せ」と「組織の生産性」は、相反するものなのか? それとも相乗効果を生み出すものなのか?
 この問いを、精神論ではなく「組織の構造」という視点から紐解いてみたいと思います。

1. ウェルビーイングとは「単なる幸福度」ではない

前述の通り、ここ数年、「ウェルビーイング(Well-being)」という言葉を耳にすることが増えました。
経営課題として取り組む企業も多い一方で、「甘い考えではないか」「ふわっとした理想論にすぎない」「離職を防ぐための建前」などという意見も囁かれています。

しかし、2011年から「誰もが自分らしく働ける社会」を目指し、ウェルビーイングに取り組み続けてきた私たちとしては、組織が発展するための根幹こそが、このウェルビーイングだと考えています。
私たちが考える「組織におけるウェルビーイングの本質」とは、「人が安心して本来の力を出せる状態が、組織の構造として保たれていること」を指します。
これは、働く側の心構えや「やる気」といった個人の資質に依存するものではなく、むしろ組織をどのように設計し、どのような前提で関係性を構築しているかという、経営の「設計図」の問題だと考えます。

2. 人が疲弊する組織に共通する構造

一方で、人が疲弊し、ウェルビーイングが損なわれている組織には、共通する「負の構造」が見受けられます。
これは感情の良し悪しではなく、設計の不備として捉えることができます。
ウェルビーイングの向上というと、有給休暇の取得率や、育児・介護との両立支援等の社内制度、福利厚生、報酬額などに目が行きがちです。
もちろん、それらが大切な根幹要素であることは間違いありません。しかし、そうした体制が充実しているにもかかわらず、社員の幸福度が低く、離職率が高い組織も存在します。
なぜでしょうか?
その理由の一つに、「仕事のやりがい」や「成長」を感じられないという、構造的な行き詰まりがあると考えています。

たとえば、期待値が曖昧であること
「何をどこまでやればいいのか」という基準が不明確なまま仕事を振られてしまうと、受ける側は必要以上に気を遣い、不安を感じながら業務を進めることになります。

次に、判断基準が共有されていないこと
「これ、どうすればいいですか?」といちいち上司の顔色を伺わなければ動けない状態は、働く人の自律性とやる気を奪います。

さらに、役割の属人化と「頑張り」への依存です。
マニュアル化や標準化が進まず、「あの人しか分からない」仕事が溢れている現場では、常に誰かの無理な頑張りで業務が回っています。

こうした構造的な欠陥があると、働く人は常に「そこはかとない不安」や「手応えのなさ」を蓄積させることになります。
その結果、パフォーマンスの低下や離職へと繋がっていくのは、構造上、避けられない結果なのかもしれません。

3. ウェルビーイングが高い組織で起きていること

では、ウェルビーイングが高い、いわゆる「強い組織」では何が起きているのでしょうか。
もちろん、すべてが完璧で悩みがないわけではありませんが、共通しているのは、以下の3点に集約されるように感じます。

①仕事の目的(Why)が深く共有されている
単なる作業の依頼ではなく、「なぜこの仕事が必要なのか」「誰の役に立つのか」という背景が言語化されています。

②無理が構造的に「見える化」されている
誰が、何を、どれくらい抱えているのか。その進捗はどうなのか。クラウドツールや日報などを通じて、頑張りや負荷がブラックボックス化されずに共有されています。

③相談や調整が「特別なこと」ではない文化がある
「ちょっと困っています」「この日は調整したいです」といった発信が、組織全体のパフォーマンスを維持するための正当な手段として認められています。

人が自分の力を安心して使い切るためには、こうした「余白」を許容する仕組みが不可欠ではないでしょうか。

4. 「働き方の柔軟さ」は、なぜ生産性につながるのか

テレワークや時短、ワークシェアリングといった「柔軟な働き方の制度」は、単なる社員へのサービス(福利厚生)ではなく、組織の生産性を最大化するための重要な戦略的手段です。
重要なのは「テレワークができる」という制度そのものではありません。

・自分の状況(育児、介護、体調など)を組織に対して率直に説明できること
・仕事の進め方について、現場の状況に合わせて相談ができること
・環境の変化に応じて、柔軟に役割を調整できる余白があること

こうした、個別の事情と業務の目的をすり合わせる「関係性」と「設計」が機能しているかどうかが、結果を大きく左右します。
「いざという時はテレワーク可」という選択肢があるだけでも、通勤や調整に費やしていたエネルギーを本来の仕事に注げるようになります。
「ライフステージの変化があってもキャリアを諦めずに済む」という安心感が、「だからこそ、この会社のために力を尽くしたい」という責任感へと変わっていくのです。

5. 幸せそうに働いている人が、結果を出しやすい理由

これは決して精神論ではありません。ウェルビーイングが高い状態、つまり「安心して働けている状態」がもたらす効果は、非常に実務的です。

まず、不安が少ないことで、判断のスピードが速まります。
「怒られるかもしれない」という怯えがない環境では、必要な確認や報告がタイムリーに行われ、問題の芽を早いうちに摘むことができます。

次に、組織に余白があることで、工夫や改善が生まれます。 日々の業務を回すだけで精一杯な状態では、新しいアイデアを試す余裕は持てません。少しの余裕があるからこそ、「もっとこうすれば効率的になるのではないか」という創造的な視点が育つのです。

そして、信頼されているという実感があるからこそ、自律的に責任を引き受けられるようになります。
管理されるのではなく信じられている。その感覚が、プロとしての矜持を育て、結果としてミスを減らし、チームとしての質を高めていきます。

ウェルビーイングが高いチームは、単に「心地よい」だけでなく、極めて「合理的」で「強い」集団へと進化していくのではないでしょうか。

おわりに──ウェルビーイングは「経営の姿勢」そのもの

ウェルビーイングに取り組むということは、福利厚生を充実させて社員を甘やかすことと同義ではありません。
それは、「人をどう信じ、どんな前提で仕事や組織を設計しているか」という、経営の姿勢そのものであると感じています。
すべての人を際限なく幸せにすることは不可能ですし、すべての要望に完璧に応える必要はないと思います。ただ、「人が力を出しにくくなっている構造」を見過ごさないこと。 「無理や不安」を個人の努力や我慢だけで乗り越えさせようとしないこと。
経営者がそうした不備に自覚的になり、対話を通じて仕組みを整えていこうとする姿勢そのものが、組織に安心という土壌を耕します。

ウェルビーイングとは、流行語やきれいごとではなく、「人と組織の未来に、どのように向き合うか」という、経営者としての覚悟を込めた意思表明に他ならないのではないでしょうか。


次回は「BCPとBPO──災害に強い企業の新常識」
人が安心して働ける組織。役割と仕事が整理されている組織。その先に見えてくるのが、有事にも揺らがない「事業継続」という強靭な視点です。災害やリスクから会社を守る戦略としてのBPOを、深掘りします。


 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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